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冬から春へ 1
前置き
『HAPPY HOLIDAYS』を読んで下さってありがとうございます。もう二月ですね。お正月の話が40話にも及び、しかも『天上のランドスケープ』とのクロスオーバーで、夏樹との再会ファンタジーにもなりました。
物語についてきて下さってありがとうございます。
今日からはまた日常の物語です。大きな事件も起こらない平和な物語なので、少し退屈かもしれませんが、小さな幸せを丁寧に探していきたいです。
では物語は昨日の流れから、徐々に春へと繋げていきます。
『冬から春へ』をスタートです。
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みーくんたちが帰ってしまうと、ログハウスは急に静かになった。
「勇大さん、今日からまた二人ね。夕食は何にする?」
「そうだな、今日はチーズフォンジュはどうだ? 白ワインと一緒に」
「いいわね」
「よし、まずは部屋を片付けるか」
後片付けをしていると、さっちゃんがぼんやりと自分の手を見つめていた。
「さっちゃん、どうした?」
「勇大さん、人の手ってすごいのね。人を暖めることも導くことも出来るのね」
「そうさ、さっちゃんの手は偉大だ。この手で3人の息子を育てた優しいお母さんの手だ」
「そんな風に褒められるのは慣れてないの。くすぐったいわ」
さっちゃんの手に俺の手を重ねると、すっぽりと包み込めた。
この小さな手で、ご主人が亡くなった後ひとりで奮闘してきたのか。
大変な苦労の日々、泣きたいことも多かっただろう。
それでもここまで賢明に生きてきた人だ。
愛おしい。
「ここまでよく頑張ったな」
「……勇大さん、私……間違っていなかったのね」
「あぁ、君が育てた息子たちは、皆、逞しく可愛い花を咲かせている」
「あのね……息子たちがそれぞれ可愛くてたまらないの。広樹の不器用さも瑞樹の不器用さも、潤の不器用さも、全部、全部愛おしいの」
「それが母というものさ。まるごと息子を愛している。さっちゃんはいいお母さんだ。そんで……コホン、俺の可愛い奥さんだ」
「まぁ、勇大さんってば」
俺たちは、まだまだ若い。
この位、惚気てもいいよな?
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私はデパートの初売りでお目当ての食材福袋を無事に入手できて心が弾んでいた。隣りを歩くお母さんも同じようにウキウキしているのが伝わってくるわ。
「みちちゃん、次はどこへ行く?」
「あ、あの、紳士服売り場に寄ってもいいですか」
「もちろんよ」
普段だったら、憲吾さんがいないと絶対に行かない場所だわ。
このデパートには、憲吾さんが贔屓にしている『white Brothers』という紳士服のお店が入っているの。留守番をしてくれた彼に、お土産を買ってあげたくなったの。
「お母さん、ここ、憲吾さんのお気に入りなんです」
「あの子らしいトラッドスタイルね。あっ、見て! ここでも福袋を売っているわよ」
「わぁ、本当ですね」
「大変、Lサイズは残り1個よ。これは買わなきゃ! しかも1万円で5万円分入っているんですって。かなりお得ね」
お母さんは、少女のようにはしゃいでいた。
「でも福袋って何が入っているか分からないので……憲吾さんは好きではないと思います」
「……そうかもしれないけれども、たまにはいいじゃない。特に憲吾には遊び心も必要よ。あの子ってばいつも黒か白かで……」
確かに仕事と一緒で黒か白の服ばかりだわ。
お母さんって、話せば話すほど気が合うわ。
「じゃあ、これ買ってみます」
「ふふ、そうこなくっちゃ。私が半分出すわ。二人からのお土産にしましょう」
「はい」
あーちゃんには子供服の『Family』の福袋を買って帰宅した。
「ただいま~」
「お帰り、楽しかったかい?」
憲吾さんがすぐに出迎えてくれた。
機嫌は悪くないようでほっとした。
私ってば何に怯えて?
