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幸せが集う場所 7

「みっちゃん、このアレンジでどうだ?」    早起きして作った花束を見せると、みっちゃんも笑顔を浮かべてくれた。 「あら、ミモザを使ったのね」 「あぁ、取り寄せたんだ。北国の春はまだまだ先だが、東京では最近は桜が3月半ばに開花するそうだ。だから春の足音が聞こえてくるようなブーケを贈ってやりたくなってさ」 「素敵! ヒロくんの気持ち、届くね」 「……みっちゃん、甥っ子の入院ってキツいな。本気で心配だった」  可愛い芽生坊とは、血は繋がっていない。  瑞樹と芽生坊も繋がっていない。  だが、そんなの関係ない!  そんなこと言ったら、俺と瑞樹だって繋がっていない。  問題は心だ。  心が繋がっているか否かなんだ! 「うん、分かる。芽生くんいい子だもん。瑞樹くんに育てられているからなのかな? もともと明るくて愛らしい子供だったけど、成長するにつれ、どんどん思いやりのある優しい子になって、私も大好き」 「優美ともいっぱい遊んでくれるしな」 「また会いたいわ。あ、これ朝一で出すんでしょう。私が出してくるわ」 「ありがとう。明日、退院祝いをすると言っていたから、間に合うあかな?」 「航空便指定にするので大丈夫よ。ちゃんと届くわ」    優美は眠っているのを確認してから、俺は店のシャッターを開け、力仕事を始めた。  繊細で美しい花を扱う仕事だが、実際は水仕事、力仕事が山ほどある。  これを母さんは何十年もやってきたのか。  母さん、今までずっとありがとう。  知れば知る程感謝の気持ちが募るよ。  芽生坊が退院したのを見届けてから、お父さんと新婚旅行で江ノ島や鎌倉に行くと行っていたが、楽しんでいるだろうか。  俺の新しいお父さんは、長い間引きこもっていたとは思えないほど、今はアクティブだ。ずっと函館から出たこともなかった、出る暇もなかった母さんを色んな所に連れて行ってくれる。母さんにとっては見る物全てが新鮮なんだろうな。昨日は由比ヶ浜という海岸で撮影したさくら貝の写真を送ってきたな。  さくら貝だけでなく、お母さんの笑顔の写真も沢山な。  愛情を受けると、人は輝く。  愛情は、お日様のように、人を育て、人を満たしてくれるんだな。 ****  仕事が早く上がったので、すみれに連絡していっくんを保育園まで迎えにいった。  いっくんは俺を見ると、弾ける笑顔で飛びついてくれた。  あー 可愛いな。  こんなに俺を信じて懐いてくれて、ありがとう! 「パパぁ~ パパだ! あいたかったよぅ」 「よしよし、いい子にしてたか」 「うん! いま、したくしてくるね。パパ、どこにもいかないでね」  いっくんが保育園の通園バッグをさげて慌てて飛び出してくる。 「いっくん、コートは?」 「わ! わすれちゃった」  いっくんが慌てて戻ろうとして、コテッと転んでしまった。 「大丈夫か!」 「うん、パパがいるからだいじょうぶ」 「そっか、ありがとうな」  こんなに全身全霊で慕ってくれて、頭の天辺から足のつま先まで信じてくれてありがとう。 「パパ、かえろう!」 「あ、ちょっと待て」  コートのボタンをかけちがえていたので、兄さんがしてくれたようにしゃがんで下から一つ一つ留めてあげる。 「いいか、見える所からしっかりとめていけば、大丈夫。間違わないよ」  兄さんがよく言っていた言葉を思い出す。  ちゃんと見える所から、一つ一つ丁寧に。  人間関係も同じ。焦らず積み重ねていこう。  いっくんにマフラーをまいて、手袋をつけてやる。  するといっくんが右手の手袋をすぐに外してしまった。 「どうした?」 「こっちのおててはぱぱとつなぐから、いらないもん。