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新春 Blanket of snow 16
「樹……いつき」
「……だあれ?」
「僕は君の……お空のパパだよ」
「おそらのぱぱ!」
「樹に話しかけるのは、二度目だね」
「にどめ? おそらのぱぱしゃん、いま、どこにいるの? みえないよ」
まっしろなくものなかにいるのかな?
どこかな? どこかな?
キョロキョロしても、こえしかきこえないよ。
「だいじょうぶだよ。見えなくてもちゃんと君を見守っているから」
「しょうなの?」
「……樹は、もうすぐ4さいだね」
「うん! いっくん、よんしゃいになるよ」
「地上の月日が経つのは相変わらず早いね。この1年間ずっと君を見守っていたよ。僕の願った通りになって安心したよ」
おほしさまが、ぴゅーっとながれていくよ。
あれ、きれい! ながれぼしかな?
「僕がいなくなって3年、菫がいよいよ弱り切って、こっちに来てしまいそうだったから、天の神様に必死に願ったよ。菫を守って支えて笑顔にしてくれる人はいませんか。樹の存在を心から喜び受け入れ、絶対に邪険にしない男性とどうか……どうか巡り合わせて下さいと。樹の3歳の誕生日祝いとして届けてやって下さいとね」
「えっと……ちょっと、むずかしいようぅ」
「あぁごめん。僕はずっと天国から菫と樹の幸せを切に願っていたよ。だから……樹にパパが来てくれてよかった」
「いっくん、あのね……おそらのパパもしゅきだよ。どっちもいっくんのパパでしょ?」
「うっ……ありがとう。地上に生まれた君と過ごすことは1日もなかったが、僕は樹を地上に残せてよかったと思っているよ。いつもママを助けて励ましてくれてありがとう。さぁ、これからは今までの分もまずはたっぷり甘えてスクスク成長しておくれ」
「おそらのパパぁ……ずっとみていてね。いっくん、うーんとおおきくなるよ」
おほしさまキラキラ。
おそらのパパの声はもうしないよ。
「ん……」
おめめが、さめちゃったよ。
そしたらね、ママとパパがチュっしてたよ。
わぁぁぁ!
めーくんがおしえてくれたアチチだ!
いっくん、みちゃった!
でも、だれにもいっちゃ、だめ。
だから、いっくんおくちをおててでおさえたよ。
そしたら、こんどはパパからチュって。
ママ、よかったぁ。
ニコニコしている。
もう、えーんえーん、してないよ。
うれしいな!
「くす、くす」
わ! だめだめ。
ないしょにしないといけないのに、うれしくて!
「あっ! いっくん、起きたのか」
「うん! えっと……パパとママ、アチチだね」
「えぇっ、見られちゃったか」
パパとママ、まっかになっちゃった!
「えっとね、めーくんがいってたの。アチチだと、しあわせ、いっぱいくるって」
「いっくんってば」
そしたらね、いっくんのほっぺに、パパとママがチュってしてくれた。
あれれ? いっくん、ぽろぽろ、ないちゃったよ。
えーんえーん、しちゃうのは、どうちてなの?
「ど、どうした? ごめんな、髭が痛かったか」
「ううん、あのね……さんしゃいのおたんじょうびに、おそらのパパからとっておきのプレゼントをもらったの、おもいだしたの」
「え? いっくん……それは何だったの?」
ママがびっくりしているよ。
「あのひ、ママのおててをひいてあるいたのはね、お空のパパのこえをきいたからなの」
「あの日って?」
「パパをみつけたひ!」
「お、お空のパパは何て?」
「さんしゃいのおたんじょうびのプレゼントは、はっぱがたくさんあるところにおいたよ。だからママといってごらんって」
「えっ……」
「すみれ、それって」
「私と潤くんの出逢いは、必然だったの?」
「オレはそう思う! オレたち出会うべくして出会ったんだ」
「潤くん……」
いっくんには、わかっていたよ。
もうすぐパパにあえるって。
だからね、すぐにパパだってわかったんだよ。
「パパぁ」
「どうした?」
「えっとね、よんだだけ!」
「よーし、お外に遊びに行くか」
「いく! ゆきしゃんであそびたいの」
「あぁ、パパも雪に触れたくなってきた。すみれ、窓から見ていてくれよ」
「ふふ、じゃあお汁粉つくっておくわ」
「わーい!」
****
いっくんにダウンコートを着せ、マフラーを巻いてやった。
「よく似合っているよ」
「めーくんの!」
「これからは、いっくんのだよ」
「あったかいねぇ」
このコートはクリスマスに東京からお古を送ってもらったものだ。大きな箱の中には流行のおもちゃだけでなく子供服も沢山入っていた。子供の成長は早いので、芽生坊のお下がりをもらえるのはとても助かる。
「でも、おてて、みえない」
「あれ? まだちょっと大きいかな? よし、袖を折ってあげよう」
「うん、えへへ」
いっくんは同年代の子供よりずっと小柄なので、もうすぐ4歳というより、もうすぐ3歳になるといった方が周りが納得するかもしれない。
俺はそんないっくんが愛おしくてたまらない。
それにいっくんの寝顔は、写真で見せてもらった赤ちゃんの時と変わっていないので、ふつふつと父性愛が沸き起こってくるんだ。あどけないおしゃべりも可愛い笑顔も、守ってやりたい気持ちを奮い立たせるものばかりだ。
俺はいっくんのゆっくりな成長と共に、父親としての気持ちをしっかり育てていけるのが嬉しい。
兄さんとの会話を、ふと思い出した。
……
「兄さん、俺、いっくんが可愛くて仕方がないんだ。今はただひたすらに甘やかして守ってやりたい。こんなのって過保護すぎるか。普通のお父さんはどうなんだ? 俺は父を知らないから分からない。兄さんの父さんは、どんな風に育ててくれた?」
「僕も小さい頃は、お父さんにしっかり守ってもらったよ」
「そうか……あのさ、でも……守られてばかりでは弱くならないか」
「どうかな? 潤は僕を見てどう思う?」
「兄さんは優しくてしなやかな人だ」
「……ありがとう、嬉しいよ。もしそう見えるのなら父さんのお陰だ。人には守ってやらないと壊れたり倒れてしまう時期がある。だから潤は、今はいっくんをとにかく守ってあげるといいよ。小さい頃にしっかり守ってもらうと、むしろ……芯の強い子に育つんじゃないかな?」
……
兄さんが、嬉しそうに笑ってくれた。
兄さんの芯の強さは、そこからなんだな。
いっくんがしゃがんで何かを見ている。
「どうした?」
「はっぱさん、おねんね」
「え?」
「ゆきのもうふみたいだねぇ」
雪の上に寒椿の葉が落ちていた。半分くらい埋もれているのが、そう見えたのだろう。
「毛布か、いいな」
「パパも、もうふ、みたい。いっくん、ふんわりつつんでくれるの」
「そうか……」
「いっくん、もうふ、だいしゅき。でもねいちばんしゅきなのは、パパ!」
いっくんの笑顔が、キラキラ輝いていた。
俺はこの笑顔を守る人になる!
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