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白薔薇の祝福 25

「おじさん、見て! あそこにボクたちがうつってるよー」 「えっ? おぉ本当だ!」  試合の合間、大型スクリーンに観客が映し出されるのは知っていたが、まさかそこに私と芽生が映るとは! 「わーい、おじさん、手をふろうよ」 「あ、あぁ、そうだな」 「おじさん、にっこりしよう」 「あぁ」  笑顔で仲良く手を振る芽生と私は、端からみたら仲睦まじい親子に見えただろう。それほどまでに、私達は今日一日でぐっと仲良しになっていた。  思い返せば、芽生が生まれた日、母から連絡をもらい口では祝福しつつ、頭の中は冷めていた。  宗吾の子供? 弟の子供だから私にとって初めての甥っ子になるのか。だが興味もないし、今後関わる必要もないだろう。  そんな風に、勝手に決めつけてしまった。  芽生が可愛いとか可愛くないではなく、本当に無関心だったことが、今となっては恥ずかしい。  当時、美智は死産したばかりでノイローゼ気味だったこともあり、甥っ子の存在自体にギュッと蓋をしてしまった。  だから宗吾が離婚したと聞いても、手助けなど不要だと決めつけてしまった。  母が倒れた日までは。 「芽生ともっと早く仲良くなればよかったよ」  思わず後悔を吐くと、芽生は首を横に振った。 「おじさん、もっと早くじゃなくて、もっとなかよくなろうよ!」  あぁ、そうだ。  どうして大人になると後ろを振り返ってばかりなのか。  過去を振り返っても後悔しか生まれないのに。  私の前にも道がある。  なりたかった自分になれるチャンスがあるのに。    これからは、芽生を見習って、優しさと思いやりを積み重ねていこう。 「そうだな。芽生、ありがとう」 「おじさん、ボクこそ、ありがとう」    野球は月ハムフレーフレーズがサヨナラ負けを喫した。同点で迎えた延長十回、無死満塁から犠飛を打ち上げられ勝負を決められてしまった。 「あー まけちゃったね」 「がっかりだ」 「おしかったね」 「悔しいな」 「うんうん、おじさん元気だして」  芽生に慰めてもらい寄り添うように話を聞いてもらうと、いつもみたいにカリカリしなかった。  芽生は聴き上手だな。これも優しい瑞樹の影響なんだろう。 『子は親の鏡(ドロシー・ロー・ノルト)』のメッセージを、彩芽が生まれる前に両親学級で学んだ。    本当にその通りだ。  瑞樹が優しく思いやりをもって接するから、芽生は優しい子に育っている。    宗吾と瑞樹、みんなに守られる芽生は、心の強い子に育っている。  私に出来ることはあるか。  そうだな、正直と公平を芽生に教えてやりたい。  「芽生、帰りにソフトクリームでも食べるか」 「え? いいの。ボク大好き。お兄ちゃんも大好きなんだよ」 「そうだったな。よし場所をチェックしておこう。あと何味があるかも調べないとな」 「うん、準備するのってたのしいよね。ボク、学校のおたのしみかいの準備が一番すき。ワクワクするよね」  勝っても負けても、    雨が降っても晴れても、  大好きな人がいるだけで心は晴れ模様とは、このことなんだな。 「実に楽しい1日だったよ」 「おじさん、ほっぺにクリームついているよ」 「ええ!」  ソフトクリームを挟んで、またにっこり。 **** 「白江さんのお孫さんに会えるのを楽しみにしています」 「私もあなたに会わせるのが楽しみよ。少し内気な子なので、ぜひお友達になって欲しいわ」 「僕でよいのなら、喜んで」  お孫さんには、明日のワークショップに参加してもらえるそうなので、楽しみだ。  ミニブーケの販売からワークショップへの変更の許可が下り、その準備で大忙しだった。  午後は白薔薇のブーケ作りは母に手伝ってもらえたので、僕の手の負担はぐっと減った。  やっぱり、これ以上の先延ばしは良くないな。  このイベントが終わったら、丈さんに相談してみよう。  いつも自分のことは後回しにしてきたけれど、今回のことを通して、もう僕だけの身体ではないと痛感した。  僕の周りには、僕が不調だと心配してくれる人ばかりだ。  だからもっと自己管理していこう。  この手の傷……もう消してしまいたい。  そんなこと本当に可能なのだろうか。 「瑞樹、お母さんは賛成よ」 「え……どうして僕が考えていることが分かったの?」 「それはあなたのお母さんだからよ。お医者さんにあてはあるの? 一度相談してみましょうよ」 「うん……そうしてみるね」 ****  瑞樹がブーケを作る合間に、自分の手の平をじっと眺めている。  あの日、軽井沢に駆けつけた時、既に瑞樹の両手は何針も縫われ包帯でぐるぐるに巻かれていた。  幼い頃の交通事故では奇跡的に無傷で、傷ひとつない身体だったのに、まさかここで、こんなに酷い怪我を負うなんて。  病室のベッドでうなされる瑞樹は、儚げで闇に消えてしまいそうだった。    どう声をかけたらいいのか分からなくて、右往左往してしまったわ。  宗吾さんがいてくれたから、瑞樹の元に駆けつけてくれた友人がいたから、瑞樹は立ち直れたのよ。  そろそろ次のステップに進む時なのかもしれないわ。  大丈夫、きっと綺麗に治る。  手のしびれももうなくなるわ。  そう信じたい。  そう信じてる。  私がこの子の親だから。  この地上でこの子の母を引き継いだから、祈ってる。      

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