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冬から春へ 65

「お兄ちゃん、あのね、いっくん、そろそろパパが恋しいみたいだよ」 「うん、そうだね」 「あー なんとかしてあげたいな。ボクが空を飛べたら、ジュンくんをここに連れて来てあげるのになぁ。ボクには何も出来ないのがくやしいよ」  芽生くんが、そっと気持ちを伝えてくれた。  いっくんにとって、芽生くんはお兄ちゃんのポジションだ。  芽生くんも兄として、真剣にいっくんの思いに向き合っている。  芽生くんの心の成長を強く感じるよ。 「そんなことないよ。芽生くんがずっと傍にいてくれるから、いっくん毎日楽しいと思うよ」 「そうかなぁ?」 「そうだよ、流石いっくんのお兄ちゃんだね」 「わぁ、えへへ、うん、ボクいっくんのお兄ちゃんだよ。もっと遊んでくるー」 「あぁ、行っておいで」 「うん!」  芽生くんが芝生にしゃがんでいるいっくんの元へ走り出す。 「いっくん、なにしてるのー?」 「めーくん、あのね、ちゃいろのはっぱさんをあつめてるの」 「ボクも手伝うよ」  真冬の公園は寒くて殺風景だけれども、いっくんの可愛い帽子が揺れると、まるでそこに春がやってきたように見えた。  いっくんはまるで春の妖精だ。  タンポポのように、可愛らしく連れている。  あぁ、あの笑顔、早く潤にも見せてやりたいな。  いっくんの笑顔を、兄さん、ちゃんと守れたかな?   宗吾さんと芽生くんのお陰で、笑顔を絶やすことなく、ここまで過ごせたと思うんだ。  でも、そろそろ……  僕も限界だ。  僕も潤の顔を、直に見たくなってきた。  軽井沢で新居の準備を頑張った潤は、きっと一回りも二回りも頼もしくなったことだろう。     いっくんに負けず劣らず、僕も潤が大好きだ。  頑張り屋でガッツのある潤。  自分をしっかり見つめて、どんどん成長する潤。  潤――  僕だって、早く潤に会いたいよ。  数年前には考えられなかった境地だ。  こんなにも心が動くなんて――  宗吾さんと芽生くんとの出逢いが、僕にもたらしてくれたものは、計り知れない。  二人が夢中で落ち葉で遊んでいる様子を、少し離れた場所から見守っていると、背後にカサッと枯葉を踏む音がした。  何気なく振り返ると、そこには……  一段と逞しくなった潤が立っていた。  火事の夜、軽井沢に駆けつけて会った時よりも、やつれていたが、逞しくなっていた。  それは、この一ヶ月間、潤がどんなに頑張ったかを物語っていた。 「兄さん、やっと来れたよ」 「潤……突然過ぎるよ」 「ふっ、兄さんの驚いた顔が見たくて、内緒で来たんだ」 「潤……」  どうしよう?  言葉が浮かんでこない。  感激し過ぎて、言葉に詰まってしまう。 「兄さん、いっくんの笑顔を守ってくれて,ありがとう!」  僕が一番心がけていたことが伝わっていた。    ちゃんと僕は守れたんだね。  僕は涙脆いから、また視界が滲んでしまうよ。 「うっ……」 「おっと泣くなよ。兄さんを泣かせるつもりじゃ。頼む! オレ、笑顔の再会がいい」 「そうだね。うん、潤、お疲れ様」  僕は涙を引っ込め、潤とハイタッチした。 「ありがとう! さてと、いっくんはどこだ?」 「いっくんはタンポポみたいだよ。あそこだ」 「おぉ? あの黄色いポンポンか」 「うん、遠くからも目立つようにね」 「バッチリだ」 「早く行ってあげて」 「あぁ、荷物持っていてくれ」  リュックを僕に預けて、潤が走り出す。  早く、早く――  いっくんを抱き締めてあげてくれ。 「いっくん! パパが来たぞ-」 「え? あ……パパ? パパだ」  いっくんは、目を大きく見開き、手で口を押さえていた。  潤が走り出すと、いっくんも落ち葉を撒き散らしながら走り出した。 「パパー パパー あいたかったよぅ」 「いっくん、パパの大事ないっくん、会いたかったぞ!」  潤がいっくんを抱き上げる。  いっくんが満面の笑みでしがみつく!  こうやって大切な人同士が、また繋がっていく。  解けないように、しっかりと結び目を作って。

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