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冬から春へ 67

「菫、待たせたな」 「……潤くん」  その一言を、私はずっと待っていた。    瑞樹くんの家は、とても居心地が良かった。  優しさに包まれた空間だった。  そして瑞樹くんだけでなく、宗吾さんと、ご実家のご家族からの愛情まで降り注ぐ明るい場所だった。    安心して待っていられる場所。    安全に過ごせる場所を提供してもらえて、本当に嬉しかったわ。    でも一人軽井沢に残り、来る日も来る日も大工仕事に明け暮れる潤くんの姿を想像すると、少しだけ切なくなった。  お父さんとお母さんが、潤くんの傍にいてくれるから大丈夫だと理解していたけれども、私も傍で支えてあげたかった。  守ってもらうだけでなく、私もあなたを守ってあげたかったの。    潤くんと出逢ってから、私といっくんは幸せすぎるから、その気持ちをもっと伝えたくて。 「オレの家族を迎えに来たぞ。菫……元気だったか」  私の頬を宝物のように挟む手は、少しカサついていた。 「私は元気よ。潤くんは?」  潤くんを見上げると、頬が少しこけていた。  ガサガサの手に、潤くんの現地での頑張りがダイレクトに伝わってきた。 「この通り元気だよ。菫たちの存在のおかげで、頑張れた」  満面の笑みを浮かべる潤くんにつられて、私も笑顔になれた。 「ありがとう! 本当にお疲れ様……」 「菫もいっくんも槙も、みんな元気そうで安心した。やっぱり東京に避難させて良かった。兄さんが引き受けてくれて本当に良かった」 「潤くんのお兄さんは最高で最強だったわ」 「へへ、だよな」 「うん!」  潤くんは瑞樹くんが大好きなので、鼻の頭を手の甲で嬉しそうに擦って、擽ったそうに笑っていた。    その笑顔、大好き。    潤くんを好きな気持ち、また一段と増したわ。  親兄弟を愛せる人は、愛情深い人よ。  私も両親に連絡を取ってみよう。    その気持ちも、また強く増した。 ****  家に戻り、菫さんとの感動の再会。  いっくんは少し離れた場所から、潤と菫さんを見つめて、とろけるように甘い笑顔を浮かべていた。  その表情は、まるで幼い僕のようだ。  僕も両親が仲良くしている姿を見るのが、大好きだったよ。  身体がぽかぽかして、ウキウキしてくるよね。  芽生くんも、さっきまで寂しそうな様子だったが、帰り道、僕と不安と寂しさを分かち合えたおかげか、吹っ切れたような爽やかな顔になっていた。 「お兄ちゃん、いっくん、今、とても幸せそうだね」 「そうだね」 「あのね、ボク、いっくんが本当にスキなの。弟がいるって、こんな気持ちなのかな?」 「いっくんはもう芽生くんの弟だよ」 「うん、だからね、弟の幸せそうな笑顔が見られて、うれしいよ」 「そうだね」  この別れは、永遠の別れではない。    僕の弟、夏樹のように二度と会えなくなる別れではない。  いっくんたちには、また必ず会える。    何度でも会える。  会いに行ったり来たりしながら、この先もずっと続いていく縁だ。  だから、大丈夫。  心の中で必死に言い聞かせていると、芽生くんが突然僕を抱きしめてくれた。  まだ僕より40cmほど背が低いので、腰に抱きつくような感じだったが、これは確実に励ましのハグだ。 「お兄ちゃん、なっくんにもう会えないの……さみしいよね。かなしいよね。ずっとなっくんの笑顔……見たかったよね」 「芽生くん?」 「あのね、いっくんと出会ってから、ボクね、なっくんのことをよくかんがえるんだ。弟ってどんな存在なのか分からなかったけど……いっくんは弟みたいだから……うーんとね、うまくいえないけど、ボクはずっとお兄ちゃんの弟だよ。どこにもいかないよ。ずっとそばにいるよ」 「芽生くん……」  小さな芽生くんが、全力で僕を励ましてくれているのが伝わってきた。  僕はもう夏樹には、この世で会えないけど、夏樹が芽生くんに逢わせてくれたと思っているよ。  こんなに優しくて、こんなに思いやりがあって……  芽生くんはすごい。  芽生くんは僕の天使だ。 「芽生くん、ありがとう。お兄ちゃんはその言葉は本当に嬉しいよ」 「よかった。お兄ちゃんの笑顔、大好きだから……笑っていて欲しい」 「うん、そうするよ。笑顔で見送ろうね」 「うん、僕もお兄ちゃんがいるから、さみしくないよ」 「ありがとう、本当にありがとう」  宗吾さんとの出逢いが、僕と芽生くんを結びつけてくれた。  宗吾さんと芽生くんと過ごす日々が、今日も僕を幸せに導いてくれる。

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