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白薔薇の祝福 12
広樹兄さんからのエールに、涙腺が崩壊する寸前だった。
兄さんがいてくれたから、僕はここまで生きてこられた。
あの日は本当にごめんなさい。
あの世へ行く切符が欲しいなんて強請ってしまって――
あの日、兄さんが僕が必要だと泣きながら言ってくれたこと、一生忘れないよ。
ずっとずっと、この先も僕を見守って欲しい。
ずっと僕のお兄ちゃんでいてね。
「うっ……ぐすっ」
駄目だ。
今、涙を流すと大好きな兄さんの顔が見えなくなってしまう。
それに泣き顔よりも笑顔を見て欲しくて、ぐっと堪えた。
「次は潤だぞ」
次は潤に会えるんだ。
宗吾さん、ありがとうございます。こんな風に今日皆に会えると思っていなかったので、嬉しくてたまりません。
宗吾さんからの贈り物は『心』だ。
宗吾さんらしく近代的なアイテムを駆使して、『人が人を大切に思う優しい心』をしっかり繋げてもらった。
「瑞樹、潤の家に切り替えるぞ」
「はい」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ボクもいっくんに会えるの?」
「うん、芽生くん、こっちにおいで」
芽生くんが嬉しそうに僕の膝に座った。
すると画面いっぱいに、いっくんの顔が映った。
「いっくん、もう少し下がってごらん」
「うん、あー めーくんだぁ」
芽生くんも興奮気味に身を乗り出す。
「いっくんー みえる?」
「みえるよー」
手をぶんぶん振り合う様子に、ほっこりする。
ふたりは本当に仲良しだ。
芽生くんにとっても、いっくんにとっても、本当に良い出会いだった。
いっくんから真っ先にお祝いの言葉をもらって、じーんとした。
こんなに小さいのに、自分のことだけでなく僕を気にかけてくれてありがとう。
先日送ってあげた芽生くんのお下がりを着たいっくんは、小公子みたいに愛らしかった。
潤、よかったね。こんなに可愛らしい子のお父さんになれて。
僕も潤も幸せなのが、嬉しいよ。
両親を亡くした時、幸せな世界にはもう二度と手が届かないと思った。
だが今は、僕の日常に幸せが寄り添ってくれている。
「あー コホン、兄さん、30歳の誕生日おめでとう」
「うわっ……」
僕は正装した弟の姿に、見蕩れてしまった。
潤って、こんなに凜々しかった?
潤って、こんなに優しい笑顔だった?
潤が僕を見つめる視線が大らかで柔らかで、すごく良かった。
家族で正装してくれた気持ちも嬉しい。
「じゅーん、カッコいい!」
絶賛すると、潤は照れ臭そうに笑った。
それから潤たち家族の自然な団欒風景もじっくり見せてもらった。
菫さんの明るさ、いっくんの無邪気さ。
弟が二人に幸せにしてもらっているのが伝わってきて、僕はいつまでも眺めていたい気分だった。
潤からのプレゼントは、心温まるものだった。
三人の心が揃った贈り物で、最高だ!
小鳥が四つ葉のクローバーを咥えている。
フェルトで作られた幸せを運ぶ黄色い鳥。
ずっとずっと飾っておくよ。
「兄さん、それさ、ウッドボードにコルクを貼ってみたからさ、普段遣いしてくれ。掲示板として使って欲しい」
「うん、活用させてもらうよ」
「じゃあ、一曲プレゼントするよ」
「潤! 歌を歌ってくれるの?」
「あぁ」
潤は小さい頃から歌が好きだった。
潤の歌は『きみのそばにいるよ』という曲だった。
今日という日に相応しい遠く離れた世界にいる大切な人同士の絆、繋がりを歌ったものだった。
「兄さん、また会おう!」
「うん! 必ず」
「めーくん、またね」
「いっくん、またねー!」
笑顔で手を振って、また会う約束をする。
今の僕には明日がある。
だから安心して、僕も手を振れる。
潤、大好きだよ。
僕の弟になってくれてありがとう。
画面が一旦消えて真っ白になる。
「瑞樹、次は大沼と繋ぐぞ」
「はい」
次は、お父さんとお母さんと画面越しに話せるのか。
そう思うと、また胸が一杯になった。
僕のお父さんとお母さん。
心からそう呼びたい。
あぁ……早く二人の顔が見たい!
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