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HAPPY HOLIDAYS 28
「めーくん、あーそーぼ! いっくん、どこにいけばいいでしゅか」
えっと、どうしよう?
いっくんに聞かれて、困っちゃった。
絶対にいっくん、ボクにもうすぐ会えると思っているよね。
ワクワクと楽しみにしてくれるのはうれしいけど、がっかりさせちゃうよ。
ボクは今、北海道にいて、いっくんは軽井沢にいるんだよ。
すぐに会える距離じゃないんだよ。
まだ4歳のいっくんにどうしたら分かってもらえるのか、いい言葉が見つからないよ。
「ええっと、ボクはね……今、北海道にいるから今日は会えないんだよ」
「えっ、そうなの……いっくんとあそべないんだ……しょっか……」
結局、正直に話しちゃった。
いっくんのしょぼんとした声に、ボクもしょぼんとした。
せっかくのお正月なのに、悲しませちゃったな。
もっと何か方法がなかったのかな。
ボクにはいい案が浮かばなくて、だから傍にいるお兄ちゃんに聞いてみたよ。
優しいお兄ちゃん。
いつもボクの心を大切にしてくれるお兄ちゃんなら、きっと優しいヒントを教えてくれると思うんだ。
ひとりでうまくいかない時は、周りにいてくれる人を頼ってもいいんだよね。
それは全部お兄ちゃんが教えてくれたことだよ。
「お兄ちゃん、いっくんと、どうやって遊ぶのがいいかな?」
****
遠く離れたいっくんと一緒に遊ぶ方法を聞かれ、お互いに雪のある土地にいるので、雪だるまや雪うさぎを作って見せ合うのはどうかと提案したら、二人の声が一気に弾んだ。
特別なアイデアでもないのに、そんなに喜んでくれるなんて、照れ臭いけれども嬉しいよ。
僕の言葉に耳を傾けてくれる人がいる。
僕を頼りにしてくれる人がいる。
蓄積された疲れは、昨夜熱と共に吐き出せた。だから身体はどこまでも軽く、明るい気分だった。
「お兄ちゃん、早く! 早く!」
「待って。芽生くん、マフラーを忘れているよ」
「あ、そうだった。えへへ」
マフラーを巻いてあげると、満面の笑みを浮かべてくれた。
「これで寒くない?」
「うん! あったかい。ありがとう」
「どういたしまして」
芽生くんと一緒に外に出ると、目の前の光景に驚いた。
立派な雪だるまがログハウスの前に出来ていた。
「いつの間に作ったの?」
「えへへ、昨日おじいちゃんと一緒に作ったんだよ。お兄ちゃんが寝ている間に……」
「すごいね。気づかなかったよ。こんなに大きいのを作れるなんて驚いたよ」
「おじいちゃんと一緒に転がしたら大きくなったんだ。ボクだけだったら無理だったよ」
「そうなんだね、力を合わせたんだね」
「うん、そうなの! よーし、今日は何を作ろうかな」
芽生くんの瞳は、子供らしく生き生きと明るく輝いていた。
その瞳に吸い込まれるように、僕の幼い頃を思い出していた。
夏樹もそんな風に目を輝かせていたよ。
あれは……9歳の冬。
4歳の夏樹と力を合わせて作った雪だるま。
いつまでも溶けないで欲しいと願ったのに、雪に埋もれて消えてしまい……泣いてしまった。
「ああん、せっかくおにいちゃんんとつくったのに……じょうずにできたのにぃ、くやしいよ-」
夏樹は悔しがり、僕は寂しがった。
夏樹が泣くから、僕も泣いた。
するとお母さんが優しく僕たちを抱きしめてくれた。
「また会えるわよ。雪だるまさんは雪に戻っただけよ」
「そうなの?」
「そうよ、二人の心に思い出として残るのよ」
ふいに思い出す、大切な思い出の欠片。
思い出せるのは、今の僕が幸せだから。
「お兄ちゃん、今日はひとりでいっくんのために雪だるまを作ってみるよ」
「がんばって! 応援しているよ」
「お兄ちゃんもいっしょに作ろうよ。一緒に遊びたい」
力を合わせて作るのも、一人で心を込めて作るのも、どちらも同じくらい大切なこと、嬉しいこと。
「そうだね。僕も作ろうかな」
「お兄ちゃんは誰のために作るの?」
「そうだね……お空にいる夏樹に作ってあげようかな」
「いいね! きっとなっくんも遊びたがっているよ」
「そうだね」
僕は芽生くんと並んで、雪だるまを作った。
あの頃の夏樹の背丈を想像しながら無心になった。
「雪だるまの目にはこの黒い石を使うといい」
「鼻には人参を使って」
「手には丁度いい枝があったぞ」
みんなが雪だるまのパーツの材料を持ち寄ってくれる。
そして最後は宗吾さんのヘルプが入り、無事に完成した。
同時に僕のも出来上がった。
「あ、お兄ちゃんの雪だるま、ボクのと同じ大きさだね」
「本当だね」
「ボクのは、いっくんのサイズだよ」
「僕のは……夏樹の……」
夏樹はもういないけれども、雪だるまになって会いに来てくれたようだ。
そこに電話が鳴った。
「芽生くん、テレビ電話だよ」
「わぁ、いっくん、できたー?」
「うん、これぇ、めーくんにあげる」
いっくんの手には小さな雪ウサギが載っていた。
目は赤い南天で、耳はきれいな形の葉っぱで出来た可愛いうさぎだ。
「わぁ、かわいい」
「えへへ、めーくん、うさぎちゃんすきだもんね」
「うん! だいすき。ボクはこれを作ったよ」
芽生くんが完成したばかりの雪だるまを見せると、いっくんは口に両手をあてて目を見開いた。
「わぁ……それ、もちかちて……いっくんなの?」
「よくわかったね。いっくんの大きさの雪だるまを作ったんだ」
「しゅごい……いっくん、ほっかいどうに行ったみたい」
「えへへ、あ、隣はね……」
「いっくん、そのこ、しってるよ」
「え?」
「あのね、おそらからきたこでしょう?」
「え……すごい、いっくん、よくわかったね」
「おそらのパパも、ゆきだるまになってきたから」
「わぁ、そうだったの?」
「うん!」
二人の会話に驚きと感動を覚えた。
幼く汚れない心で世界を見つめると、見えるんだね。
僕の可愛い弟、夏樹が遊びに来たことが……
気づくと、僕を挟むように宗吾さんとくまさんが立っていた。
「みーくん、なっくんに会わせてくれてありがとう」
「瑞樹、また一つ思い出が増えたな」
「はい……夏樹とまた遊べました」
「瑞樹、これ……編んでみたの」
お母さんが雪だるまに赤いニット帽を被せてくれた。
「赤って、目立っていいでしょう?」
「お母さん……」
「瑞樹、夏樹くんに会えて良かったわね」
「うん……お母さん、ありがとう」
思わずお母さんに抱きついてしまった。
だってあまりに嬉しくて……
「まぁ、この子ってば、甘え上手になったわね」
優しい時間、優しい人、優しい心。
持ち寄って生まれるのは、愛しさ。
僕は……この世界がとても……とても愛おしい。
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