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夏休みspecial ムーンライト・セレナーデ 1  (月影寺の夏休み編)

前書き…… 転載作業が遅れて申し訳ないです。 こちらのサイトで読んで下さっている方、ありがとうございます。 リアクションものすごく励みになっています。 今日の冒頭はBrand New Dayの補足(菫さん視点を書き忘れていました)、後半は夏休み特別編の導入になります。 もうお盆休みですね。創作の世界でも毎年恒例の夏休み特番を書きたくなってきました。 という理由で今年も『重なる月』https://estar.jp/novels/25539945 とのクロスオーバーをこちらでしていきます。夏休みらしく賑やかで楽しい展開にしたいです。途中、月影寺メンバーの視点が混ざることもあることをご了承下さい。 尚、8月17日~20日はリアルで旅行に行くため、更新をお休みさせていただきます。エッセイhttps://estar.jp/novels/25768518は更新しますね。(他サイトになります) 前置きが長くなりましたが、以下、本文です。 **** 「葉山さん、予定通り今日退院出来ますよ。母体の経過も良好で赤ちゃんもとても元気です」 「先生、お世話になりました。ありがとうございます」  担当医からの退院許可を無事にいただけてホッとした。  私、やっと家に戻れるのね。  そしていよいよ家族4人の生活が始まるのね。  潤くん、いっくん、まきくん、よろしくね。  あぁ、もう考えただけでも胸が一杯になるわ。  喜びを噛みしめていると、ノック音がした。 「菫さん、入ってもいいかしら?」 「あっ、はい、どうぞ」  潤くんのお母さんが、退院の手伝いに来てくれた。  良かった! 嬉しい!  私の両親は相変わらず身体の具合が悪く、結局一度も病院に来てくれなかった。もう慣れっこだけれども、やっぱり少し寂しかった。でもその分、潤くんのお父さん、お兄さん家族が順番にいっくんを連れて来てくれた。  毎日いっくんに会えて、有り難かったわ。  そして一昨日からは潤くんのお母さんが瑞樹くんたちと入れ替わりで来てくれ、退院の準備やいっくんのお世話をしてくれているの。    今の私はひとりぼっちじゃない。今は甘えて、いつか恩返しをしたいな。 「ママぁ~」  真っ先に病室に飛び込んできたのは、いっくんだった。 「いっくん、いい子にしてた?」 「うん、あのね、ママのおふとんはいってもいーい?」 「いらっしゃい」  いっくんが靴を脱いで布団にもぞもぞと入って来たので、私は優しく抱きしめてあげた。  あどけない小さな身体からは、まだミルクの匂いがするようよ。 「ママぁ、ママぁ、いつおうちにかえってくるの?」 「今日よ。今日からいっくんと一緒にねんねできるのよ」 「きょうなの? えっとえっと……いっくん、まだ……ママとねんねしてもいいの?」 「当たり前じゃない。ママはいっくんとまだまだ、ねんねしたいな」 「わぁ……うれちいよぅ。いっくん……もうおにいちゃんだから、だめかなって」  いっくん、そんなことないのよ。  いっくんだってまだ4歳の小さな子供よ。  いっくんの不安は何度でも拭ってあげたい。 「おにいちゃんになっても、いっくんはいっくんよ。ママの大事ないっくんのままよ」 「いっくん、ママ、しゅき」  そんなやりとりを、お母さんが温かい眼差しで見つめてくれた。 「いいわね。菫さんといっくんの様子を見ていると、心が洗われるわ。私もそんな風に子供達を平等に抱きしめてあげればよかったわ」 「お母さん……そんな風に言わないで下さい。お母さんの愛は満遍なく3人の息子さんに届いています。私の夫は心根の優しい人です。すごく頼もしくて格好良くて、いっくんにとっても最高のパパです。潤くんは私にとって最高の、最愛の人なんです」  わぁ……恥ずかしい。  つい熱く語ってしまってたわ。  私ってば、力が入り過ぎちゃった?  でも全部本当のことなの。  潤くんがいっくんを抱き上げてくれた瞬間、恋に落ちたのよ。 「菫さんが潤と巡り逢ってくれて、本当に良かったわ。潤の良さを最大限引き出してくれて、潤の愛を丸ごと受け止めてくれて、ありがとう」 「お礼を言うのは私の方です。いっくんと二人きり、路頭に迷うところでした。潤くんのお陰で新しい世界に踏み出せました」  お母さんと手を取り合って微笑みあった。  