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HAPPY HOLIDAYS 40
「じゃあ、そろそろ行くね」
「あぁ、みーくん、またおいで」
「瑞樹、待ってるわ」
「うん」
別れを寂しく感じるのは、過ごした時間が充実していたから。
名残惜しく感じるのは、沢山の愛を受けたから。
「さぁ、これはみーくん家の分だぞ」
「わぁ、重たい!」
「ははっ、宗吾くんから大盛りのリクエストが入ったのさ。広樹は小さいのな。減ったらまた取りに来るといい」
「はい、お父さん」
お父さんが、お土産にくまさん印の大瓶の蜂蜜を持たせてくれた。
「それから、こっちは広樹家族と瑞樹家族、それぞれに」
「これは?」
「俺が去年撮った写真をまとめたアルバムだ。まぁ『家族アルバム』っていうのかな? その……押しつけてもいいか」
「すごく嬉しい。お父さん、見てもいい?」
「あぁ」
アルバムを開くと、家族の笑顔が溢れていた。
デジタル化がどんなに進んでも、こうやって手で触れられる写真は大切だ。
想い出に、手が届く。
思い出を、花束のように抱きしめられる。
アルバムを抱きしめていると、隣りで広樹兄さんも同じことをしていた。
「広樹と瑞樹はやっぱり仲良し兄弟だな。行動パターンがそっくりだ」
「そうかな?」
「そうですか」
そうだったら嬉しい。
ずっとずっと前から、お兄ちゃんは僕の憧れ。
一緒に暮らしていた頃は自分のことで精一杯で、迷惑ばかりかけてしまったけれども、逞しくて、優しくて、包容力のあるお兄ちゃん。
何度も何度も折れそうな心を治してくれてありがとう。
あっ、ちょっと待って。
さっきからブラコン過ぎるかな?
そもそも自分の世界に入り過ぎだ。
心配になり慌てて周囲を見渡すと、宗吾さんと芽生くんが肩を並べてニコニコ、僕を見ていた。
つい、昔のくせで謝ってしまう。
「宗吾さん、すみません」
「んー? なんで謝るんだ? もっと甘えていいんだぞ~ そのために来たんだから」
「えっ」
宗吾さん……
言葉って偉大ですね。
僕はその言葉に背中を押してもらい、広樹兄さんに抱きついた。
「わっ! 瑞樹 突然どーした?」
「お兄ちゃんと一緒が嬉しくて」
僕のために膨大な時間割いてくれた優しい兄だから、こうやっていつまでも触れ合いたくなる。
また涙ぐみそうになっていると、芽生くんが声をかけてくれた。
「お兄ちゃん、お別れはスマイルだよ」
芽生くんが可愛い笑顔を振りまいてくれたので、僕もつられて笑えた。
「そうだ、瑞樹、君は笑った方がいい」
「宗吾さん、はい、そうします」
だから僕はあなたを……今日も好きになる。
何度も思う。
好きを更新できる人、それが宗吾さんだ。
「さぁ、行こう」
「うん! お父さん、お母さんまた来るね」
「あぁ、またおいで」
広樹兄さんの運転で、僕たちは空港に向かう。
車に乗り込むと、葉山フラワーショップのバンは花の香りで包まれていた。
とても幸せな香りで満ちていた。
窓の外には雪がちらついている。
でも、僕の心はここに来てからずっとポカポカだ。
「さぁ出発だ」
かつてお父さんの仕事場だった大沼のログハウスは、今は僕のお父さんとお母さんが仲良く暮らす家になった。
お父さんとお母さんも、名残惜しそうに手を振っている。
仲良く並んでいつまでも、いつまでも。
「また来ます!」
ずっと怖かった、未来の約束。
無残に切り落とされてしまうのが怖くて夢を抱けなかった。
ずっと怯えていた。
でも、恐れていては何も抜け出せない。
「あっ、おじいちゃんとおばあちゃんも赤い帽子かぶってるよ」
「あ、本当だ」
「わぁ、とっても目立っていいね」
「うん、うん……」
お父さんとお母さんまでおそろいのニット帽。
毛糸が沢山あったのかな?
とっても似合っている。
くまさんの幸せそうな顔、お母さんの幸せそうな顔。
相思相愛、満たされている。
本当に雪の中で赤い色はとても目立るんだな。
だから雲の上からも見つけやすかったんだね。
夏樹、遊びに来てくれてありがとう。
「お兄ちゃん、あのね、さっき一緒の夢を見たよね」
「芽生くんも見てくれてありがとう」
「ボクはお兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんとの思い出いっぱい作るんだ。これからもずっといっしょにね」
「芽生くん……うん、うん、そうしよう」
みっちゃんと優美ちゃんは、しばらくすると眠ってしまった。
連日の疲れもあるのだろう。
今日来てくれてありがとうございます。
幸せな時間を過ごせた余韻に浸っているのか、皆、車の中では喋らなかった。
だから優美ちゃんの小さな可愛い寝息が聞こえてくる。
花の香りに包まれ、小さな天使に導かれ、夢を抱いて生きて行く。
それが今年の僕だ。
****
「いっくん、明日からまた保育園だから、もう寝ないと駄目よ」
「えー もうなのぉ。つまらないなぁ。もっとみんなといっしょにいたいのに……」
就寝前、いっくんが珍しく駄々を捏ねた。
いや、これは我が儘なんかじゃない。4歳児なら普通のことだろう。
それだけ家族で過ごす時間が楽しかったという証だ。
「いっくん、パパも明日から仕事なんだ。もっと一緒にいられるために頑張るよ」
「しょっか、パパもおちごとなんだぁ……じゃあ、いっくんもがんばる」
「よし、一緒に頑張ろうな」
「うん、いっくんね、いっちょってだいすき。いっくんね、ずっとそうしたかったの」
「そうか、そうか」
「えへへ、パーパ、パーパ、だいしゅき」
子犬みたいに戯れるいっくんを、布団の中で優しく抱き締めた。
「それに来週はまた楽しいことがあるぞ」
「んー? なんでしゅか」
「あれ? 忘れちゃったのか」
いっくんは布団の中で可愛い顔を傾げた。
「いっくんのお誕生日だよ。1月11日はいっくんの5歳の誕生日だ」
「あっ! しょっか、いっくん、5しゃいになるんだね」
「あぁ、5歳だ」
「わぁ……びっくり。いっくん、大きくなるんだね」
「そうだぞ。だが、いつまでもパパの可愛いいっくんだ」
「よかったぁ、はやくあしたにならないかなぁ」
「どうして?」
「えへへ、おたんじょうびがまちどおしいの」
「よかった!」
「むにゃ……むにゃ……むにゃ」
お休みいっくん。
すやすやと可愛い寝息が聞こえてくる。
楽しかった休暇は終わるが、今年は始まったばかりだ。
今年は槙が家族に加わり、ますます賑やかな年になるだろう。
すみれを愛し、息子達を愛し、生きて行こう。
俺がこんなに人を好きになれるなんて、人生分からないものだな。
俺は今が好きだ。
兄さんがそうであるように、俺も同じ気持ちだ。
いっくんの可愛い寝息に導かれ、俺はこの1年を元気よくスタートさせる。
『HAPPY HOLIDAYS』 了
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