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Blanket of snow 20
またまた、冒頭に前置きをさせて下さい。
ふと気が付いたのですが、もう1月20日なのにお話は元旦のままでした!しかもまだ終わっていないです。亀の歩みの展開になっていました。
憲吾さんと宗吾さんの兄弟仲や、お父さんのエピソード、菫さんの過去など、書きたいことが色々浮かんで、あちこちに寄り道をしてしまいました。今日から副題の『新春』は取らせていただきますね。
それからエッセイの『もう一人の瑞樹』も『重なる月』を巻き込んで、楽しくなって終わりません。今日の展開と、エブリスタで連載しているエッセイの小話はリンクしています。https://estar.jp/novels/25768518/viewer?page=775&preview=1
こんな気ままなペースですが、今年も改めて宜しくお願いします。
あと数話だけ、お正月の話を書かせてくださいね。
それでは本編です。
****
「瑞樹、私、卵色って大好きなのよ。幸せな色でしょう」
「あ……僕もそう思っていました。だから好きなのかな?」
「ふふ、あなたと私は波長が合うのね」
「そうでしょうか」
「そうよ。じゃあ一緒に作りましょうね」
お母さんが器用にボールに卵を割りほぐし、僕に渡してくれた。
「泡が立たないように切るように解すのよ」
「こうですか」
「そうよ。ここに砂糖とみりんを大さじ1、醤油小さじ1に、塩少々を加えて軽く混ぜてね」
「はい」
いよいよ卵焼き器の登場だ。強めの火にかけて熱し、油を馴染ませる。
「あ、待って。余分な油は取り除いてね。卵液を流し入れて卵焼き器の全体に行き渡らせて、表面が乾かないうちに手前に手際良く巻き込んでいくのよ」
「えっと、あっ……」
覚束ない僕の手に、お母さんがそっと触れてくれる。
「こうやって菜箸を使うといいわよ」
「こうですか」
「そうよ、上手。コツを掴んだわね。じゃあ今の繰り返して」
「はい!」
卵焼き器の空いている部分に油を塗って卵液を入れ、また手前に巻いていく。
「ふぅ、出来ました」
「上手、上手! おせちにはだし巻き卵かもしれないけれども、我が家はいつもこれ。甘みをつけて香ばしく焼き上げた味が好みなの。主人が甘い物が好きではなかったから、憲吾や宗吾には小さい頃あまりお菓子を食べさせてやれなくてね……だから卵焼きは甘めなのが我が家の味」
なるほど、もしかして、その反動で宗吾さんは無類の甘党になったのかな。
蜂蜜も練乳も大好きに。
どっちもベタベタ甘くて……
って、僕、こんな所で何を考えているんだ!
あぁ~ これはやはり月影寺に煩悩を払う座禅に行くべきかな。
とほほ……と肩を竦めると、小さなお客さんがやってきた。
「ま、ん、まー」
美智さんに手を引かれて、彩芽ちゃんがよちよち歩いてきた。
彩芽ちゃんは5月で2歳になるから、あんよもすっかり上手になっていた。
夏樹の歩き始めを、ふと思い出す。
あの子は、なんでも自分でって聞かなくて、立っちもあんよも早かったな。
転んでもすぐに笑顔で起き上がって、可愛かったな。
初めて立った日のことは、今でも覚えているよ。
夏樹ってば自画自賛して、自分で手を叩いていたよね。
「くすっ」
「瑞樹、楽しいこと思い出したの?」
「お母さん、僕の弟は初めて立った時、なんと自分で拍手をしたんですよ」
「あら、宗吾なんて、ガッツポーズしてたわ」
「えぇ! 赤ちゃんでもガッツポーズするんですか」
「宗吾はね、くまの赤ちゃんみたいだったの。で、ガッツポーズでしょ。どこをどうみても『THE 男』って感じで、準備した女の子の服は全部あげちゃったわ」
「あぁ……分かります。宗吾さんって、クマっぽいですよね」
我が家のクマのぬいぐるみを今度は思い出した。宗吾さんが出張の時は、あのクマを抱っこして眠るから、最近汚れが目立つようになってきた。
「宗吾はね、赤ちゃんの頃『くまちゃん』って愛称だったの。懐かしいわ」
「えぇ! くまさんと縁があるなんて。なんだか僕の知らない秘話が、どんどん出て来ますね」
「台所に一緒に立ってくれる人だけの、よもやま話よ」
「嬉しいです。もっと教えて下さい」
お母さんと和気藹々していると、美智さんも途中から憲吾さんに彩芽ちゃんを預けて混ざってくれた。
「さぁ、美智さんも手伝ってくれたから、早かったわ。二人ともありがとう。そろそろご飯にしましょう。すき焼きの味付けは憲吾と宗吾に任せて、私たちはもうゆっくりしましょう」
居間に戻ると、芽生くんが走って来た。
「あー お兄ちゃん~」
ポスッと僕の足に顔を埋めるのは、少し甘えたい合図だね。
「芽生くん、お待たせ。あとはパパに任せて、お兄ちゃんと一緒にご飯食べようね」
「もうお兄ちゃんはいいの?」
「うん、芽生くんの傍にいるよ」
「わぁ……うんうん、それがいいよぅ」
芽生くんがまた僕にギュッとしがみつく。
もう8歳だけど、まだ8歳、もっともっと甘えていいんだよ。
僕は今、お母さんに甘えてきたから、今度は芽生くんが甘える番だよ。
優しく頭を撫でてあげると、芽生くんは嬉しそうに目を瞑った。
「お兄ちゃん、ボク、おもくない?」
「まだまだ今年も大丈夫だよ」
「よかったぁ」
まだまだ甘えていいんだよ。
そんな気持ちを届けてあげたかった。
「あのね、お外をみていたら、どんどん雪がつもって、けしきがかわっていくのがね、ちょっとだけこわかったんだ」
「どうして?」
「お兄ちゃんがみえなくなりそうで」
「僕はずっとここにいるよ。ここが大好きなんだ。そうしてもいいかな?」
「うん! いいよ! もちろんだよ!」
笑顔の花が咲く。
「雪はね、毛布みたいに見えない? みんなの疲れを取ってくれる優しい毛布なんだよ……そう考えたら暖かい気持ちになれるよ」
「あ……ほんとうだ。そうおもったら、こわくなくなったよ」
「良かった」
もう一度抱っこしなおして、芽生くんと一緒の窓の外を見た。
もう辺りはすっかり暗くなってしまったが、心の中は明るかった。
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