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新春 Blanket of snow 3

「パパぁー もういくつねると、おしょうがつ?」 「次に目を覚ましたら、お正月になっているよ」 「えぇ! しょうなの?」  大晦日の夜、オレも菫さんもくつろいで歌番組を観ていると、眠そうに目を擦りながら、いっくんが背中に乗ってきた。 「パパぁ……パパぁ……」 「よしよし、沢山遊んだから眠たくなったんだな」 「うん……もう、ねむたいよぅ」 「パパが寝付かせてあげよう」 「うん、パパ、この子といっしょにねんねしていい?」  いっくんが大事そうに抱えているのは、『アンコパンマン』の人形だった。    幼児なら誰もが通る道、有名なキャラクターなのに、いっくんのおもちゃ箱の中にはなかった。 「めーくんのおもちゃ、だ~いすき」 「よかったな」 「いっくん、ほしかったの、いーっぱい、いーっぱい、はいってた」  クリスマス当日、夜間指定で、宗吾さんから宅配便が届いた。  中には芽生くんが小さい頃遊んだおもちゃが、一杯入っていた。  観覧車に乗ってお空のパパに挨拶をした時、いっくんがうれしそうに話してくれたことが現実になったようで本当に驚いた。 ……   「わぁぁ、おそらのパパが、いっくんにクリスマスプレゼントくれるって」 「えぇ? なにか聞こえたの?」 「うん! いっくんのすきなもの、とどくよって」 「なんだろう?」 …… 「よかったなぁ」 「うん、あのね、めーくん、だいすき。いっくんのおにいちゃんだよ。いっくんね、ずっとおにいちゃにもあいたかったんだ。パパぁ、ありがとう」 「いっくん」  いっくんの素直でいじらしい愛らしさが、好きだ。 「パパァ、ちょとだけねんねしよ」 「ははっ、いいよ。いっくんが眠るまで一緒に寝ようか」 「うれちいなぁ」  小さな手を握ってやると、いっくんが嬉しそうにオレにくっついてきた。  小さな温もりは、大切な存在だ。  オレにとって最高のクリスマスプレゼントだよ。  去年の今頃は、一人で過ごしていた。  瑞樹兄さんにしでかした大罪を、生涯粛々と暮らすことで償っていこうと、 独身寮で孤独を抱えて震えていた。  そんなオレだったのに、まさか1年後、こんな状態になっているとは夢にも思わなかった。  いっくんのお父さんになれた。  菫さんと出逢えた。  結婚出来た。  子供を授かった。  あたたかい布団で、小さな温もりに包まれている。 「潤くん……寝ちゃったの?」 「え? 今、何時?」 「もう23時半よ。年越し蕎麦を食べない?」 「おぅ、ごめんな」  慌てていっくんの布団からすり抜けると、菫さんに笑われた。 「潤くんって、普段は精悍な顔立ちなのに寝顔はあどけないのね」 「は、恥ずかしいな」 「滅多に見られないので貴重だった」 「菫さん……」  控えめに口づけをすると、菫さんは可憐に笑ってくれた。 「寝起きでポカポカの潤くん、可愛い」 「カッコいいとも言って欲しい」 「うふふ、うん、じゃあカッコいいキスをして」 「あぁ」   やがて新年。 「潤くんあけましておめでとう。出逢ってもうすぐ1年ね。私たちを見つけてくれてありがとう」 「菫さん、あけましておめでとう。去年はオレと結婚してくれてありがとう。今年はこの子がこの世に生まれるんだな」 「うん、ますます賑やかになるね。いっくんのこと、いつもありがとう」 「お礼は言わないでくれ。いっくんはもうオレの子だ」 「潤くんのそういう所が大好き。知れば知る程、好きになるわ」 過去は変えられないが、未来は変えられる。  そのためにも、毎日を大切に。  目の前にいてくれる人を、大切にしていきたい。 **** 「瑞樹くん、こっちで一緒に飲もう」 「あ、はい」 「おっと、瑞樹は俺の隣だぞ」 「あ、はい」  うさぎの着ぐるみのまま、両手をそれぞれ引っ張られた。 「まぁまぁ、あなたたち、瑞樹が困っているわよ。宗吾はうさぎの着ぐるみなのに狼みたいだし、憲吾は怪しいおじさんみたいよ」 「えぇ! 私は紳士的に誘っているだけだが」 「母さん、酷いな。うさぎが狼に見えるなんて、老眼か」 「だって、本当にそう見えるのよ」 「母さんはどっちの味方なんだよ?」 「それはもちろん、瑞樹の味方よ」 「えぇ~」  宗吾さんも憲吾さんも、同レベルで苦笑してしまう。 「僕はここがいいです」  真ん中に座ろうとすると、宗吾さんが口を尖らせる。 「瑞樹ぃ~ 左も空いているぞ」 「い、いえ、真ん中で……中立でいかせてください」 (宗吾さんには後でご褒美をあげますから) 「瑞樹くん、じゃあ、ここに座るといい」 「は、はい!」  結局、僕は宗吾さんと憲吾さんに間にちょこんと座ることになった。   「さぁ飲もう」 「あ、はい」 「この日本酒は、君のために買ってきたんだ。どうだ?」 「美味しいし、素敵なラベルですね」 「そうだろう。やっぱり君は素直でいい子だな」  クローバーのラベルの純米大吟醸で、すっきり爽やかな味わいで飲みやすかった。 「瑞樹ぃ、ビールも美味しいぞ。想くんからもらった『ラブコール』やっぱり美味しいな」 「えぇ、僕も気に入っています」 「瑞樹くん、もっとどうだ?」 「いただきます」  両方からお酌を受けることになって、ほろ酔い気分だ。  きっと顔が真っ赤になっている。  恥ずかしくて、そっとうさぎにフードを被ると、ますます身体が熱くなった。  芽生くんは、少しおしゃべりが出来るようになった彩芽ちゃんと仲良くしている。 「めーめ、めーめ」 「あやめちゃん、つみきをしようか」 「ん! ん!」  芽生くんが上手に積み上げると、彩芽ちゃんが一気に崩す。 「わぁ~ あやめちゃん、すごい!」  それが芽生くんのツボにハマったみたいで楽しそうだ。 「瑞樹、うさぎさんになっちまったのか」 「はい、もうゆでうさぎですよ」  僕は酩酊してきたのか、コクリコクリと船を漕ぎ出していた。 「兄さん飲ませ過ぎですよ」 「クリスマスに会えなかったからついな」 「楽しみにしてくれていたんですね」 「まぁな、お前達家族が来ると、彩芽も喜ぶし……その……」 「兄さんも楽しいんですね」 「まぁ……そういうことだ」  そんな会話を聞きながら、とうとうぐらりと身体が傾いてしまった。 「おっと」  宗吾さんに膝枕してもらう。  皆の前で恥ずかしいです……と言いたかったのに、強烈な睡魔に襲われ瞼を閉じてしまった。  安心して眠れる場所だから、いいですか。 「瑞樹、少し眠ってろ」 「……はい」 「安心していいよ。ここは安全で幸せな場所だから」 「……はい、僕もそう思います」    宗吾さんに膝枕してもらうのは、いつぶりかな?  縁側でお日様を浴びながらお昼寝をしている心地だ。     ぽかぽか、ほわほわ……  さぁ、また新しい1年が始まる。  

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