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Blanket of snow 22
【お知らせ】あとで消します。
本日(1/22 23時59分)までで創作アンケート実施中です。
【2023年新春企画】志生帆 海の創作で、あなたが推して下さる作品は何ですか。
今後どんな内容の話を読みたいか具体的にリクエストしちゃって下さい。今年の創作の糧にさせて下さいね! 投票する際に、理由を書く場所があるので、そこにご記入下さい。リクエストされたお話が現実になる可能性も大です。お名前を記名してご参加してくださった方、抽選で三名様に【こもりんぬい】をプレゼントします。詳しくはエッセイにて。
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https://estar.jp/users/159459565
ついに『Blanket of snow』最終話です。明日からは新展開で。
『Blanket of snow 22』
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憲吾と宗吾が、仲良く台所に立っているわ。
これは滅多に拝めない光景よね。
いえ、もしかしたら、これからは毎年恒例になるかもしれないわ。
何を話しているのかは聞こえないけれども、二人とも寛いだ表情を浮かべている。
あなたたちの素の表情はいいわね。
男兄弟だから、腹を割って話せることもあるでしょう。
沢山、話しなさい。
お互いの殻を破って……過去の後悔もあなたたちなら話し合える。
「お父さん見ていますか。宗吾はようやく長い旅を終えたようですよ」
大学入学と共に一人暮らしを始めたいと宗吾が言い出した時、都内から都内の大学に通うのに、どうして一人暮らしをしたいのか理由が分からず、私は反対した。でもお父さんと憲吾は、最後には応援したのよね。後になって「どうして許したの?」と聞いたら、二人とも「かわいい子には旅をさせよ」と口を揃えていたわ。
宗吾は自由気ままで、そのまま家に寄りつかなくなってしまったけれどね。
まぁ、もういいわ。振り返っても過去は変えられない。
そんな宗吾が今では逞しい父親似となり、大らかな優しさで瑞樹くんを包むようになった。そして芽生は瑞樹くんに心を許して甘えているわ。甘えられる存在、心を休められる場所って、お母さんがいないくてもちゃんと出来ていくのね。
芽生は瑞樹に抱っこされて、一緒に窓の外を見ていた。
おばあちゃんはね、芽生が瑞樹に思いっきり甘えている様子をみるとホッとするのよ。
瑞樹、芽生を愛してくれてありがとう。私だけでは補えきれなかった愛情を届けてくれて、ありがとう。
二人の笑顔が、窓硝子に映っているわ。
ふふ、とっても幸せそうね。
私も、しんしんと音もなく降り積もる雪に、満ち足りた人生を感じていた。
まだまだお父さんの分も、この子たちの成長を見守りたいわ。
今年も、元気に健康で過ごせますように。
この歳になったら、それが一番の願いよ。
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「瑞樹、どうだ? 旨いか」
「はい、とっても美味しいですね」
「よしよし、牛肉もっと食うか」
「はい、あの、牛肉も美味しいですね」
「あ、そっか、北海道は豚でやるのか。ごめんな、口に合うか」
「僕はもう10年以上こっちにいるので、関東の味にすっかり慣れましたよ」
「そうか、そんなになるのか」
「はい。それにしても宗吾さんと憲吾さんの味付け、絶妙ですよ。息が合っている味がしますね」
ニコッと微笑む瑞樹の様子に、安堵した。
先ほど兄さんと離婚当日のことを話したせいか。今日は妙にしみじみと彼の笑顔に癒やされる。
瑞樹を最初に見かけた瞬間は、今でもはっきり思い出せる。
心を動かされた瞬間だから。
玲子は芽生を幼稚園までわざわざ徒歩通園させていたが、俺は時間が合わないのでバス通園に変更した。
幼稚園バスの停留所は、お母さんたちの社交場。
最初は馴染めなかった。馴染めるはずもなかった。
全く関心がなかった世界だったから。
俺がまさかシングルファザーになるなんて、夢にも思っていなかった。
