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HAPPY HOLIDAYS 4

「憲吾さん、今日の予定は?」 「今日は、おもちゃを買いに行く」  大真面目に答えると、美智が目を丸くしていた。 「えっ?」 「ん? 何か変か」 「くすっ、だって……あなたが真顔でおもちゃだなんて」  実は、朝刊に入っていたおもちゃ屋の広告に、心を奪われてしまったのだ。  大きな窓の中に、サンタクロースやおもちゃの兵隊、ジンジャーマンにクマのぬいぐるみが並ぶ、賑やかで楽しそうな夢の世界だった。  これはまさに、子供の頃に憧れた『おもちゃの国』ではないか。   「実は、ここに行ってみたいのだが」 「これは、お台場のトイザウルスね」 「優美と芽生にクリスマスプレゼントを買いに行きたくて、付き合ってもらえるか」  美智もキラキラと目を輝かせてくれた。   「喜んで! 私もおもちゃ屋さんが大好きよ。せっかくだからお母さんも誘って皆で行きましょうよ」 「いいのか。母も喜ぶよ」  出かけようと玄関で靴を履いていると、宗吾から電話があった。  驚いたことに同じお台場のトイショップに一緒に行こうという誘いだったので、現地で落ち合うことにした。  準備が出来ていた私たちの方が、どうやら早く着いたらしい。 「先に見てるか」 「あら、憲吾、あそこにペットショップがあるわ。ちょっと覗いていい?」 「いいですよ」  母の希望でペットショップに立ち寄ると、沢山の子猫や子犬がいた。  ふと、昔、家で豆柴を飼っていたのを思い出した。  ある日犬好きの母が反対を押し切って飼いだしたが、一番反対していた父に一番懐き、父も溺愛していた。結局15年近くも共に過ごし、父が亡くなった後すぐに、追いかけるように亡くなってしまった。 「あの子は……お父さんの所で元気にやっているのかしらね」 「そうですね。寂しくないようにくっついていったのでしょうね」 「あぁ……わんちゃん、やっぱり可愛いわね」  母が子供のように窓に張り付いていると、子犬を抱いたペットショップの店員さんがやってきた。 「あの、この子は2日前にやってきたばかりで、まだ抱っこ慣れしてないので、よかったら抱いてもらえますか」 「え? 私でいいのかしら」 「もちろんです、皆さんもどうぞ」  ミルクティー色のトイプードルの子犬だった。 「10月10日に生まれたばかりなので、まだ700gもないんですよ。人懐っこい男の子です」 「まぁ、なんて可愛いの!」  何の気なしに子犬を見て、ずきゅんと心奪われた。私を見つける憂いを帯びた可愛い顔立ちは……瑞樹を思い出す。 「くぅん……」 「なんだ、こっ、この可愛い物体は?」 「憲吾、この子には運命を感じるわね。また飼いたいわ。私の話し相手になってくれそうな可愛いワンちゃんよ」 「……ですが、生きものを飼うのは勢いでは駄目です。生きている命ですから、そんなに簡単には決められません、毎日の世話や散歩、トリミング……獣医につれていったりと、忙しくなります。旅行にも行き難くなるし」  つい冷静につらつらと犬を飼うデメリットを並べると、母は子供のように頬を膨らませていた。 「……全部分かっているわ。飼った経験もあるんだし……そうよね……私にはもう体力がなくて毎日散歩に連れて行ってあげられないから……もう無理よね。もう諦めないと駄目よね」  しょんぼりとうなだれる母の姿に、胸が詰まった。  確かぬ物事にはデメリットとメリット、両極がある。ペットに限らず、デメリットばかり考えていては、いつも一歩踏み出せない。  それが今までの几帳面で真面目な私だった。  デメリットを避ける人生は平穏無事だろうが、最近の私は少し物足りなさを感じるようになっていた。  冒険してみたいとも……  子犬は母に抱かれ、すやすやと眠ってしまっていた。  可愛い子犬だ。  しかし、まさかおもちゃを見に来て、犬を飼いたくなるとは……  そこに電話が鳴る。 「兄さん、今、どこだ? トイザウルスをぐるっと回ったが、いないんだけど」 「あぁ、悪い。手前のペットショップにいるんだ」 「え?」 「宗吾、うちで犬を飼いたいと思うんだが、どうだ? 宗吾の一家も協力してくれないか」 「えぇ? とにかくそっちに行くよ」  宗吾と話して、ふと思いついた。  芽生も以前から犬を飼いたいと言っていたので、我が家で飼うことになったら、お世話を手伝ってもらえるかもしれない。そうしたら芽生や瑞樹が頻繁にやってきて、ますます交流が深まりそうだ。  デメリットよりメリットを考え出すと、途端に楽しくなってきた。 「母さん、私は乗り気です。うちで飼ってもいいのでは?」 「まぁ、いいの?」 「母さんも芽生も喜ぶし、共通の話題も増えて、楽しくなりそうです」 「まぁ……あなた本当に憲吾なの? 信じられない」 「ふっ、これが今の私ですよ。やってみないと始まらないのですよ」 ****  驚いたな。  今日は何のHAPPYデーだ?  兄さんの方もトイザウルスに行こうと思っていて、今度はペットショップにいるだと? しかも犬を飼いたいだと? 「瑞樹、芽生、おもちゃより先に犬を見に行くぞ」 「えええ? 本当?」  芽生が目を輝かせて。 「あ、そうか、瑞樹が行きたい場所って……ペットショップだったのか」 「はい。お母さんからも、何度か犬をまた飼いたいという話を聞いていたので……もしかしてと思っていたのですが、憲吾さんまで賛同して下さるなんて、あの、僕たちだけで手に負えないことも、人手があれば克服できるのではと……おこがましいですが思ったんです」  最高だよ、瑞樹。  まさにそれだ。    俺たち男同士で、いろいろデメリットも多い。  だがメリットもある。  それを教えてもらっているよ、君からは……  こんな風に、積極的に親兄弟と交流出来るのも良いものだ。 「おばあちゃん~ わんちゃん、どこ?」 「ここよ、芽生が来たら起きたわ!」 「わぁ、かわいいー!」  ミルクティー色のトイプードルは、瑞樹みたいに優しく可愛い顔立ちで、俺も一目惚れしてしまった。   **** クリスマスイブですね! 本日アトリエブログをUPします。ぜひわんちゃんに会いにいらしてくださいね。 https://fujossy.jp/notes/35002

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