パパのおてて、あったかいから」 「いっくん……」 「えへへ」  心が温かいと言われているような気がして、嬉しくなった。 「そうだ、いっくん、パパと買い物にいこう」 「うん! なにをかうの?」 「芽生坊に退院祝いを贈りたいんだ」 「わぁ、いっくんもさがすよ」 「あぁ」  退院祝いといっても、来月東京に行く旅費をさっ引くと大したものは買えない。ということで地元密着スーパー『カメヤ』にやってきた。 「わぁ、しゅーぱーだ!」 「いっくんにもお菓子を買ってやるよ」 「ううん、だめだめ……よけいないものだもん」 「えっ」  そっか、勝手に買ったら怒られるかな?  でも何か買ってやりたいな。 「パパぁ、めーくんになにをかうの?」 「そうだな、ジャムはどうかな? このスーパーオリジナルのがあったよな」 「それなら、こっちだよぅ」  いっくんが嬉しそうに手を引いてつれていってくれる。 「あったあった! 何味がいいかな?」 「めーくんは、ぶるーべりーがすきだって」 「お! 情報通だな。さてはキャンプの時に?」 「うん、いっぱいすきなものおしえてくれたよ」 「いっくんも教えたのか」 「うん! いっくんはパパがしゅき!って、おしえたよ」  ううう、ヤバイ、泣くっ! 「そうしたら、めーくんはみーくんがしゅきって」  ううう、これも泣ける。  慕われるって、幸せになれることなんだな。  信じるって、愛するってことなんだな。  おれはいっくんを通して、素直な愛を学んでいる。 「いっくんは何味が好きなんだ?」 「いっくんはいちご!」  お! オレも苺が好きだぜ。  気が合うな。  苺ジャムが好きになったのは、たぶん瑞樹兄さんの影響だ。  兄さんが苺ジャムを食べる時、いつもより甘い笑顔になるのに気付いてしまってから、オレはいつも苺ジャムを無意識で選んでいた。 「じゃあ、いちごも買おう。小さいのはいっくん用な」 「わ、わぁ!」  ブルーベリーと苺ジャムの大瓶と苺ジャムの小瓶を抱えて、レジに向かう。  お菓子売り場を通ったので、いっくんが大好きなあんこぱんまんの顔のチョコレートを持たしてやると、いっくんがびっくりした顔をした。 「ほら、これどうだ?」 「え! いいの? これ、かってくれるの」  100円でおつりがくるから、オレにだって買えるさ。 「もちろん、たまにはいいんじゃないか」 「う……うれちい! あ、あのね、パパ、ひとつだけおねがいあって」 「他のも欲しいのか」 「あ、あのね、パパのしゅきなのもかって」  オレの好きなもの?    それは、もちろん決まってるよ。 「いっくんだよ。いっくんと一緒にご飯を食べると、それだけで美味しくなるよ」 「えっとぅ、いっくん……おいちいの?」 「ははっ。ママの作ってくれるご飯はすごく美味しいし、家族で食べるともっと美味しくなるってことだよ」 「いっくんもしょうおもう。ママね、とってもおりょうりじょうずなの。いっくんのママだもん」 「パパもそう思う! 腹減ってきたな。早くママの所に戻ろう!」 **** 「瑞樹、どうした?」  ブルーベリーと苺のジャムを見つめて、瑞樹が微笑んでいた。 「これ、きっと……潤といっくんで仲良く選んでくれたのでしょうね」 「そうだろうな。芽生はブルーベリージャムが大好きだからよかったな」 「はい。あ、あの……苺ジャムも嬉しいですね。僕……好きなので嬉しいです」 「なるほど、流石、潤のセレクトだけあるな。君の好きなもの教えてもらえるのが嬉しいよ」  そうだ、瑞樹。  もっともっと君のことを教えてくれよ。  君のこと、もっと知りたいんだ。  好きだから、歩み寄りたくなるものさ!

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