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新春 Blanket of snow 7
今日は最初に前置きさせて下さいね。
滝沢家の奥の和室で起きたことは、エブリスタのエッセイにて「こぼれ話」として書きました。読まなくても意味は通じるように書きましたが、読んで下さるともっと楽しくなる仕掛けです。
『新春初笑いこぼれ話』③
https://estar.jp/novels/25768518/viewer?page=761
本編も今日までは新春らしいドタバタな感じで仕上げております。
明日から徐々に通常運転にしていきますね。
それでは本編をどうぞ!
****
はぁ~ 僕は馬鹿だ。
宗吾さんの裸に反応するなんて!
このポンコツ! (ん? 使い方、合ってるのかな?)
全裸の宗吾さんに驚いたのと同時に、あまりに僕とは違う逞しい身体にドキドキしてしまった。あんなに明るい場所で隈なく全身を見ることは滅多にないので、ううう……迂闊にも見惚れてしまった。
あの身体にいつも抱かれているのかと思うと妙な熱が込み上げてきた。これ以上の刺激はまずい。とにかくパンツを穿かせようと焦っていると、お母さんと美智さんの声が廊下から聞こえてきた。
「瑞樹、後ろに隠してくれ」
「‼‼‼」
全裸の宗吾さんに背後に立たれた時、ベッドで後ろから抱かれる感覚を思い出して、こんな非常事態にも関わらず、股間のモノが半勃ちしてしまった。
「ま、まずい!」
僕は慌てて蹲り、うさ耳を引っ張って羞恥に埋もれそうな顔を隠そうとした。
落ち着け、静まれ!
僕はこんな節操のない男じゃない!
宗吾さんじゃあるまいし!
宗吾さんを助けることも出来ず、保身に走って蹲っているのも情けないやら、呆れてしまうやら。
彩芽ちゃんが襖を開けた途端、目覚めて、宗吾さんのうさぎの着ぐるみを引きずって廊下を逆走し出したのを見て安堵したのも束の間、ギョッとした。
彩芽ちゃんが宗吾さんのパンツまで引きずっていくのが見えた。
僕は下半身が疼いたままなので、もこもこの着ぐるみを着ていても直立出来ない。仕方がないので、赤ちゃんのようにハイハイして彩芽ちゃんが引きずるうさぎの着ぐるみから、宗吾さんのパンツを掴み取った。
まだ脱ぎたてのような温もりのあるパンツを抱きしめて? (何故抱きしめた?)一気に脱力した。
しばらく呆然としていると、今度は憲吾さんが血相を変えてやってきて、また大騒ぎ。
その間宗吾さんは悪びれることもなく、股間にどこから手に入れたのか分からないが大きなハート型の葉っぱをあてて、豪快に笑っている。
そ、宗吾さんってやっぱり大物だ!
僕の助けなんて、必要ないんだ。
そんな斜め上、いや斜め下の思考回路に陥って、居間の片隅で膝を抱えていじけてしまった。
でも楽しそう宗吾さんと憲吾さんの会話は気になるし、お母さんが宗吾さんの幼い頃の話をしてくれると言うので、結局折れてしまった。
「みーずき、こっちにいらっしゃいな。馬鹿なお兄ちゃんたちでごめんなさいね」
「いえ……僕こそ……なかなか復活出来なくてすみません」
「おーい、瑞樹の事情は落ち着いたのか」
「そ、宗吾さん!」
「こらっ!」
宗吾さんはペシッとお母さんに叩かれ、憲吾さんの冷ややかな視線を浴びて、今度は本気で縮こまっていた。
「まったく元はと言えば、あんな場所で裸になる宗吾が悪いのよ」
「そうだ、おまけに瑞樹くんを呼ぶなんて。瑞樹くんが気の毒だ! 目の毒だったろう、可哀想に……」
流石の宗吾さんも、手を擦り合わせて謝ってくる。
「瑞樹ぃ~ ごめんな」
「も、もういいですよ。僕も復活しましたから」
「お! もう落ち着いたのか。また夜に会おうな」
まるで僕の下半身事情をお見通しのような言い方に、耳朶が赤くなる。
そこにパタパタと可愛い足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、どうしたの? パパがまたなにかワルサした?」
「ワルサ? ははっ、芽生坊は察しがいいな。賢い子だ。将来は医者か弁護士か……」
憲吾さんがデレッと目を細める。
「ボクはお兄ちゃんのキシになるんだよ」
「芽生くん」
僕の前に立ちはだかってくれる芽生くんが可愛すぎて、一気に機嫌はすっかり直った。
ふぅ、それにしてもドタバタと慌ただしかったが、これも新春らしいのかな?
