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HAPPY HOLIDAYS 29

 手編みの赤いニット帽を被った雪だるまを見ていると、熱い涙がこみ上げてきた。  これは……澄子さんが見たかった光景だ。  だから……ぐっと顔を上げて空を仰いだ。  冬の青空には、白い綿菓子のような雲がぷかぷかと浮かんでいた。  澄子さん、そこにいるのですか。  そこから見えていますか。  この地上に咲く優しい花が――  あの日、澄子さんと交わした会話が蘇ってきた。 ……  ある日、やんちゃななっくんがどんどん森に入ってしまい、みーくんが慌てて追いかけたらしく、二人の子供の姿が忽然と見えなくなるという、ヒヤッとする出来事があった。  すぐに大樹さんが気づいて探し出してくれ事なきを得たが、澄子さんは真っ青な顔で、俺に宣言した。 「熊田さん。私、今度は瑞樹と夏樹にお揃いの赤いニット帽を編むわ」 「へぇ、可愛いでしょうね。ですが、どうして赤なんですか。元気溌剌ななっくんにはぴったりですが、みーくんにはもっと優しい色の方が似合いそうですが……って偉そうにすみません」 「いいのよ、あのね……赤には理由があるのよ」 「それはなんです?」 「赤は目立つ色だから、遠くから見ても分かりやすいでしょう?」 「なるほど、迷子防止ですか」 「……迷子になんてさせるつもりはないけど、瑞樹は大人しい子だから自分から助けを求められないかも……心配なのよ」 「大丈夫ですよ。みーくんはあぁ見えても、芯が強い頑張り屋だ」 「でも……だからこそ頑張りすぎないで欲しいの。いつも一人で我慢してしまうわ」 「確かに、みーくんは控えめな性格だから、全部一人で抱え込みそうですね」 「そうなの。いつも人に譲って気を遣って……そんな瑞樹に明るい気持ち、前向きな気持ちを抱けるように、赤がいいわ」 「魔法をかけるのですね」 「幸せになる魔法よ」 ……  暮れに俺とさっちゃんで、ログハウスの大掃除をした。  その時、屋根裏部屋から大量の赤い毛糸が見つかって、最初は思い当たらず首を傾げてしまったが、しばらくして澄子さんと交わした会話を思い出した。    その事は、さっちゃんに思い出話として話したが、まさか本当にニット帽を編んでくれるなんて思いもしなかった。  そして、それがこのタイミングで役立つなんて―― 「さぁ、そろそろ家に入りましょう。おやつの時間よ」 「わぁい……あ、でもゆきだるまさんはどうするの? この帽子、おばあちゃんの手作りでしょう? なくなってしまったら寂しいよ」 「そうね、これはね……うふふ、実は大きめに作ったから大人でも大丈夫なのよ」  芽生坊が目を輝かせる。 「もしかして、なっくんのはお兄ちゃんに?」 「まぁ、芽生くんは聡いわね」 「分かるよ、おばあちゃんの気持ち、伝わってくるもん」  なんて優しい子なんだ。 「そうよ、だから芽生くんが被せてあげて」 「うん!」  宗吾くんと歓談しているみーくんの元に、芽生坊が赤い帽子を被せに走って行く。 「お兄ちゃん! あのね、これ被って」 「え……でも、これは……」 「なっくんに見えるように被って。赤は遠くからも目立つよ。だからきっといいことあるよ」  芽生坊が背伸びして帽子を被せると、みーくんは頬を染めた。 「お兄ちゃん、とっても、とってもよく似合っているよ」 「そ、そうかな」 「そうだよ。きっと空の雲から、ここがよく見えているよ。一緒に手を振ろうよ」    芽生坊が大きく、大きく手を振る。 「おーい、おーい、見えますか。ボクたち毎日しあわせだよー おにいちゃんがいてくれてしあわせだよー」 「芽生くん……」 「ボクみたいに、お兄ちゃんも伝えないと」 「あ、うん……でも……」  赤い帽子と同じ位、照れくさそうに頬を染めるみーくん。  そこに宗吾くんが駆け寄って、力強くみーくんの肩を抱く。 「瑞樹、俺と一緒に伝えよう」 「あ、はい」 「俺たち毎日幸せに暮らしています。だから安心して下さい」 「お父さん……お母さん、夏樹……僕も毎日、毎日、幸せです。だから安心して……迷子になんてなってないから」  言葉は魔法。  心を込めて伝えれば、届く人には届く。    すると、空から、ちらちらと白い雪が舞い降りてきた。  みーくんが被った赤いニット帽に、雪が祝福のキスをしていく。  時がゆったりと流れ出す。  祝福の声が賛美歌のように聞こえてくる。    おめでとう、瑞樹。  おめでとう、みーくん。  おにいちゃん、おめでとう。  幸せに、どこまでも幸せに――

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