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番外編・季節のSS「お月見」
前置き(不要な方はスクロールして、飛ばして下さい)
こんにちは。志生帆海です。
昨日は1日がかりで秋庭同人誌の梱包作業をしました。
秋庭新刊をご予約下さり感謝しています。本当にありがとうございます。梱包に5時間以上かかったため、通常の更新分の執筆が出来ませんでした。ごめんなさい。
というわけで、番外編として季節のSSを書きました。
昨日はお月見、今日は満月ですので、お月見にちなんだ軽井沢の様子です。
尚、9月23日の秋庭では完売していた『幸せな存在』5周年記念本の再版も致します。詳しくはXにて(@seahope10)BOOTHも同日OPENします。
長々と前置き失礼しました。
では、どうぞ!
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「ママぁ、おつきさま、まんまるだね」
ほいくえんのかえりに、おそらをみたら、おつきさまが、まんまるだったよ。
「今日は中秋の名月で、明日は満月なのよ。あ、そうだ! いっくん、お月見団子を作ってみない?」
「え! いいの? いっくん、ずーっと、つくってみたかったの」
「もちろんよ。ママもしてみたかったの」
うれちいな、うれちいな。
おつきみには、おつきみだんごをたべるんだって、せんせいがいっていたよ。
まあるいおだんご、ころころするの、じょうずだよ。
いっくんね、たべられるおだんごもつくってみたかったの。
しろくて、もちもちしてるの、おいしそうだなって。
「じゃあスーパーに寄ろうね。休中は時間にゆとりがあって、いろんなことができるわ」
「いっくん、ママがいつもいてくれて、うれちいよ」
「ありがとう。ママもうれしい」
ママ、にこにこして、いつも、たのしそう。
うれちそう。
ママといっしょにおだいどころで、おだんごづくり、できるんだね。
たのしいね。
なかよちだね。
しあわせだね。
いっくんのだいすきなことばが、ぐるぐる!
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小さなエプロンをつけて、お月見団子作りに夢中ないっくん。
その可愛らしい顔に、私は幸せを噛みしめた。
いっくん、ずっと微笑んでいる。
潤くんと出会うまでは、いつも私の顔色を伺って寂しそうな顔をしていたのに、今はいつも微笑んでくれるのね。
親子で苦しそうな顔をしていた時は、皆との距離が遠く感じたけれども、今はとても近い。
笑顔でいるって、つきを呼ぶ魔法なのかしら?
「すみれ、ただいま」
玄関に迎えに行くと、潤くんは、沢山のすすきを抱えていた。
「潤くん、わぁ、すごい量ね」
「今日はお月見だろ? 職場の人が持っていけって」
「嬉しいわ。ちょうどお団子を作って飾った所なの」
「へぇ、じゃあタイムリーだったな!」
「潤くん、ありがとう」
潤くんの笑顔に、私も笑顔になる。
「いや、オレこそ、ありがとう。季節の行事っていいな。すみれと出会うまでは気にしたこともなかったが、今は一つ一つの日本の伝統行事を大切にしたいと思ってる」
「私も同じ気持ちよ」
潤くんと私は、価値観が似ている。
出会うまでお互いに不器用な生き方をしていた分、今はお互いの心を揃えて、毎日を丁寧に大切に過ごしている。
私たち、歯を食いしばるのは、もうおしまい。
今はナチュラルに自然体に――
「あっ! まきちゃん、駄目よ」
いっくんと私で作ったお月見団子、ピラミッド型に綺麗に積み上げていたのに、目を離したらまきちゃんがコロコロ転がしてしまったの。
せっかく作ったのに……
私はちょっとため息。
でも、いっくんは微笑んでいた。
どうして?
「いっくんは怒らないの?」
「きっと、まきくんも、さんかしたかったんだね。じょうずにおててをのばせたね」
「……でも、せっかく作ったものを壊されてしまって、がっかりしないの?」
気を遣ってばかりの子だから、思い切ってストレートに聞いてみたの。
「いっくんね、どんなかたちでもいいんだ。だってママとつくったおもいでがもう、ここにあるから」
「いっくん……」
健気で切ないわ。
もっと我が儘を言っていいのよ。
でも、これが素のままの、いっくんなのかもしれない。
ピュアでピュアで……
純真すぎる程きれいな心を持っているのが、いっくんだわ。
4人で屋上で月を見上げた。
「おそらのパパは、おつきさまのちかくにいるんだね」
「そうね、今頃、美樹くんもお月見をしているのかも……」
潤くんがいっくんを抱きかかえてくれる。
「きっとしているさ。いっくんのお手製のお団子、コロコロ転がって、美樹さんの元へ行ったのかもな」
「うん、きっとそう!」
いっくんは空に向かって、手を伸ばした。
そして嬉しそうに手を振った。
「おそらのパパぁ、おつきさまきれいでしゅか。いっくんのつくったおだんご、とどきましたか。おいちかったでしゅかー」
私たちのお月見は、どこまでもどこまでもハートフル。
いつも優しい夜を過ごしている。
潤くんと出会ってから、毎日が楽しい。
家族なかよしで、嬉しい。
お月様、ありがとうございます。
家族で見上げた月は、とても幸せそうに満ちていた。
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