「パパ、またヘンなことしたでしょー」
「う……それはだな」
「わ、パパ、そのガウン、どうしたの?」
「これは理由があって、おじいちゃんのを借りているんだよ」
「ふぅん……おじいちゃんのにおいがするよ。そうか! おじいちゃんも参加したかったんだね」
芽生くんの言葉で、一気に場が和やかな雰囲気になる。
本当にそうかも。
新春らしい滝沢家の団欒に、天国のお父さんも参加したかったのかもしれない。
「そうかもな。俺がガウンを羽織ったの見てくれているのか。どうです? 案外俺にも似合うでしょう?」
「まぁ、宗吾ってば調子がいいことばかり。これはよーくお父さんに見張っておいてもらわないと」
「くすっ、くすっ、あはは……」
「瑞樹、やっと笑ったな」
「はい、もうなんだか色々難しく考えるのはよそうと思います」
「そうだ、もっと気軽にいこうぜ! 今年は」
僕と宗吾さんと芽生くんで、顔を見合わせて笑った。
「お兄ちゃん、うさぎさんみたいにピョンピョンだよ」
「そうだね、もっと軽やかに飛び越えていきたいよ」
****
まさか母さんの暴露話を、正月早々聞くことになるとは。
私は、この後何を聞いても受け入れられるようにと深呼吸して背筋を正して、心を整えた。
しかし……
母さんの第一声は、想像を超えるほど強烈だった。
「実はね、宗吾は女の子だったの!」
「‼‼‼」
「母さん?」
「えぇ?」
皆が騒然とする。
母さん、一体何を言い出すつもりですか。
「母さん端折りすぎでは? ちゃんと順序立って説明して下さい」
「あ、そうよね。えっとね、エコー検査で先生が女の子だって言うから、生まれるまで、ずっと信じていたのよ」
「な、なんと!」
皆、息を呑む。
一番女の子から遠い場所にいる逞しい宗吾が……!
「あら、そんなに驚くこと? それに憲吾は知っていたでしょう?」
「え? 私がですか」
「記憶にないの?」
「ないです! 赤ん坊の時から宗吾はゴツゴツした岩みたいで雄々しかったですよ」
「いいえ、よーく思い出してご覧なさい。一緒に女の子の物を用意したことを」
「……‼‼」
そういえば……
淡いピンクのタオルや産着……
あったかもしれない!
****
「パパ、いっくんね。さっきうさぎしゃんになって、そーごしゃんにあってきたんだよ」
「え? 何で宗吾さんに?」
「んー そーごしゃん、すごくこまってたよ。だからぁ」
いっくんが画用紙にクレヨンで大きな葉っぱの絵を描き出した。
「あら、いっくんハート型なのね」
「かわいい?」
「うん、何につかうの」
「こんなはっぱしゃんをね、そーごしゃんにあげたの」
「????」
いっくんの謎の台詞に、菫さんと震え上がった。
「潤くん、大変! いっくんってば、また宗吾さんに何かしちゃったのかな?」
「キャンプでは、宗吾さんの腹におもらししたよな」
「えへへ、あのね、こんどはいっくんがたすけてあげたの。そーごしゃん、すっぽんぽんだったからぁ~。ママぁ、このはっぱさんちょきちょきしてぇ」
「うん?」
宗吾さんの全裸??
俺たちは夏のキャンプで月影寺の翠さんの褌をいっくんが引っ張って全裸にさせてしまったことを思い出して、ますます真っ青になってしまった。
いっくんはうさぎさんの着ぐるみの股の部分に、菫さんが切り取った葉っぱをあてて、可愛く笑っている。
「ドロン~」
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