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新春 Blanket of snow 15

今日は最初に前置きをさせてください。 既に読んで下さっている方も多いと思いますが、エブリスタのエッセイにて『もう一人の瑞樹』という小話を連載しています。気軽に書いているのでよかったらどうぞ。スター特典にしても良かったのですが、新年ですしエッセイで全公開中にしています。他サイトの話で申し訳ないです。 ↓ https://estar.jp/novels/25768518/viewer?page=764 また創作アンケートを昨日からスタートしています。 エブリスタのプロフィールにリンクURL貼っています。 ↓ https://estar.jp/users/159459565 私の創作で推して下さる作品を3つ選んで、今後読みたい内容をリクエストしていただければ、応募完了です。まるさんメイドの「こもりんぬい」が賞品なので、ぜひご参加下さい。   では本編です。 ……    1年前 「いっくん、3歳のお誕生日おめでとう!」  小さなショートケーキに3本のキャンドルを灯すと、涙で視界が滲んでしまった。お祝いの日なのに寂しい涙を流すなんて、ダメなママだわ。 「ママ、どった?」 「いっくん、ごめんね。アンコパンマンのおもちゃ、買えなくて」 「……ママぁ、いっくんね、はっぱしゃん、ほちいの」 「はっぱ……? はっぱでいいの?」 「うん! きれーなはっぱしゃん、いっぱい、ほちーな」    そういえば職場の同僚からバラ園の無料チケットをもらったのよ。あそこなら珍しい葉っぱがあるかも!   「いっくん、次のお休みにローズガーデンに行ってみようね。いっくんの好きな葉っぱ、きっと沢山あるわよ」 「ママ、ありがと! あ……いちご、ママ、たべて」 「……いっくん」     あの人の忘れ形見のいっくん。この世に生まれる前にパパが他界するという寂しい生い立ちなのに、こんなに優しく育ってくれてありがとう。    どんなに待っても、彼はもう帰ってこない。  もう二度と会えない。  それが嫌というほど分かった三年間だった。  彼のご実家は未だに一人息子の若すぎる死を受け止められず、いっくんに関心を持ってくれることはなかった。そして私の親は心配はしてくれるけれども、高齢で体の調子も良くないので、頼るに頼れない状況よ。  だからこの三年間、孤軍奮闘で慣れない子育てをしてきたの。  私にとっても初めてのことばかりで、分からないことだらけ。  時に人を羨み、人を妬むこともあった。  それに疲れて、最後は人を避けるようになった。  今日……1月11日は、いっくんの三歳の誕生日。  なのに私以外、誰もいっくんの誕生をお祝いしてくれないなんて、ごめんね、全部ママのせいだわ。 「ママぁ?」 「いっくん……ぐすっ」  いっくんが天使のように微笑んで、私の頬にチュッとキスをしてくれた。 「ママ、えーんえーん? だーじょぶ、だーじょぶ」  早生まれのせいか、人より言葉も遅く、たどたどしいいっくんが、身振り手振りで一生懸命私を励ましてくれる。目には涙を溜めて必死に。 「いっくん、ごめんね、ママ……ごめんね」 「ママ、しゅき、しゅき」  いっくんがキョロキョロ辺りを見渡している。 「どうしたの? なにかさがしているの?」 「ママぁ……パパ……どこ?」 「うっ……」 「パパ……いたら、ママ……にこにこしゃん?」    どうか、誰か、いっくんを守って!   こんなに純真で優しい子はいないわ。 「パパぁー、パパぁ……どこでしゅか」  いっくんが突然立ち上がって玄関に向かって走り出したので、慌てて追いかけて抱き留めた。 「駄目! 駄目よ、いっくんまでいなくなったら、生きて行けない」  生きて、生きてくれ。  菫……どうか、僕の分まで生きて幸せになってくれ。  それが最後の願いだ。  あの人の言葉、もう守れそうにない。  1月15日、虚ろな気分で私はいっくんの手を引いて歩いていた。  そんな私とは裏腹に、いっくんは朝からご機嫌で自分の足でずっと歩いてくれた。まだ3歳になったばかりで抱っこが大好きだけれども、年末に腰を痛めてコルセットだから無理なの。ベビーカーの段差すら腰に響くのよ。だからいっくんが歩いてくれて良かったと胸を撫で下ろしたわ。  いよいよイングリッシュローズガーデンの門が見えてきた。  大柄なつなぎ姿の男性が、門のあたりの植栽を手入れしているのが見えた。 「ママ、ママぁ……あそこ?」 「そうよ」 「はっぱさん、いっぱい!」  いっくんが両手を大きく広げた。  いっくんの手にちょうどお日様があたって、キラキラ輝いていて見えた。  そして、そこで運命の出会いが。  …… 「菫さん、ちゃんと布団で眠った方がいいぞ」 「え? 私、転た寝していた?」 「どうした? 疲れているのか」 「潤くん、あのね」  今の、夢だったの?  そうか、潤くんに出逢うための夢を見ていたのね! 「ん? 怖い夢でも見たのか」 「ううん、違くて……」 「幸せな夢だったか」 「うん、孤独から抜け出せる夢だった」 「そうか、新年早々、縁起がいいな」 「うん!……潤くん」  私から潤くんに口づけすると、目を丸くして驚いていた。 「菫さん……」 「……すみれがいい」 「えっ?」 「うん、そう呼んで」 「いいのか、その亡くなった彼がそう呼んでいたんじゃ……」 「新年からが、潤くんにそう呼んでもらいたいの」 「あ、ありがとう! す……すみれ……」  もう一度キスをしていると、天使の声が聞こえてきた。  潤くんの膝で眠っていたいっくんが起きて、小さな手を口にあてて嬉しそうにくすくす笑っていた。砂糖菓子みたいなお顔ね。 「パパとママ、アチチ……ちち」 「え!」  私も潤くんも真っ赤っか。 「めーくんがいってたの。アチチだと、しあわせ、いっぱいくるって」 「いっくんってば」  いっくんのふっくらしたほっぺたに、私と潤くんでチュッとキスをしてあげた。 「これからは、いっくんがいっぱい幸せになる番よ」 「わぁ! うれちいなぁ」  今まで我慢した分も甘えていいのよ。  ママもパパもいるから、いっぱい甘えてスクスク大きくなってね。 ****  廊下に出ると、憲吾と宗吾が肩を寄せ合っていた。  まぁ、驚いた! 一体何があったの?  成長するにつれ、どんどん離れていった二人が、また肩を寄せ合うなんて。  なんて嬉しい光景なの!  あなたたちは幼い頃、それはそれは仲良しの兄弟だったのよ。  まさか、またこんな日が来るなんて……  私、生きていて良かった。  あなた、天国から見ていますか。  あなたの晩年の願いがようやく叶いましたよ。  きっと二人が歩み寄れたのは、瑞樹のお陰ね。 「憲吾さんと宗吾さんは最高の兄弟ですね」  瑞樹が嬉しそうに話し掛けると、憲吾が真っ先に手を差し出した。 「瑞樹くん、君も私の大切な弟の一人なんだ。おいで」  更に優しい輪が生まれたわ。  瑞樹は宗吾のパートナーであって、私の息子同然なの。  私は一呼吸置いてから、息子たちに声をかけた。 「憲吾、宗吾、瑞樹、夕食の準備を手伝ってくれる?」 「もちろん、いいですよ」 「母さん、飯、何?」 「もちろんです」  それぞれ違って、それがいいのよね。  みんな一緒じゃ面白くないわ。 「今日は、すき焼きよ!」  

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