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幸せが集う場所 9

「いっくん、じゃあここに詰めてくれるか」 「うん! わかった。よいしょ、よいしょ」  いっくんが大事そうに抱えていたブルーベリージャムを持ち上げて、箱にそっと詰めてくれた。  小さいな。  本当に小さな手だ。  この手で、必死にすみれと二人で支え合って生きてきたんだな。  そう思うと泣けてくる。  オレ、いっくんのまっすぐで素直な所が好きだ。 「パパぁ、できたよ」 「よーし、上手に出来たな」 「まって! めーくんにおてがみをいれてもいい?」 「もちろんいいよ」  いっくんはまだ字が書けない。  だが、本人は文字を書いているつもりなのが可愛い。  俺には読めないが、愛が詰まっている。 「パパぁ、めーくんって、すごくやさしいんだよ。それからかっこいいの。サッカーもとってもじょうずなんだよ」 「うんうん、そうだよな」 「いっくんのおにいちゃん、だいしゅき」  いっくんがおてがみにスリスリと頬ずりしている。 「よし! じゃあ、パパが荷物を出してくるから、いっくんはお留守番な」 「わかった。パパぁ、きをつけてね」 「やさしいな、いっくんは」  明るい栗色の髪を優しく撫でてやると、いっくんは猫のように気持ちよさそうに目を閉じた。  愛情って、尽きることなんてないんだな。  贈るとまたもらえて、もらえると、また贈りたくなる。  オレそんなことに気付けず、いつも独り占めしていた。広樹兄さんの愛も、母さんの愛も独り占めしたくて、瑞樹兄さんを邪険に扱ってしまった。  いっくんといると、俺自身が成長できる。  いっくんといると、学ぶことだらけだ。  いっくんへの父性がどんどん膨らんでいくよ。  オレをこんな気持ちにさせてくれてありがとう。 **** 「お! 芽生、いっくんからの手紙が入っているぞ」 「わぁ、いっくんの字だ~ うれしいな」 「芽生には何が書いてあるのか読めるのか」 「うん、あんごうみたいだけど、わかるよ」  芽生が嬉しそうに手紙を抱きしめると、いっくんの笑顔が重なって見えた。  芽生といっくん、二人がこの世で出逢えてよかった。  瑞樹と俺が繋がったことにより、こんなにも俺の世界は広がった。  居間で寛ぐお父さんとお母さん、憲吾兄さんたち、母さんの顔を見渡して、しみじみと穏やかで温かい心地になった。  その後、退院パーティーのお開きの挨拶は、俺がした。 「皆のお陰で芽生は元気に退院出来ました。入院中、俺たち家族を支えてくれてありがとうございました」 「ありがとうございます」 「ありがとう!」    瑞樹と芽生も一緒にこりと頭を下げる。 「よしよし、元気が一番だが、これからも何かあったら躊躇わずに頼って欲しい。俺たちの間に遠慮は無用だ」 「お父さん、ありがとうございます。家のこと、本当に助かりました」 「同居気分で楽しかったよ。さてと飛行機に時間があるから、そろそろお暇するよ」 「あ……お父さん、もう帰ってしまうの?」  瑞樹が少し名残惜しそうな声を出す。 「みーくん、今度はみーくんたちが遊びにおいで」 「あ……はい。また帰省しますね」 「待ってるよ」  お父さんが瑞樹の栗色の髪を優しく撫でると、瑞樹は小さな子供のように目を閉じて優しく微笑んだ。いくつになっても子供は子供で、親に優しくされると嬉しくなるもんだな。 「宗吾くん、君も待ってるよ」 「わ!」  お父さんにガバッと肩を組まれて、照れ臭くなった。  同時に嬉しくなった。  また父と呼べる人が出来て。  月曜日からは、またいつもの毎日が始まった。  芽生は寒さに負けず元気に学校へ通い出し、俺と瑞樹は家事と子育て、仕事と大忙しだが充実した日々を過ごしている。  毎日が規則正しく変わらずに過ぎていくことの尊さを知る、1年の始まりだった。 「宗吾さん、やっといつもの日々が戻ってきましたね」 「あぁ、芽生が退院してから10日間か……恙なく過ごせて安心したよ。なぁ、瑞樹の方の疲れは取れたか。手はもう痛まないか」 「もう……大丈夫ですよ。ほら」  俺に見せてくれた手の平を持って、そこに、そっとキスをした。  週末だ。  明日は休みだ。  だから…… 「……そろそろいいか」 「あ……」  瑞樹が頬を染めて俯く。  常に恥じらいを忘れない君が好きだ。 「……はい……僕もそのつもりです」 「お! いいな。素直な言葉が出たな」  ガバッと抱き寄せると、瑞樹も俺の背中に手を回してくっついてくれた。 「うっ……我慢していたんですよ……僕だって男です。あなたに欲情しています」 「瑞樹ぃ~ うれしいよ!」  俺は瑞樹を久しぶりに思い切りベッドへと押し倒した。  甘い、甘い、恋人たちの夜が、ようやく……やってくる!      

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