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冬から春へ 57

「いっくん、幼稚園、楽しんでね」 「めーくん、いってきまーす。ママぁ、はやく、いこうよぅ」 「え? まだ早いから、ちょっと待ってね」 「うん! わかった」  さきにめーくんにいってらっしゃいして、それからそーくんとみーくんにもいってらっしゃいをしたよ。  ママはまきくんをだっこして、それからいっくんとおててギュッとつないでくれたよ。  いっくんね、きょうから、ようちえんにいくんだよ。  ちょっとドキドキ。  ちょっとワクワク。 「ママ、あのね、ようちえんってね、めーくんがいってたけど、おともだちがたくさんいるんだってぇ」 「そうね、軽井沢の保育園よりもっと多くのお友達が通っているんでしょうね。こんな都会の幼稚園だもの」 「そんなに、いっぱいなの? おともだち100にんできるかなぁ」 「いっくん、あせらないで、ゆっくりゆっくりね」 「うん」  ようちえんって、どんなところ? どこにあるのかな?  いっくん、あるきながら、キョロキョロしちゃった。 「あ! おともだちみつけたよ」  あかちゃんをだっこしたママが、せいふくをきたこと、てをつないでいたよ。 「ママぁ、あのこもいっくんといっしょだね」  みんなママやパパやおじーちゃん、おばーちゃんにおくってもらうのかな? ほいくえんといっしょだね。 「芽生くんが通っていた幼稚園は、バスとお歩きの子がいるそうよ。いっくんはお歩きさんチームよ」 「えー バス? しゅごい!」 「そうよねぇ、ほら、あのバスよ」 「わー!」  きいろいバスに、いっくんとおなじせいふくをきたこが、いっぱいのっていたよ。 「なんだか、いっぱいすぎるよぅ」 「大丈夫、大丈夫、いっくんらしくね」 「……だいじょうぶかな」  ちょっとしんぱい。  でもね、ようちえんのもんに、はっぱさんのマークがついていたんだよ!  だからげんきになったよ。 「ママぁ、いっくん、はっぱようちえんにはいるの?」 「ふふ、よかったわね。校章に葉っぱがついているなんて。あ、ほら、いっくんの鞄と帽子にも葉っぱマークがあるわよ」 「わぁ、いっくんうれちい」  でもね、ママときょうしつのまえで、おわかれしたあと、こまっちゃった。 「みなさん、おはようございます。新しいお友達、葉山樹くんよ。みんな仲良くしてね。いつきくん、ご挨拶をしてちょうだい」 「あい! はやまいつきでしゅ。よろちくおねがいしましゅ」  ぺこんとしたら、わらいごえがきこえたよ。 「すげー あかちゃんみたい」 「せんせー、この子クラスまちがえてます」 「こらっ」 「えっと……あ……」  どうちよ。わらわれちゃった。  いっくんね、おしゃべりがじょうずじゃないから……  せっかくおにいちゃんらしくおしゃべりしようって、れんしゅうしてたのに、かじでまたもどっちゃったんだった。  パパぁ、どうちよ?  ママぁ、どうちよ?  みんな、いっくんをじろじろみるけど、おはなしはしてくれないの。  みんなとおもだちになりたいのに、むずかちいよ。  だから、おえかきやこうさくも、ずっとひとりぼっち。  みんなたのしそうにおしゃべりしているのに。  まわりには、たくさんおともだちいるのに、さみちい。  しょんぼり。  そうだ!  ママがいってたことおもいだしたよ。  ゆっくりゆっくりっていってたよ。  みんなも、きゅうにいっくんがきたから、びっくちしちゃったのかも。  あ……そうだ!  パパがおしえてくれたことも、おもいだしたよ。 (いっくん、幼稚園で困った時は、相手の名前を覚えて口に出してごらん。名前で呼ばれるのって嬉しいから、仲良くなれる近道かもしれないぞ)  うん! やってみよう。  いっくん、みんなのおなまえおぼえよう。  だって、おともだちになりたいもん。  ゆっくりゆっくりでいいから、なかよくしてね。  クレヨンやせいふくに、おなまえがついているよ。  いっくん、ひらがなよめるようになって、よかった。  めーくんがおしえてくれたおかげだよ。 「さぁ、お弁当のお時間ですよー 皆さん手を洗いましょう」  わぁい!  おべんとのじかん!  いっくん、すごくたのちみだったの。 「せーの、いただきます!」 「いただきましゅ! いただきますだった」  ドキドキ、わくわく。  おべんとうのふたを、そっとあけると…… (いっくんのお弁当のイメージcollage、海) 「わぁ!」  しゅごい! しゅごいよ。  ママぁ、ありがとう。  よつばのくろーばーと、てんとうむしさん。  もりのきも!  すごく、おいしそう。  すごく、かわいい。  こんなおべんと、たべてみたかったよ!  それにおべんとうばこには、ちゃんといっくんのおなまえがかいてあるよ。  びっくりとうれちいので、いっぱい。 「わぁ~ かわいいおべんとうね」  あ! おとなりのおんなのこが、いっくんのおべんとうみてくれたよ。 「え?」 「すごくかわいいね!」 「あ、ありがとう。ミクちゃん」 「え? 私のなまえ、どうして、しってるの?」 「さっき、おぼえたよ」 「わぁ、すごい。私もおぼえる! えっと、あ、ここにかいてあるね。いつきくんだ」 「いっくんでいいよ」 「うん、いっくんおともだちになろー」 「うん!」  すごい‼ パパのいうとおりにしたら、おともだちひとりできたよ。  こんどはそのおとなりのおとこのこがはなしかけてくれたよ。 「へぇ、これよつばのクローバーなのか」 「そうだよ! ケンくん」 「お? おれのなまえしってんのか」 「うん! おぼえたよ」 「やるじゃん、どっからきたんだ?」 「えっと……かるい……ざ……」 「あ、軽井沢?」 「しょう!」 「いったことある!」 「そうなの?」 「スキーにいったんだ」 「わぁ、かっこいい」  えへへ、おともだちと、おしゃべりってたのしいね。 「いつき、あとであそぼうぜ」 「うん!」  ゆっくりゆっくりでいいんだね。  おともだち、ふえたらいいな。  ママぁ、パパぁ、ありがとう。  いっくん、ようちえん、たのしいよ! うれしいよ!

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