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白薔薇の祝福 13
「兄さん、スクリーンが右に傾いているので直してもらますか」
「了解」
宗吾さんと憲吾さんの息が合った感じも、場を和ませた。
いつの間にか僕の周りには、お母さんと美智さんが優しく寄り添ってくれていた。そして膝には、またちょこんと芽生くんが座ってくれた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、おじーちゃんとおばーちゃん、ちゃんとつうしんできるかな」
「うん、お父さんは機械に詳しいから大丈夫だよ」
「よかったぁ! みんな、まほうが上手なんだね」
「そうだね」
僕は君のその無邪気さが大好きだよ。
やがて、画面がパッと明るくなる。
大沼のお父さんとお母さんの笑顔が映し出された。
「お父さん、お母さん!」
今度は僕の方から呼びかけてしまった。
画面の向こうでは、お父さんとお母さんが手を振っている。
二人はとても仲睦まじそうだ。
「みーくん、30歳の誕生日おめでとう!」
「瑞樹、あなたが30歳になったなんて、お母さん嬉しいわ。おめでとう!」
お父さんは僕の天国のお父さんとお母さんの馴れ初めから見守ってくれ、僕が生まれた時から10歳までずっと傍にいてくれた人だ。
お母さんは親戚をたらい回しにされ、施設に送られそうになっていた僕を引き取ってくれた人。そして10歳から僕を育て、僕に兄弟を与えてくれた人だ。
僕の大切な人同士が結婚したのは、本当にサプライズだった。
「みーくん、元気にやっているか」
「はい、元気です」
「瑞樹、あれから手は労っている? 疲れたら宗吾さんにマッサージしてもらうのよ」
「はい、してもらっています」
何でも素直に答えよう。
もう偽らなくてもいい。
寂しい時は寂しい。
悲しい時は悲しい。
怖い時は怖い。
そう言ってもいいんだ。
今の僕には、こんなに頼もしい両親がいてくれるのだから。
「みーくん、誕生日プレゼントは何がいいかな?」
「瑞樹、遠慮しないで何でも言って」
えっ、そう来るの?
今、リクエストしていいの?
でも……これはきっと無理だろう。
「さぁ、みーくんの欲しいものを聞かせておくれ」
「そうよ、瑞樹教えて」
そんなに優しく優しく促されたら、ほろりと漏らしてしまいそうだ。
胸の内に秘めたる思いを――
これは無理だと分かっているのに、夢を見たくなる。
「でも……」
すると膝に座っていた芽生くんがそっと教えてくれる。
「お兄ちゃん、あのね、もしも……すぐにかなわなくても、きっとかなうよ。だから、せーのっで言ってみようよ」
「え?」
「ボクのおねがいものせちゃだめ?」
「そうか芽生くんももうすぐお誕生日だもんね」
「ね、だからいっしょに」
「う、うん」
「だいじょうぶ。こわくないよ」
芽生くんが手を握ってくれる。出会った時はまだあどけない子供だったのに、こんな風に励ましてくれるようになったんだね。
君はいつも優しく明るく可愛い子だよ。
僕の天使――
「わかった。一緒に言ってみようか」
「うん! じゃあ、せーの!」
僕……実は、今すぐあなたたちに会いたくなってしまったんだ。広樹兄さんにも潤にも会いたかったけど、お父さんとお母さんの顔を見たら、もう我慢出来ない。
「僕の願いは……会いたいです。今すぐ触れたいんです」
「おじーちゃん、おばーちゃん、あいたいよ」
芽生くんと僕の願いを伝えると、画面の向こうのくまさんとお母さんは顔を見合わせてしまった。
しまった……無理難題を言ってしまった。
伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。
「あ、あの……困らせてごめんなさい。また近いうちに会いたいという意味ですから気にしないで下さい」
だから慌てて訂正した。
僕は一体、何を言って? お父さんもお母さんは大沼から中継しているのに、困らせるようなことを言ってしまった。
「みーくん、了解だ!」
「瑞樹、待っててね」
「え?」
「さっちゃん、さぁ行こう!」
「えぇ! やっぱり私たちの勘は当たったわね」
「え? あの……お父さん、お母さん? もう飛行機には間に合わないよ」
キョトンと画面を見つめていると、お父さんとお母さんから画面からいなくなってしまった。
「ど、どこへ?」
消えてしまったことに不安になっていると、トントンと階段を下りる音が聞こえた。
この足音って、まさか、まさか、そんなまさか――
「ええぇ!」
僕よりももっと大きな声を出したのは宗吾さんだった。
トントン
ノック音がして憲吾さんが扉を開くと、そこには――
「お……お父さん、お母さん……どうして? うそ……だって大沼からの中継だったんじゃ」
「ふふ、瑞樹に会いたくて来ちゃった」
「みーくんへびっくりさせてごめんな。みーくんへのプレゼントは俺たちさ! みーくんの両親だ。どうだ?」
「び、びっくりしました」
腰を抜かしそうになると、宗吾さんが支えてくれた。
「瑞樹、大丈夫か」
「あ、あの……宗吾さんは知って?」
「いや、俺も大沼からの中継だと疑っていなかったから驚いている」
憲吾さんが僕に説明してくれる。
「瑞樹くん、私が日中留守番をしていたらお二人が突然いらしたんだ。それでサプライズにしようと2階で待機してもらっていたんだ。さぁお父さんとお母さんの所に行っておいで」
憲吾さんが僕を起こして、背中を押してくれた。
「お……お父さん、お母さん、来てくれたの? 嬉しいよ! 会いたいと願っていいんだね、僕も……」
「そうよ。瑞樹が会いたいと思ってくれて嬉しかった」
「みーくん、会いたかった。会って直接お祝いしたかった」
僕はお父さんとお母さんにギュッと子供みたいに抱きしめられた。
あぁ……僕を抱きしめてくれる両親がここにいる。
「お父さん……お母さん……会えて嬉しいです」
「よしよし、いい子だな。さぁ、芽生坊もおいで」
「おじーちゃん、おばーちゃん」
逞しいくまのお父さんが芽生くんを軽々と抱き上げ、僕の肩にポンっと手を置いた。
拍手が沸き起こり、おかあさんと憲吾さんが、ロウソクのついたケーキを運んで来た。
大きな苺の丸いケーキ。
10歳の誕生日と同じ、ホールのショートケーキだった。
「さぁこれで全員揃ったから、皆でお誕生日ケーキを食べましょう」
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