お母さんも私も、ひとりで子育てをした者同士。  分かりあえる確かなものがある。 「さぁ、退院の準備をしましょう」 「はい」  いっくんと手をつないでまきくんを迎えにいった。  3000gを越えて健康に生まれた赤ちゃんは、丸々として可愛かった。  私は真っ先にいっくんに赤ちゃんを見せてあげたわ。 「いっくんの弟のまきくんよ」 「わぁ、まきくん、かわいい」 「一緒に帰ろうね」 「うん、なかよくしようね。まきくん!」  いっくんはこの数日で、大きく成長したわ。  夜は私のパジャマの裾を掴んで眠ることも多かったので心配していたけれども、芽生くんに沢山お世話してもらい仲良くしてもらって、お兄ちゃんになることが楽しみになったみたい。  赤ちゃんを連れて我が家に6日ぶりに戻ると、なんだか手狭に感じた。  この六畳二間の小さなアパートから、きっともうすぐ引っ越すことになるわね。いっくんとふたりで寒さを凌ぎあって過ごした場所から、家族の歴史を刻む家へ、もう……移ろう。 「ママぁ、まきくんね、ベッドがあるんだよ」 「芽生くんからのお下がり、本当に助かるわね」  芽生くんが使ったベビーベッドにまきくんを寝かせて、私は再びいっくんを抱きしめた。 「いっくん、いっくんのおかげでママ幸せよ」 「ママぁ、ママ、よかったね」 **** 夏休みspecial 『ムーンライト・セレナーデ』(月影寺の夏休み編)  季節は巡り、あっという間に夏がやってきた。  今年の東京は猛暑で、朝から気温が既に30度近くもあって、北国育ちの僕はヘトヘトだ。 「うーん、今日も暑くなりそうだな」  洗濯物を干しながら、夏空を見上げ、額の汗を拭った。 「もう8月なんて信じられないな」  軽井沢から戻って来てから、宗吾さんは多忙だった。 今まで父子家庭で子供が小さいからと考慮してもらっていた出張がバンバン入り、6月、7月は3~4日おきに、全国を飛び回っていた。  宗吾さんは仕事で疲れ果てて、なかなか起きてこない。  『週末には宗吾さんに抱かれる』  そんな約束も、すっかりご無沙汰だ。  昨日は宗吾さんが四日ぶりに出張から戻って来て、お互いに良い雰囲気になったのに、僕がシャワーを浴びているうちに寝落ちしてしまうなんて……流石に寂しかった。  でも一番大変なのは宗吾さんなんだから、ここは我慢しないと。  企画好きの宗吾さんはそれでもお盆休みに飛行機に乗って家族旅行をしようと張り切っていたが、僕は遠くに旅行するよりも、家でゆっくり身体を休めて欲しいと願った。  だから来週からのお盆休みの予定は、まだ何もない。  特別な旅行もいいが、家族が健康で笑っていられるのが一番だ。 「お兄ちゃん、おはよう! あれ? パパ、まだ寝ているの?」 「芽生くん、おはよう」 「ボク、ひまわりにお水をあげるね」 「だいぶ成長したね」 「朝顔もね」  もう学校の宿題ではないが、芽生くんと僕は、ベランダで植物を育てることに夢中だ。芽生くんは水まき係、毎日しっかり約束を守ってくれている。 「今日はどっかいくの?」 「うーん、宗吾さん次第かな」 「そっか……あのね……」 「ん?」 「夏休みの宿題……一行日記があるんだけど……毎日同じことばかりでつまんないな」  夏休みも放課後スクールがあるので、平日は芽生くんは朝から晩までそこで過ごしている。 「そうだよね。うーん、やっぱり旅行に行けば良かったね」 「ううん、それはいいの。だってパパ……今、すごくつかれてるもん」  旅行に行かないのは、僕と芽生くんで決めたこと。  でもやっぱりどこかに連れて行ってあげたくなる。  そうだ、こんな時は心友に相談してみよう。 「芽生くん、あのね、鎌倉や由比ヶ浜とか……近場はどうかな?」 「もしかして、洋くんのところ?」 「そうなんだ。また遊びに来て欲しいと誘われていたから、お兄ちゃん思い切って聞いてみようかな」 「わぁ! 行きたい! 行きたい!」  先月電話で話した時、洋くんから「芽生くんの夏休みに遊びにおいでよ」と誘われていた。  だから、僕の方から行きたいと申し出てみようかな。    洋くんはきっと喜んでくれる。そんな予感がする。  洋くんだって勇気を出して探してくれたんだ。  僕の方からも一歩、二歩と歩み寄ってみよう!

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