もう以前の憲吾さんとは別人なのに。
「あら、憲吾、変な恰好ね」
「まぁ」
お母さんが指摘したので、彼の全身を眺めると、何故か下半身はパジャマだった。
「あぁ、ちゃたが膝でおしっこをしてしまって」
「えぇ! 憲吾さん、大丈夫だったの?」
「あぁ、ちゃたは可愛いな。私の手をぺろぺろしていたぞ」
この人、本当に憲吾さんなのかしら? 別人のよう。
「ええっと……ありがとう。これお母さんと私からお土産なの。その……福袋だから中身が分からないんだけど……」
「へぇ、いいな冒険みたいで」
「そう! 冒険なの!」
憲吾さんって、こんなにノリが良かったかしら?
「開けてもいいか?」
「もちろんよ」
中からは無難な白シャツと黒パンツが出てきて安堵したけれども、もっと冒険してもよかったのにと残念にも思った。
「あともう一着入っているぞ」
「何かしら」
取り出したのは、真っ赤なセーターだった。
「真っ赤……」
しまった。まさか真っ赤を引くとは……これは行き過ぎよ。
絶対に嫌がるわ。
そう思ったのに……憲吾さんは目を細めていた。
「憲吾さん……ごめんなさい。赤なんて着ないのに……やっぱり福袋は難しいわね」
「いや、福袋は面白いな。私だったら選ばないものが入っていて……赤か、私に似合うだろうか」
「パパ、あーちゃ、これ、しゅき」
そこにあーちゃんのプッシュが入ると、憲吾さんは着ていた黒いセーターを脱ぎ捨て試着してくれた。
「赤といってもシックな赤で、かっこいいな。気に入ったよ」
「よかったわ」
翌日もっと嬉しいことがあった。
大沼の帰省から戻った瑞樹くんが、赤いニット帽を被って現れたの。
「憲吾さん、これお土産です」
「おぉ、瑞樹、その赤い帽子、いいな」
「ありがとうございます。実は大沼の母が編んでくれました」
「そうか、ほら、私も赤だ。今年のトレンドカラーなのか」
「赤いセーター姿の憲吾さん、とても素敵です。よく似合っていますね」
「そうかぁ」
瑞樹くんが花のように微笑めば、憲吾さんがデレッとなる。
憲吾さんなのに宗吾さんみたいで、苦笑してしまったわ。
瑞樹くんのおかげで、どんどん変わっていくわ。
憲吾さん、最近とってもいい感じなの。
ずっとずっとフランクになって、冒険も出来るようになったのよ。
ありがとう。
私も瑞樹くんが大好きよ。
あなたも私も滝沢家にやってきた者同士。
今年もどうぞよろしくね。
****
その晩、芽生くんを子供部屋で寝付かした後、宗吾さんに寝室のベッドに押し倒され、ギュッと抱きしめられた。
「君は病み上がりで疲れているのは分かっている。だが一度だけ……抱いてもいいか」
宗吾さんの熱い眼差しを浴びて、僕も欲情してしまった。
「もう疲れは取れました……ぐっすり眠って、沢山甘えて……その……僕は元気ですよ」
「お? ここも元気なのか」
宗吾さんが顔を上げて、ニカッと笑う。
本当に分かりやすい人だ。
「……だから宗吾さんの好きにしてもいいですよ」
「寛大だな」
「僕も……そういう気分なんです」
囁きながら甘い口づけを届けると、すぐに宗吾さんのやる気スイッチが入ったのが分かった。
くすっ、やっぱり分かりやすい人だ。
「瑞樹、またいつもの日々に戻っていくんだな」
「はい、また小さな幸せを探して……」
「早速、小さな幸せを見つけたぞ」
「あっ……」
深く口づけをされて、愛を注ぎ込まれる。
幸せで満たされるこの瞬間が、僕は好きだ。
だから僕の方からも舌をちろりと絡めてみた。
「お? 今年の君は積極的だな」
「そっ、そんなつもりでは……」
「すごくいい!」
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