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幸せが集う場所 28

「芽生くん、元気になって良かったね」 「うん! 今日はね、ずっとワクワク、ドキドキしているんだ」 「それは良かった」    ボク、朝からずっと元気だよ!  タイインして、しばらくは体が重たかったけれども、日に日によくなってきたよ。  ボクが笑うと、お兄ちゃんもパパも笑ってくれる。  ボクが元気だと、お兄ちゃんもパパも元気になる。  だからボクは、元気でいたいんだ。 「スイさん、あのね、ボクはずっと……元気なのはあたりまえだと思っていたけど、ちがったよ。だから、元気でいられることがうれしいんだ」 「芽生くん、とても大切なことに気付けたね。心も身体もすっかり元気な証拠だ」 「タイインしてから毎日がたのしいよ」 「それは笑顔が幸せを運んで来てくれるからだよ。君の笑顔は本当に明るくていいね」  すると、いっくんがかわいいお顔をのぞかせたよ。 「すいしゃん、いっくんは? いっくんもかわいい?」 「もちろんいっくんもだよ。君はとても好奇心があっていいね」 「こ……うきしんってぇ?」 「えっと、平たくいうと、ワクワクする心のことだよ」 「いっくんね、今、しゅごくドキドキワクワクしていましゅ」  いっくんって、いちいち仕草がかわいいなぁ。胸に手をあてて、頬をさくらんぼみたい赤くしているよ。 「いっくんは、とても素直でいい子だね」 「いっくんね、パパにあえたからうれしくて、まいにちはっぴぃなの」 「くすっ、本当に可愛い子たちだ」  ボクたちはスイさんに手をつないでもらって、ごきげんだよ。 「すいさん、どこでサッカーするの?」 「そうだね、物干し場の芝生が丁度いいかも」 「どこ?」 「あそこだよ」  物干しには茶色のものが乗っかっていたので、いっくんがこわそうに、スイさんにしがみついたよ。 「すいしゃんー あれなに? オバケぇ?」 「いや……あれは……」  近くで見たら、さっきお風呂で遊んだアザラシだった。  よかった!  「なーんだ、あざらししゃんだ」 「そうだね」 「今度はここにいたんでちゅか。しゅごーい」  いっくんが目をキラキラさせている。 「あざらししゃんとまたあそびたいな」  アザラシさんを見上げていると、とつぜんドサッと落ちてきた。 「危ない!」  スイさんがかばってくれたからボクたちは無事だけど、たいへん!  スイさんの上にあざらししゃんがのってる! 「わぁー! すいしゃーん」 「タイヘンだ。リュウくんをよびに行こう」 「あい! たいへんでしゅー! たいへんでしゅー すいしゃんがたいへーんでしゅよー リューくん! どこでしゅかー」 「リュウくーん! どこですかー あっ、わぁー」  ろうかをはしっていたら、水たまりがあってすべっちゃった。  お尻がちゃぽんとつかって、つめたいよ。 「いっくん、だいじょうぶ?」  いっくんは最初はキョトンとしていたけど、その後泣いちゃった。  わわ! いっくん、ごめん。ボクがついていたのに、守ってあげられなくて。 「う、わーん! いたいよー いたいよー パパぁー パパぁー」  ボクもつられて泣いちゃった。  なんだか、いっくんみたいに甘えたくなったんだ。 「ぐすっ、いたいよ……おにいちゃーん、お尻がきもちわるいよぉ」  そうしたらね、ジュンくんとお兄ちゃんがすっとんで来てくれた。  二人ともスーパーマンみたいでかっこいい! 「いっくん、大丈夫か」 「芽生くん、痛かったね」 「いっくん、おちりつめたいよぅ おもらちしたのかなぁー」 「お兄ちゃん、どうしよう、おもらしなんかしてないよ」 「うんうん、水たまりに浸かってしまったんだね。着替えないと駄目そうだね」  リュウくんがろうかをふいてくれた。 「悪かったな。雨漏りが溜っていたようだ。とにかく着替えを。そうだ皆で風呂にどうぞ。