すぐに弁護士がやってきてあっという間に離婚。
待ち受けていたのは、厳しい現実だった。
突然、自分の時間が消えた。自分の準備以外に芽生を起こし制服を着せて、朝食を食べさせて、洗濯をして掃除をして、バス停に走った。
最初はお母さん達の井戸端会議に入れず、バスが到着するまでの間、芽生と手をつないで、ぼーっと景色を眺めていたよな。
バスのお迎えの時間はいつも決まっていたから、毎朝同じ時間に同じ場所に立つと、ある法則に気が付いた。住宅街から駅までの下り坂、行き交う人の顔ぶれがだいたい同じだ。坂道を全速力で走り抜ける男子高校生、手を繋いではしゃぐ楽しそうな母と娘。重たそうなランドセルを背負った小学生の列に、ネクタイが曲がった寝ぐせの強いサラリーマン。
その次に、いつも瑞樹が現れた。
瑞樹は、いつも明るい朝日を浴び、隣を歩く同い年位の青年と朗らかに笑い合っていた。伏し目がちに笑う仕草が可愛くて、明るい栗色の髪に朝日があたり天使の輪が出来るのも印象的で、荒んだ心が癒やされた。
あの子、癒やされるな。
まるで天使みたいな子だな。
当時の瑞樹は一馬と付き合っていたから、手が届かない存在だった。
俺も次に恋をするなら、あんな風に優しい笑顔を浴びてみたいと憧れていた。
やがて季節は巡り、桜の季節になった。
バス停にも慣れ、持ち前の性格で、積極的にお母さんたちの輪にも入ってみた。だが瑞樹がやってくると、どうしても目が彼を追ってしまう。
満開の桜の坂をグレーのスーツを着た二人が、いつものように下りてきた。
そこに強風が吹き、大量の桜吹雪が舞った。
瑞樹の柔らかな髪にも桜の花びらがついて、可憐だった。
取ってやりたいような、そのままでいて欲しいような、甘酸っぱい気持ちを抱いてしまった。
衝動的に一歩踏み出してしまうほどに……
その時、相手の男が腕時計を見て瑞樹に声をかけ、そのまま走り出した。
瑞樹もすぐに後を追って走り出した。
瑞樹は柔らかい雰囲気から一転して、颯爽とした綺麗な走りだった。
惚れた。
あぁ、いいな。
柔らかさと爽やかさを持ち合わせた君が好きだ。
だが、君は手が届かない場所にいる。
そんな思いで、拳を握った。
「宗吾さん、大丈夫ですか」
「あぁ、今日はいろんなことを思い出してしまうよ」
「そんな時は雪を見ると落ち着きますよ。雪は全てをなだらかにしてくれます。ざわつく心もフラットに……」
「そうだな、君が俺の横にいてくれるのが、まだ信じられなくてな」
「え?」
「その……俺には手が届かない人だと思っていたから……ずっと憧れていたんだ」
「そんな……僕はずっとここにいます。宗吾さんの目の前に……今年も来年も再来年も……ずっと」
その晩、俺たちは実家に泊まった。
用意された部屋は、なんと父さんの部屋だった。
「か、母さん、ここ……俺が使っていいのか」
「もちろんよ、お父さんね。生前にこう言っていたわ。『宗吾がいつかこの部屋に入れるようになったら、いつでも自由に使ってくれ。いつでも帰って来られる部屋として提供してやって欲しい』
「そうか……だから今日なんだな」
「もう、大丈夫よね」
「あぁ、もう大丈夫だ」
二組の布団を敷いてもらい、俺たちは眠った。
「宗吾さん……お父さんとの距離縮まって良かったですね」
「不思議だな。父さんは、もういないから、1 mmも近づけないと思っていたのに……」
「お父さんはこの部屋に、沢山の心を残してくれていたのですね」
「もう姿は見えないのに、心を置いて、待っていてくれたようだ」
「はい。だから……この部屋、落ち着きますね」
「昔は入るのが怖かったよ」
「もう怖くないですね」
「あぁ、君もいるからな」
瑞樹は優しく微笑んで、毛布を引き上げた。
「白い毛布って、いいですね」
「雪みたいだな……うちの毛布も白にするか」
「素敵ですね」
二人でそっと手をつないで、見つめ合った。
しんしんと降り積もる雪は冷たいのに、白い毛布に包まれた身体は温かい。
これが俺たちの新しい年の幕開けだ。
今年も沢山の思い出作ろう。
芽生も成長し、この先、色んな事があるだろう。
俺は、いつもずっと君と乗り越えていくよ。
「瑞樹、今年もよろしくな」
「はい、僕のほうこそ」
Blanket of snow 了
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