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秋陽の中 4
「いつき、サッカーしようぜ!」
「うん!」
めーくんのおかげで、いっくん、みんなとサッカーできるようになったんだよ~ うれちいなぁ。
めーくん、めーくん、ありがとう!
いっくん、ほいくいえんのおにわで、いっぱいあそべるようになったよ。
ほんとうは、いいなっておもってたの。
でもサッカーボールもってなかったし、やりかたもわからなくて、いえなかったの。ママにサッカーボールかってほちいって、いちどおねがいしたけど、かなしいおかおになっちゃったの……
そういうときは、いっくん、がまんしないとダメダメ。
「あ!」
あっくんがサッカーボールをおもいっきりけったら、せんせいがだいじにしているかだんのむこうに、ころがちゃった。
「オレ、とってくる!」
あっくんが、かだんのおはなをふみそうになったので、びっくりしちゃった。
「あっくん、まって! まって! おはなさんが、いたいって」
「えっ?」
「ここ、みてぇ」
あっくんのおくつのしたに、おはなさんがはさまれて、ないてたよ。
「あ、ほんとだ! どうしよう」
「よかったぁ、ぶじだよ。そっとおこしてあげよう。ボールはあっちからとりにいこうね!」
「うん! いつき、おしえてくれてありがとうな」
「えへへ」
よかった。
あっくん「ありがとう」っていってくれた。
いっくん、よけいなこといっちゃったかなって、ちょっぴりしんぱいしたの。
サッカーのあとは、あっくんとしばふのうえで、おしゃべりをしたよ。
「そういえば、いつきって、よくここでおそらをみていたけど、あれはなんでだ?」
「……えっとね、ママのまえではなかないようにしたかったから」
「どうしてないちゃダメなの? おれなんて、おおなきするのに」
「えっとね、いっくんがえーんえーんするとママがかなしくなっちゃうから、うえをむいていたんだ。あのね、うえをむくと、なみだがおっこちないんだよ。しゅごいよね。あ、これはナイショね」
あっくんにいっくんのヒミツおしえてあげたら、おててにぎにぎしてくれたよ。
「いつきってかっこいいな。みなおしたぞ」
「えへへ、あっくん、いっくんとおともだちになってくれる?」
「おれもいま、いおうとおもってた」
「わぁ、おともだちっていいね」
「うん! だから、あしたも、あさってもあそぼうぜ!」
「うん!」
****
保育園のお迎えに行くと、いっくんが男の子と仲良くブロックで遊んでいた。
「へぇ、楽しそうだな」
ぽつんとひとりで本を読んでいたり、膝を抱えていた寂しい子供はもういない。
可愛い笑顔で満ちている。
いっくん、良かったなぁ。
「あ、パパ! パパぁ!」
「よっ! いっくん、たのしかったか」
「うん! パパぁ、あいたかったよぅ」
「いっくん」
この子はどうしてこんなに可愛いんだ?
胸の奥が切なくなるほど可愛いい、オレの大切な息子だ。
「いっくん、一緒に花壇の手入れ手伝ってくれるか」
「うん! パパのおてつだいしたかったの」
くぅ~ 何をしゃべってもやっぱり可愛いな。
可愛いが大行列してる。
兄さんが芽生坊のことを『地上の天使』と呼ぶ気持ちがよく分かるよ。
いっくんはオレの地上の天使だ!
****
北鎌倉、月影寺。
今日も元気に小坊主修行ですよ。
せっせとお庭の落ち葉を箒で掃いていると、懐かしい声がしました。
「ごめんください」
「はい、どなたですか」
「風太!」
「あ、お母さん! どうしたのですか」
「元気にやっているの?」
びっくりしました。
僕が月影寺の住み込み小坊主になってから1年が経ちました。
お母さんに会うのは、本当に本当に久しぶりです。
「はい! この通り」
「良かったわ。なんだかとっても生き生きと楽しそうよ」
「はい、お母さん、僕、毎日幸せです」
「そうなのね。ほっとしたわ。ご住職さまにご挨拶できるかしら?」
「はい!」
ご住職さまは快く母に会ってくれましたよ。
「風太がお世話になっています。今日は心配になって来てしまいました」
「どうぞ、いつでもお越し下さい」
「ご住職さま、風太はこのお寺に預かっていただけて本当に良かったと思います。この子の幸せそうな顔、こんなに寛いだ顔を見られるなんて、風太は最初から仏様の子供だったのかもしれませんね」
お母さん……
僕、なんだか胸がジーンとします。
「えぇ、小森くんは仏様のご加護を受けた、とてもよい青年です」
「恥ずかしながら昔は普通の子でいて欲しいと願ってしまい、この子に辛く当たってしまったことも……でも今は違います。この子がこの子らしく生きられる場所が見つかって良かったです。この子に、これ以上のことは望みません。風太が幸せでいてくれるのなら、ずっとこのお寺で過ごして欲しいと願っています」
実家にいる時は、お母さんの不安そうな顔を見るのが辛く悲しかったです。僕は期待外れの子供だったと思っていました。でも違うのですね、僕もちゃんと愛してもらっていたのですね。
「お母様、風太くんは皆に愛されています。お母様が愛を注いだ賜ですね」
「もしかして……この子は今……誰かに愛してもらえているのかしら?」
「はい、深い愛情を受けてます」
「よかった……風太……よかったわね」
「あ、あの」
お母さんがボクを抱きしめてくれました。
いつぶりでしょう? お母さんの温もり。
こんなに柔らかかったでしょうか。
「……僕の……お母さん……」
「そうよ。いくつになっても私の息子よ。風太、また来るわね、今月末はお誕生日よね。生まれてきてくれてありがとう。それを言いたくて……離れて暮らすようになってあなたのことを考える時間が増えたわ」
お母さんは僕に白い封筒を渡してくれました。
「これはお誕生日プレゼントよ。そうだわ。これで大事な人とのデートのお洋服でも買うのはどうかしら? あなたもお年頃だし」
「わぁ、ありがとうございます、かんのくんとデートする時のお洋服、買いますね」
「かんのくん? ……えぇ……そうね、そうしなさい。好きなものを買ってね」
「はい!」
お母さん、ありがとうございます。
僕、今、すごくすごく嬉しいですよ。
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