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HAPPY HOLIDAYS 27
1月2日の朝、いっくんにせがまれて、実家に帰省中の兄さんに電話をした。
「めーくん、あーそーぼ! いっくんは、どこにいけばいいでしゅか」
いっくんが無邪気に聞くと、芽生坊は困った様子だった。
それもそうだよな。
芽生坊は北海道、いっくんは軽井沢にいるのだから。
「ええっと、ボクはね……今、北海道にいるから会えないんだよ。どうしようかな?」
「えっ、そうなの……あそべないんだ……しょっか……」
いっくんは耳の垂れた犬のようにしょんぼりしてしまった。
こんな時は、どうやって励ませばいい?
いっくんの繊細な心をむやみに傷つけたくない。
すみれから美樹さんの想いを伝え聞いたせいか、まだ脆いいっくんの心をしっかり守ってやりたいと強く願った。
兄さん、ヘルプだ。
どうかこの天使のような子供を明るい方へ導いてくれないか。
「お兄ちゃん、いっくんと、どうやって遊ぶのがいいかな?」
お、芽生坊も兄さんを頼るか。
そうだよな。
優しい気持ちになれる方法を、オレの兄さんならきっと教えてくれる。
オレはずっと誰かを頼ったり、誰かにアドバイスを受けることが苦手だった。
だが……ずっと掴めなかった兄さんと心が通じるようになって気づいたことがある。
人の気持ちを知るには、人の話を聞かないと駄目だ。
いろんな人の気持ちを知ってこそ、自分の気持ちを理解出来るし、大切に出来る。
「兄さん、何かいいアイデアない?」
「え、二人とも揃って僕に聞くの?」
「あぁ、だって兄さんが適任だから」
「ありがとう。あ……じゃあ、こんな遊びがどうかな?」
「どんなの?」
「そっちも雪が積もっているよね。ちょうど僕たちも今から外で雪遊びしようと思っていたんだ。だからお互いに雪だるまや雪うさぎを作って、見せ合うのはどうかな?」
「すごくいいアイデアだな」
電話の向こうに、控えめに微笑む兄さんの姿が浮かぶ。
「じゅーん、ありがとう。僕の話を聞いてくれて」
「適任だから……兄さんの考えを知れて嬉しいよ」
離れていても作ったものを見せ合うことで、一緒に遊んだ気分になる。
兄さんらしい優しいアイデアだ。
「よーし、いっくん、パパと雪だるまを作りに行こう。そんで作った物を芽生坊に見せてあげるのはどうだ?」
「えっと、えっと、みせあいっこするの? したい! したい!」
「いっくんの好きなのを作るといい。パパがサポートするから」
「うん!」
いっくんは頬を薔薇色に上気させ、外に飛び出した。
アパートの前には、雪遊びするのに十分な雪が積もっていた。
「こんだけ雪があるのだから、大きな雪だるまを作るのもいいな。どっちが大きいのを作るか競争するか」
「ええっとね、いっくんね……いっくんがだっこできるうさぎしゃんをつくりたいの」
「なるほど」
大きさを競うのではなく、抱きしめたいのか。
いっくんらしい優しい考えに、オレはまた一つ優しくなる。
いっくんが頬を染めて、「よいちょ、よいちょ」と雪を丸めている。
小さな手からは、小さなうさぎが現れる。
手のひらサイズのウサギは、いびつな形だったが、とても可愛らしいものだった。
「パパぁ、うさぎしゃんにおめめとおみみつけたいな」
「そうだな、目は南天の赤い実で、耳には南天や椿などの常緑樹の葉っぱがいいぞ」
「はっぱしゃんとなんてん? パパ、それ、いっちょにさがしにいこう!」
「おぅ!」
こういう時のいっくんは、探検家のように溌剌としている。
美樹さん、あなたにもこういう面があったのか。
すみれがお空のパパの名前を打ち明けてくれたせいか、ぐっと親近感が増した。
美しい樹……
いい名前で憧れる。
実は広樹兄さんと瑞樹兄さんは『樹』という漢字で繋がっているのに、オレだけ『樹』という漢字が入ってなくて寂しかったが、全ての事柄には意味があるんだな。
美樹さんの最愛の息子であり、オレの最愛の息子、樹を育てることで、オレ『樹』と深い深い繋がりを持ち続けられる。
いっくんが真剣な眼差しで、キョロキョロしている。
「ないなぁ」
「いっくん、よく見てごらん」
「うん、よーくみてみる」
はす向かいの一軒家のおばあさんの庭に南天があったのを思い出して、いっくんを誘導した。
「あ、あかいみだぁ、おみみのはっぱしゃんもある」
「もらってもいいか聞いてみよう」
「うん! いっくんがおねがいしゅる」
いっくんはおばあさんに自分の言葉で「このうさぎしゃんにおめめとはっぱしゃんをわけてください」と言えた。
おばあさんはいっくんの態度に感心して「いっくん、大きくなったわね。本当にしっかりして……あなたのことは赤ちゃんのことから知っているのよ。ちゃんとお願いできたご褒美に、おみかんとおもちも持っていきなさい」とお土産までつけてくれた。
オレが礼を言うと、おばあさんは目を細めて……
「逞しいお父さんがやって来てくれてよかったよ。いっくんは天使だよ。大事にしておくれ」
「はい、大事にします」
話している間、いっくんは葉っぱをじっと眺めていた。
「どうした?」
「パパ、おみみのかたちによさそうなはっぱしゃんをえらんでいるの」
「そうか、じっくり時間をかけていいぞ」
「うん」
焦らないでいい。
時間はゆっくりがいい。
いっくんと過ごす時間は、長ければ長い方がいいんだ。
そこに宿るのは幸せだから。
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