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冬から春へ 66
いっくんね、よるねむるとき、あさおきたとき、こうえんにきたとき、いつもパパをさがしちゃうの。
パパはかるいざわにいるのに、いないかなぁってキョロキョロしちゃうの。
パパはいっくんたちのおうちをつくるために、がんばっているんだから、いっくんもがんばらないとダメ。
ないちゃダメダメ。
ぜんぶ、わかってるよ。
いっくん、パパのこだもん。
パパみたいに、つよいこになるんだもん。
でもね、もう……そろそろ……あいたいよぅ。
がまんできないよぅ。
パパぁ、パパぁ、いっくんはここだよー
いっくんね、きょうはとってもめだつぼうしをかぶっているよ。
きいろいタンポポになってるの。
だから、タンポポのわたげにつかまって、パパのところにとんでいけたらいいのになぁ。
「いっくん、どうしたの? 元気ないね」
「めーくん、いっくん、げんきだよ」
「……そっか、うん! あ、あそこのはっぱ、すごくキレイだよ」
「わぁ」
めーくんと、はっぱさんをいっしょにさがしたよ。
これは、パパへのおみやげ。
もういっぱいあつめたよ。
こんど、はっぱさんのおなまえおしえてね。
ガサガサ――
あれ? なんのおとかな?
おかおをあげると、とおくから、いっくんをよぶこえがしたよ。
「いっくん! いっくん、いっくんー!」
え!
あれはパパなの?
どうちて?
どうちて、ここにいるの?
いっくんびっくりして、ないちゃいそう。
「いっくん! パパが来たぞ」
「パパ? パパだ!」
パパが、はしってきてくれる。
いっくんもいく!
「パパー パパー あいたかったよぅ」
「いっくん、パパの大事ないっくん、会いたかった!」
ピョーンっとジャンプしたら、パパがいっくんをふわりとだっこしてくれたよ。
「いっくん、いっくん、元気だったか」
「うん! パパぁ、ほんもののパパなの?」
「あぁ、幻なんかじゃない、パパがいっくんたちを迎えに来たんだ」
ぎゅっとしてくれる。
これはゆめじゃない。
よかった。
よかったよぅ。
****
潤といっくんの再会に、胸が熱くなった。
いっくんは、よほど我慢していたのだろう。
もう、潤にくっついて離れない。
「パパぁ、パパぁ、もう、おうちにかえれるんだよね?」
「あぁ、そうだよ」
「もう、ずっといっしょ?」
「あぁ、もう離れないよ」
「よかったぁ」
「はやくおうちもみたいなぁ」
いっくんの無邪気な言葉に、潤が振り返って、僕たちを見た。
「兄さん、長い間本当にありがとう。このまま兄さんの家に行っていいか」
「もちろんだよ。あの……潤、今日……とんぼがえりしてしまうの?」
しまった。
急にいなくなってしまうのが寂しくて、甘えたことを言ってしまった。
すると潤は、僕をじっと見つめて、ゆっくりと首を横に振った。
「いや、兄さんさえ良かったら一泊させてもらえるか。流石にへとへとだ。宗吾さんにもお礼をしっかり言いたいし、宗吾さんのご実家にも挨拶に行きたい」
潤……
立派になったね。
けじめをつけてくれる姿に、兄としてまた感動した。
「うん、是非そうして欲しい。じゃあ戻ろう。菫さんも喜ぶよ」
「あぁ、いっくん、だっこのままいくか」
「うん!」
帰り道、芽生くんが手を繋いで欲しそうにしていたので、キュッと握ってやあげた。
「あ……お兄ちゃん、手を……ありがとう」
「僕も繋ぎたかったんだ」
不思議だね。
潤が迎えに来てくれたのは嬉しいことなのに、寂しく感じるなんて。
きっと芽生くんも同じ気持ちなのだろう。
「本当に良かったね。いっくん、ずっと待っていたから、本当に良かったよね」
必死に言い聞かせるように、芽生くんは話を続けた。
会いたい人に会えるって、すごいことだ。
会いたい人が迎えに来てくれて、本当に良かった。
あの頃……どんなに待っても来てくれなかったから、この光景が眩しいのかもしれない。
変だな、こんな気持ちになるなんて。
もっと素直に喜ばないと……
こんな所が僕はいつまで経っても駄目なんだ。
無言でいると、芽生くんが僕の手をキュッと握ってくれた。
今まで、それは僕の役目だったのに……
あぁ、またこの瞬間にも、君の成長を強く感じるよ。
そのまま利発な顔で、僕に話しかけてくれた。
「お兄ちゃん、ボクたち、ちょっとさみしくなっちゃったね」
「うん、そうだね。いっくんと過ごす日々が楽しかったからね」
「でもね、お兄ちゃんにはボクがいるよ。いつもそばにいるよ」
「芽生くん……僕も同じ気持ちだよ」
「とりあえず、いっくんとは明日まで一緒にいられるから、よかった。すぐに帰っちゃったらさみしいよね」
「そうだね。今度は僕たちから会いに行こう」
「ほんと? ぜったいだよ」
「約束しよう。芽生くんを僕が軽井沢に連れて行くよ」
あんなに怖かった未来への約束も、今は出来る。
宗吾さんと芽生くんと過ごす毎日の中で、幸せを更新しているから、出来る約束だよ。
「わぁ、楽しみだな。お兄ちゃん、早く帰ろう! 明日からの毎日が楽しみになったよ」
芽生くんの明るさが導いてくれる。
僕を幸せの草原へ――
「
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