1496 / 1864

秋陽の中 4

「いつき、サッカーしようぜ!」 「うん!」  めーくんのおかげで、いっくん、みんなとサッカーできるようになったんだよ~ うれちいなぁ。    めーくん、めーくん、ありがとう!  いっくん、ほいくいえんのおにわで、いっぱいあそべるようになったよ。  ほんとうは、いいなっておもってたの。  でもサッカーボールもってなかったし、やりかたもわからなくて、いえなかったの。ママにサッカーボールかってほちいって、いちどおねがいしたけど、かなしいおかおになっちゃったの……  そういうときは、いっくん、がまんしないとダメダメ。   「あ!」  あっくんがサッカーボールをおもいっきりけったら、せんせいがだいじにしているかだんのむこうに、ころがちゃった。 「オレ、とってくる!」  あっくんが、かだんのおはなをふみそうになったので、びっくりしちゃった。 「あっくん、まって! まって! おはなさんが、いたいって」 「えっ?」 「ここ、みてぇ」  あっくんのおくつのしたに、おはなさんがはさまれて、ないてたよ。 「あ、ほんとだ! どうしよう」 「よかったぁ、ぶじだよ。そっとおこしてあげよう。ボールはあっちからとりにいこうね!」 「うん! いつき、おしえてくれてありがとうな」 「えへへ」  よかった。  あっくん「ありがとう」っていってくれた。  いっくん、よけいなこといっちゃったかなって、ちょっぴりしんぱいしたの。  サッカーのあとは、あっくんとしばふのうえで、おしゃべりをしたよ。 「そういえば、いつきって、よくここでおそらをみていたけど、あれはなんでだ?」 「……えっとね、ママのまえではなかないようにしたかったから」 「どうしてないちゃダメなの? おれなんて、おおなきするのに」 「えっとね、いっくんがえーんえーんするとママがかなしくなっちゃうから、うえをむいていたんだ。あのね、うえをむくと、なみだがおっこちないんだよ。しゅごいよね。あ、これはナイショね」  あっくんにいっくんのヒミツおしえてあげたら、おててにぎにぎしてくれたよ。 「いつきってかっこいいな。みなおしたぞ」 「えへへ、あっくん、いっくんとおともだちになってくれる?」 「おれもいま、いおうとおもってた」 「わぁ、おともだちっていいね」 「うん! だから、あしたも、あさってもあそぼうぜ!」 「うん!」 ****  保育園のお迎えに行くと、いっくんが男の子と仲良くブロックで遊んでいた。 「へぇ、楽しそうだな」  ぽつんとひとりで本を読んでいたり、膝を抱えていた寂しい子供はもういない。  可愛い笑顔で満ちている。  いっくん、良かったなぁ。 「あ、パパ! パパぁ!」 「よっ! いっくん、たのしかったか」 「うん! パパぁ、あいたかったよぅ」 「いっくん」  この子はどうしてこんなに可愛いんだ?  胸の奥が切なくなるほど可愛いい、オレの大切な息子だ。 「いっくん、一緒に花壇の手入れ手伝ってくれるか」 「うん! パパのおてつだいしたかったの」  くぅ~ 何をしゃべってもやっぱり可愛いな。  可愛いが大行列してる。  兄さんが芽生坊のことを『地上の天使』と呼ぶ気持ちがよく分かるよ。  いっくんはオレの地上の天使だ! ****  北鎌倉、月影寺。  今日も元気に小坊主修行ですよ。  せっせとお庭の落ち葉を箒で掃いていると、懐かしい声がしました。 「ごめんください」 「はい、どなたですか」 「風太!」 「あ、お母さん! どうしたのですか」 「元気にやっているの?」  びっくりしました。  僕が月影寺の住み込み小坊主になってから1年が経ちました。    お母さんに会うのは、本当に本当に久しぶりです。 「はい! この通り」 「良かったわ。なんだかとっても生き生きと楽しそうよ」 「はい、お母さん、僕、毎日幸せです」 「そうなのね。ほっとしたわ。ご住職さまにご挨拶できるかしら?」 「はい!」  ご住職さまは快く母に会ってくれましたよ。 「風太がお世話になっています。今日は心配になって来てしまいました」 「どうぞ、いつでもお越し下さい」 「ご住職さま、風太はこのお寺に預かっていただけて本当に良かったと思います。この子の幸せそうな顔、こんなに寛いだ顔を見られるなんて、風太は最初から仏様の子供だったのかもしれませんね」  お母さん……  僕、なんだか胸がジーンとします。 「えぇ、小森くんは仏様のご加護を受けた、とてもよい青年です」 「恥ずかしながら昔は普通の子でいて欲しいと願ってしまい、この子に辛く当たってしまったことも……でも今は違います。この子がこの子らしく生きられる場所が見つかって良かったです。この子に、これ以上のことは望みません。風太が幸せでいてくれるのなら、ずっとこのお寺で過ごして欲しいと願っています」    実家にいる時は、お母さんの不安そうな顔を見るのが辛く悲しかったです。僕は期待外れの子供だったと思っていました。でも違うのですね、僕もちゃんと愛してもらっていたのですね。 「お母様、風太くんは皆に愛されています。お母様が愛を注いだ賜ですね」 「もしかして……この子は今……誰かに愛してもらえているのかしら?」 「はい、深い愛情を受けてます」 「よかった……風太……よかったわね」 「あ、あの」  お母さんがボクを抱きしめてくれました。  いつぶりでしょう? お母さんの温もり。  こんなに柔らかかったでしょうか。 「……僕の……お母さん……」 「そうよ。いくつになっても私の息子よ。風太、また来るわね、今月末はお誕生日よね。生まれてきてくれてありがとう。それを言いたくて……離れて暮らすようになってあなたのことを考える時間が増えたわ」  お母さんは僕に白い封筒を渡してくれました。 「これはお誕生日プレゼントよ。そうだわ。これで大事な人とのデートのお洋服でも買うのはどうかしら? あなたもお年頃だし」 「わぁ、ありがとうございます、かんのくんとデートする時のお洋服、買いますね」 「かんのくん? ……えぇ……そうね、そうしなさい。好きなものを買ってね」 「はい!」  お母さん、ありがとうございます。  僕、今、すごくすごく嬉しいですよ。

ともだちにシェアしよう!