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マイ・リトル・スター 11

前置き (宣伝を含みますので、不要な方はスクロールで飛ばして下さい) こんにちは、志生帆 海です。 秋庭スペース参加のため、定期連載を3日間お休みさせていただきました。 おかげさまで秋庭も無事に終わり、昨日はロスと余韻に浸っていました。 今回、表紙も挿絵も本文もオール書き下ろしの新刊を、初めて頒布することが出来ました。完成まで大変だったのですが、BOOTHで沢山のご予約をいただき、感謝しております。秋庭で直接お迎え下さった方もありがとうございます。 今回の主役はまさにこの物語に今、登場しているBARミモザの蓮とテーラーの大河の物語です。彼らがどうやって出逢い、どのような過程を経て結ばれたのか。実兄弟ならではの葛藤や蓮の娘の秘密など、盛り沢山です。大人な雰囲気でまとめた同人誌になります。詳細はXにて。https://x.com/seahope10 『幸せな存在 5周年記念本』も春庭で完売してしまったものを、再版しました。 当分の間、BOOTHで頒布しておりますので、ご興味があれば表紙絵だけでも見にいらして下さいね。大河と蓮をかっこ良く描いていただけました。 長々と宣伝すみませんでした。 では本文です。 今日はいろんな視点で…… ****  ふぅ、やっと仕事が終わった。  金森が、またやらかした。  クレーム処理も大変だぜ。  クライアントが良い方だったので、なんとか丸く収まったが、他の部署に移動したのに、相変わらず仕事が雑な奴で、こっちにまで迷惑をかけてくる。  やれやれ…… 「菅野、ありがとう。やはり君に任せて良かった。助かったよ」 「とんでもないです。先方はリーダーのことを信頼しておられたので、話題に何度も上がりました」 「そうか、それを報告してくれる菅野は、やっぱりいい奴だな。俺は良い部下を持った」    リーダーに報告を終えたので、やっと帰れる。  エレベーターでロビーに降りると、葉山の後ろ姿が目に入った。  あれ? もう帰ったと思ったのに、まだいたのか。  少し寂しそうな後ろ姿が気になり、思わず声をかけた。 「瑞樹ちゃんも今、帰り?」 「あ、菅野、お疲れ様。今日は大変だったね。大丈夫だった?」 「ありがとう。無事解決したよ。それにしても、もうこんな時間だぞ? 芽生坊のお迎えに間に合うのか」 「うん、今日は宗吾さんが行ってくれるから、大丈夫なんだ」 「へぇ、珍しいな、もしかして、どっか行くのか」 「実は……渋谷で待ち合わせしていて」 「瑞樹ちゃんが渋谷?」 「うん……そうなんだ。あ、遅刻しそうだから、ごめん、先に行くよ」  なんだ、なんだ?    随分と不安そうな顔をしているが、大丈夫か。  瑞樹ちゃんとは長い付き合いだ。  俺には隠せないぞ。  そこに宗吾さんの声が降ってくる。 (俺まで宗吾さんに洗脳されているのか) …… 菅野、瑞樹のことくれぐれも宜しく頼む。瑞樹はアイドルみたいに可愛いから不安なんだよ。街でヘンな奴らにつけこまれないか。だから会社ではよーく見張っていてくれよ ……  よし!  確かに渋谷で変な奴にちょっかい出されないか、心配だ。  といっても、葉山だってれっきとした男だ。    こんな風に身の安全を心配されるのはイヤかもしれない。  よし、これは俺の勝手な行動だ。  何事もなく待ち合わせ相手と落ち合えたら、それでよし。  そこまでそっと見守ろう。  尾行じゃなくて、見守りだ。  ううう、しかし見つからないようにするのって難しいな。  慣れないことをしていたら、目の前で電車の扉が閉まってしまった。  ヤバい。  俺、鈍すぎる。  次の電車に飛び乗ったが、再び見つけられるか。  渋谷で待ち合わせと言えば、ハチ公の前か。  あたりを付けて行くと、ちょうど駅前で街頭演説をしていて、人がごった返している。  必死の思いで葉山を探すと……  あぁぁ、まずい!  宗吾さんの言う『変な奴に絡まれている瑞樹ちゃん』を見つけたのさ。  そこからはもう待ったなしで、止めに入った。  瑞樹ちゃんは強引に見知らぬ人に手を引っ張られたり、肩を組まれたりするのが大の苦手で怖いんだ。  それはあの事件の影響で……  勝手にトラウマを掘り起こすなよ。  