洋服は洗濯しておくので作務衣を着てくれ」  リュウくんはそのままびゅーんとお庭を走って行ったよ。  あ、そうか!   リュウくんもスーパーマンなんだね。  スイさんをたすけにいくの、カッコいい! ****  子供たちがズボンを濡らしてしまったので、風呂を借りることにした。もともと今日は月影寺の宿坊に泊まらせてもらう予定だったから、これもありか。  この状況は家族風呂を超えて、潤といっくんも一緒なので親戚風呂とでもいうのか。  人生楽しまなくちゃ損だ!  俺はウキウキと脱衣場でポイポイと衣類を脱ぎした。  子供たちも俺に続く。(子供は脱ぐの好きだもんなー)  それを見ていた瑞樹と潤も洋服を脱ぎだした。  ははっ、見事に裸族だよなぁ。  みーんな男だから気兼ねなくていい。 「あー いい湯だな。足を伸ばしてゆっくり浸かるのはいつぶりだろう」 「はい、とてもいいお湯ですね」  ここでさっき翠と流が戯れていたのかと想像すると、ついニヤけてしまった。 「……パパぁ、鼻の下ちゅういほうでてるよ」 「おっと」(子供の前だ。油断大敵だ) 「そ、宗吾さんはもう」 「ははっ 瑞樹ぃ~ 南国トロピカル風呂は最高だな」 「もうっ! ……困ります」 「ごめん、ごめん」  いっくんと潤の様子を窺うと、こちらが照れてしまうほど幸せそうだった。  溺愛という言葉がぴったりだ。 「パパぁ、いっくん、おもらちちて、ごめんなしゃい」 「いっくん、あれはおもらしじゃないよ。だから大丈夫だ」 「しょうなの? いっくんびっくりちて、またおもらち、ちゃったかなって」 「違うよ。よしよしパパとお風呂に入ろうな」 「うん、パパとおぶちゃん、だいしゅき」 「そうか、そうか」  ドボンとつかると、いっくんが潤にくっつく。  コアラの赤ちゃんみたいにギュッと。   「パパぁ、このおふろ、ひろいねぇ」 「あぁ、そうだな」 「でも、いっくん、パパのおそばがいいでしゅ♡」  湯船でいっくんはキャッキャッとはしゃぎ出した。 「パパぁ、パパぁ、いっくんのパパぁ~🎵」  ごきげんで歌まで口ずさんで、可愛いな。  それを見た芽生が、瑞樹の膝に乗りたがる。 「だめ?」 「いいよ! おいで」  芽生が甘えたい時見せる仕草だ。  瑞樹もうれしそうに、芽生を膝にのせて抱きしめてくれる。  瑞樹はいつも愛情をこめて、芽生を可愛がってくれる。  本当に幸せな瞬間だ。 「お兄ちゃん、いっくんとジュンくんってなかよしおやこだね」 「本当に仲良しさんだね。芽生くんと僕も仲良しだよ」 「えへへ、お兄ちゃんと広いお風呂はいるの久しぶりだね」  顔を見合わせてにっこりし合う様子に、仕事で体は疲れてヘトヘトだったが、心はぽかぽかになった。今年は例年のようにスキー旅行は出来なかったが、芽生の入院を通して家族の絆が一層強くなり、距離が近づいた。 「お兄ちゃん大好き! パパも大好き! ボク、しあわせだな~」  芽生は病気になってからよく「しあわせ」という言葉を使うようになった。  その言葉を受けて、瑞樹も微笑む。 「宗吾さん、こんな風にみんなでお風呂に入れるのって楽しいですね。僕はこういう瞬間が大好きです」 「あぁ、人生って小さな幸せを重ねていくものなんだな。だからこそ俺たちはいつまでも小さな幸せに気付ける大人でありたいな」 「はい、本当にそう思います」  そっと湯船の中で、瑞樹と手を繋いだ。  瑞樹は目元を染めて俯いた。 「顔を上げてくれ」 「……はい」  可憐な君の笑顔が見えた。  これは夢でも幻でもない。  憧れに手が届く瞬間に、幸せを噛みしめた。  **** 補足…… 今日もお風呂のシーンで終わってしまいました。 4月26日は『よい風呂の日』だったので。 さぁそろそろお話を進めていきます。 間もなく5月、瑞樹の誕生日がやってきます♡

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