1602 / 1645

HAPPY HOLIDAYS 40

「じゃあ、そろそろ行くね」 「あぁ、みーくん、またおいで」 「瑞樹、待ってるわ」 「うん」  別れを寂しく感じるのは、過ごした時間が充実していたから。  名残惜しく感じるのは、沢山の愛を受けたから。 「さぁ、これはみーくん家の分だぞ」 「わぁ、重たい!」 「ははっ、宗吾くんから大盛りのリクエストが入ったのさ。広樹は小さいのな。減ったらまた取りに来るといい」 「はい、お父さん」  お父さんが、お土産にくまさん印の大瓶の蜂蜜を持たせてくれた。 「それから、こっちは広樹家族と瑞樹家族、それぞれに」 「これは?」 「俺が去年撮った写真をまとめたアルバムだ。まぁ『家族アルバム』っていうのかな? その……押しつけてもいいか」 「すごく嬉しい。お父さん、見てもいい?」 「あぁ」  アルバムを開くと、家族の笑顔が溢れていた。  デジタル化がどんなに進んでも、こうやって手で触れられる写真は大切だ。    想い出に、手が届く。  思い出を、花束のように抱きしめられる。  アルバムを抱きしめていると、隣りで広樹兄さんも同じことをしていた。 「広樹と瑞樹はやっぱり仲良し兄弟だな。行動パターンがそっくりだ」 「そうかな?」 「そうですか」    そうだったら嬉しい。  ずっとずっと前から、お兄ちゃんは僕の憧れ。    一緒に暮らしていた頃は自分のことで精一杯で、迷惑ばかりかけてしまったけれども、逞しくて、優しくて、包容力のあるお兄ちゃん。  何度も何度も折れそうな心を治してくれてありがとう。  あっ、ちょっと待って。  さっきからブラコン過ぎるかな?  そもそも自分の世界に入り過ぎだ。  心配になり慌てて周囲を見渡すと、宗吾さんと芽生くんが肩を並べてニコニコ、僕を見ていた。  つい、昔のくせで謝ってしまう。 「宗吾さん、すみません」 「んー? なんで謝るんだ? もっと甘えていいんだぞ~ そのために来たんだから」 「えっ」  宗吾さん……    言葉って偉大ですね。  僕はその言葉に背中を押してもらい、広樹兄さんに抱きついた。 「わっ! 瑞樹 突然どーした?」 「お兄ちゃんと一緒が嬉しくて」  僕のために膨大な時間割いてくれた優しい兄だから、こうやっていつまでも触れ合いたくなる。  また涙ぐみそうになっていると、芽生くんが声をかけてくれた。 「お兄ちゃん、お別れはスマイルだよ」  芽生くんが可愛い笑顔を振りまいてくれたので、僕もつられて笑えた。 「そうだ、瑞樹、君は笑った方がいい」 「宗吾さん、はい、そうします」  だから僕はあなたを……今日も好きになる。  何度も思う。  好きを更新できる人、それが宗吾さんだ。 「さぁ、行こう」 「うん! お父さん、お母さんまた来るね」 「あぁ、またおいで」  広樹兄さんの運転で、僕たちは空港に向かう。  車に乗り込むと、葉山フラワーショップのバンは花の香りで包まれていた。  とても幸せな香りで満ちていた。  窓の外には雪がちらついている。  でも、僕の心はここに来てからずっとポカポカだ。 「さぁ出発だ」  かつてお父さんの仕事場だった大沼のログハウスは、今は僕のお父さんとお母さんが仲良く暮らす家になった。  お父さんとお母さんも、名残惜しそうに手を振っている。  仲良く並んでいつまでも、いつまでも。 「また来ます!」  ずっと怖かった、未来の約束。  無残に切り落とされてしまうのが怖くて夢を抱けなかった。  ずっと怯えていた。  でも、恐れていては何も抜け出せない。 「あっ、おじいちゃんとおばあちゃんも赤い帽子かぶってるよ」 「あ、本当だ」 「わぁ、とっても目立っていいね」 「うん、うん……」  お父さんとお母さんまでおそろいのニット帽。  毛糸が沢山あったのかな?  とっても似合っている。  くまさんの幸せそうな顔、お母さんの幸せそうな顔。  相思相愛、満たされている。    本当に雪の中で赤い色はとても目立るんだな。  だから雲の上からも見つけやすかったんだね。  夏樹、遊びに来てくれてありがとう。 「お兄ちゃん、あのね、さっき一緒の夢を見たよね」 「芽生くんも見てくれてありがとう」 「ボクはお兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんとの思い出いっぱい作るんだ。これからもずっといっしょにね」 「芽生くん……うん、うん、そうしよう」  みっちゃんと優美ちゃんは、しばらくすると眠ってしまった。  連日の疲れもあるのだろう。  今日来てくれてありがとうございます。  幸せな時間を過ごせた余韻に浸っているのか、皆、車の中では喋らなかった。  だから優美ちゃんの小さな可愛い寝息が聞こえてくる。  花の香りに包まれ、小さな天使に導かれ、夢を抱いて生きて行く。  それが今年の僕だ。 **** 「いっくん、明日からまた保育園だから、もう寝ないと駄目よ」 「えー もうなのぉ。つまらないなぁ。もっとみんなといっしょにいたいのに……」  就寝前、いっくんが珍しく駄々を捏ねた。  いや、これは我が儘なんかじゃない。4歳児なら普通のことだろう。  それだけ家族で過ごす時間が楽しかったという証だ。 「いっくん、パパも明日から仕事なんだ。もっと一緒にいられるために頑張るよ」 「しょっか、パパもおちごとなんだぁ……じゃあ、いっくんもがんばる」 「よし、一緒に頑張ろうな」 「うん、いっくんね、いっちょってだいすき。いっくんね、ずっとそうしたかったの」 「そうか、そうか」 「えへへ、パーパ、パーパ、だいしゅき」  子犬みたいに戯れるいっくんを、布団の中で優しく抱き締めた。 「それに来週はまた楽しいことがあるぞ」 「んー? なんでしゅか」 「あれ? 忘れちゃったのか」  いっくんは布団の中で可愛い顔を傾げた。 「いっくんのお誕生日だよ。1月11日はいっくんの5歳の誕生日だ」 「あっ! しょっか、いっくん、5しゃいになるんだね」 「あぁ、5歳だ」 「わぁ……びっくり。いっくん、大きくなるんだね」 「そうだぞ。だが、いつまでもパパの可愛いいっくんだ」 「よかったぁ、はやくあしたにならないかなぁ」 「どうして?」 「えへへ、おたんじょうびがまちどおしいの」 「よかった!」 「むにゃ……むにゃ……むにゃ」  お休みいっくん。  すやすやと可愛い寝息が聞こえてくる。  楽しかった休暇は終わるが、今年は始まったばかりだ。  今年は槙が家族に加わり、ますます賑やかな年になるだろう。  すみれを愛し、息子達を愛し、生きて行こう。  俺がこんなに人を好きになれるなんて、人生分からないものだな。  俺は今が好きだ。  兄さんがそうであるように、俺も同じ気持ちだ。  いっくんの可愛い寝息に導かれ、俺はこの1年を元気よくスタートさせる。                   『HAPPY HOLIDAYS』 了  

ともだちにシェアしよう!