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HAPPY HOLIDAYS 32
「宗吾くん、ところで……君たち家族のマイホームを建てるという話はちゃんと進んでいるのか」
1月3日の朝、唐突にお父さんから聞かれて、瑞樹と顔を見合わせてしまった。
「えっと……」
瑞樹がおずおずと口を開く。
「お父さん、それが……お互い仕事が忙しくて、まだ何も進んでいないのです」
「おいおい、家は今日の明日で建つもんじゃない。建てようという気持ちがあるなら、数年前から意識して過ごさないと……」
確かにお父さんの言う通りだ。
マンションを賃貸で借りるのとは訳が違う。
俺と瑞樹と芽生の家だ。
終の棲家にするつもりだ。
だから……とことん拘って、瑞樹の意見も沢山取り入れた家にしたい。
「その通りです。以前もお父さんに少し話したかもしれませんが、気になっている土地はあるのですが……」
「あぁ、そうだったな。あの時は一緒に見に行けなくてすまない」
「いえ、俺たちも日常に追われ……あと芽生が小学生の間は引っ越しはちょっと……という気持ちがあって、先延ばしになって……」
話しているうちに、いくつもの反省点が浮かんだ。
気に入る土地がすぐに見つかるとは限らない。その土地にあった家の間取りを考えるのにも時間がかかるだろう。設計士や建築会社を探すのも、簡単ではない。それに昨今は資材不足で家を建てるのにも時間がかかるようだ。
つまり悠長に構えている場合ではないのだ。
「しまった。悪かったよ。つい向きになって……あのマンションも行く度に、みーくんが過ごしやすい優しい色合いになって落ち着くよ。余計なことを言って、焦らせて悪かった」
「いえ、思い切って発破をかけてもらえて嬉しいです。感謝しています」
本心から感謝しているのに、くまさんは出過ぎたことを言ったと、ひたすら恐縮しだしてしまった。
そこに瑞樹が優しさのエッセンスを振りまいてくれる。
「あの……僕はこの赤いニット帽みたいに、赤い屋根がいいです。雲の上からも……よく目立って分かりやすいかなと……宗吾さん、どうでしょう?」
「瑞樹、俺も赤は好きだぜ。赤は情熱・元気・興奮……つまり強いエネルギーを感じさせる色だから元気が出るんだ」
「芽生くんは?」
「ボクはね、赤い色をみていると、自信をもてるし、勇気が出るよー だからボクも赤がいいな!」
話がどんどん膨らんでいく。
3人揃って夢の話をすると、世界が明るくなっていく。
幸せが見えてくる。
その様子を、お父さんとお母さんが目を細めて見つめてくれていた。
「いいな。夢を持ち合って、夢を寄せ集めてか」
「そうですね。まずはどんどん新しい家への夢を出し合って、形にしていこうと思います」
「あぁ、それはいいアイデアだ!」
芽生がすぐに画用紙を持ってくる。
「ボクが、ここにメモするよ」
「おぉ、頼む」
「芽生くん、じゃあ赤い屋根でお願いするよ」
「うん、お兄ちゃん、あとは?」
「そうだね、テラスが欲しいな」
「わぁ、お庭でBBQできるの?」
「うん、お茶を飲んだり、ゆったり過ごせる場所だよ」
瑞樹が積極的にアイデアを出してくれる。
前向きに参加してくれるんだな。
出会った時は、かなり控えめで見るからに儚げで、生への執着薄い男だった。守ってやらないとすぐに萎れてしまいそうな、すずらんのように可憐で、切ない雰囲気の男だった。
そんな君が、今では未来の家について夢を語れるようになった。
それが嬉しい。
くまのお父さんも葉山のお母さんも、揃って同じ気持ちなのだろう。
瑞樹が頬を紅潮させ、身振り手振りでマイホームへの夢を語る姿に見蕩れていた。
夢は……叶った時だけが幸せなんじゃない。
夢を抱けるということが、まず幸せなんだな。
****
「ヒロ君、せっかくだから、大沼にお花を持って行きましょうよ」
「そうだな。よし、ちょっと作ってくるよ」
「じゃあ私は優美に朝ご飯を食べさせるね」
元旦から2日にかけて、みっちゃんのご実家に宿泊させてもらった。
俺を我が子のように可愛がってくれるご両親。
照れ臭かったが嬉しかった。
「みっちゃん、ありがとうな」
「んー? どうしたの?」
「みっちゃんのご両親は、俺を心から大切に可愛がってくれるんだな」
「ヒロくんの頑張りをずっと応援してくれる良き理解者よ」
「流石、みっちゃんを育てたご両親だ」
「ヒロくん、私……ずっとこんな関係になりたかったのよ」
「ごめんな。迎えに行くのが遅くなって」
「ううん、今幸せだから帳消しよ」
普段は店の準備で忙しい朝だが、今日は違う。
小さな幸せがそこら中に転がっているのが見えるような、ゆったりとした明るい朝だった。
「よし、出来たぞ」
「あら三つも?」
「一つは俺の大切な奥さんに」
「まぁ!」
「みっちゃん、いつもありがとう。愛を込めて――」
さぁ、行こう!
俺の父さんと母さんと弟一家が待つ大沼の家に。
集おう! 皆で笑おう!
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