すると俺と同時に、瑞樹ちゃんに向かって突進した男がいた。  という理由で……  俺は今、東銀座のBARで、瑞樹ちゃんの同級生と一緒に楽しく酒を飲んでいる。 「菅野は暴露しすぎだよ~」 「へへ、他にもあるんだぞ」 「へぇ、なになに? 教えてくれよ。成長した瑞樹の話もっと聞きたい」 「実は社内に瑞樹ちゃんファンクラブがあるんだ」 「おー! 流石だな」 「上は御年70歳の会長夫人から、下は新入社員の女の子、いやはやお客様の3歳のおちびちゃんまで」 「葉山はすごいなー」 「いやいやいや……」  へぇぇ、今日の瑞樹ちゃん、砕けて可愛いな。    小学校の同級生と一緒だからなのか。  いつもより幼い感じで頬を膨らませたり、軽やかに肩を揺らして笑ったり、いい感じだ。  明るい日溜まりのような瑞樹ちゃんだ。  小学校の時も、きっと、こんな風に可愛く笑っていたんだなと思うと、もっともっと見たくて、俺の突っ込みも加速する。  ついでに木下くんの酒のピッチも加速する。  みんな瑞樹ちゃんの笑顔が大好きだー!  って、叫びたくなるよ。    トイレに立つと、バーテンダーの蓮さんにさり気なく声をかけられた。 「ちょっといいか」 「え?」 「彼、もうすぐつぶれるな」  視線を辿れば、真っ赤な顔でベロンベロンに酔っ払った木下くんの姿が目に入った。 「あー まずいな。調子に乗って飲ませすぎたな。彼、北海道から出てきた葉山の同級生なんですよ」 「身体はデカいが酒は弱そうだから、アルコールをだいぶ減らしたのに駄目だったか」 「そんな気遣いを……楽しくて気が緩んだのかも。しかし、彼をちゃんと帰せるか心配になってきた」 「後は任せてくれ」  蓮さんは男らしい甘い笑みを称えて、階段を一段抜かして上がっていった。  蓮さんって、男なのにめちゃくちゃ色気ある。    そして、この人が大丈夫と言えば、大丈夫な気がする。  だから突然スーツ姿の大河さんが現れて、木下くんを担いで階段を颯爽と上がった時も、俺は驚かなかった。  瑞樹ちゃんはオロオロしていたが、大丈夫!  きっとロマンチックな展開が待っているさ。 ****  仕事を早めに切り上げて、小学校に迎えに行った。 「おーい、芽生、帰るぞ」 「そっか、今日はパパだったね」 「ははっ、残念か」 「……えっと、少しだけね」  芽生はにっこり笑って、俺を見上げた。    最近ますます俺に似てきたよな。 「お前は素直だな。瑞樹がいなくて寂しいのか」 「それはそうだけど……パパだって、さみしいよね?」  う、図星だ。 「そりゃ、寂しいさ~」 「僕もさみしいよー じゃあ、今日はおばあちゃんの家に行こうよ。パパとお家にかえってもさみしいよ」 「それ、いい案だな。夕飯、ご馳走になるか」 「わーい」  母さんに電話すると、喜んでくれた。 「今日は憲吾も帰っているのよ。夕食はコロッケよ」 「コロッケ! それさ、瑞樹の分も持って帰っていいか」 「ふふ、宗吾は食い意地よりも、瑞樹のことを考えるようになったのね。昔は一人で三人前は食べていたのに」 「ひどいな、もうそんなに食えないよ」  いつもいつも、瑞樹で満たされているから。  という言葉は呑み込んで、俺は芽生と仲良く、実家に向かった。  夕食を食べたら、すぐに家に帰ろう。  その頃には瑞樹も帰って来るだろう。 「おばあちゃん、ただいまー!」 「芽生、久しぶりね」 「おばあちゃんもちゃたも会いたかったよ」 「おばあちゃまもよ」 「えっと、憲吾おじさんは?」 「芽生、よく来たな。ここにいるぞ」  げげ、憲吾兄さんがラフな恰好で寛いでいる。  チノパンに丸首のシャツって……  随分若返ったよな。 「おじさん!」 「芽生ちゃん、いらっしゃい」 「おばさんとあーちゃん!」  美智さんと彩乃ちゃんも加わって、どんどん賑やかになっていく。  やっぱり芽生はムードメーカーだ。  そこに犬が飛び込んでくる。 「わん、わん!」 「わぁ、ちゃた、くすぐったいよ~」  そして、犬と戯れる息子に、俺も一軒家になったら犬を飼いたいと、また一つ将来への夢を抱いた。  芽生と瑞樹と紡ぐ、明るく楽しい夢だ――    

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