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マイ・リトル・スター 15

「さてと、どこに寝かそうか」 「えっと……どうしよう……」  勢いで連れて帰ったが、宗吾さんは大丈夫なのか不安になり、戸惑ってしまった。    すると宗吾さんはポンっと僕の頭に手を置いて、笑ってくれた。  宗吾さんの笑顔のおかげで、僕はもう迷子にならないで済む。 「そうだな、じゃあ瑞樹の部屋にしよう」 「え?」 「俺のベッドより、瑞樹の方がいいだろう。今日は特別だぞ~ 木下くんよ」  宗吾さんはこういう時、僕に負担がかからない言い方をしてくれる。 「それに瑞樹の寝場所は、もう俺の横だから問題ないさ」  いつも宗吾さんの懐の広さに、助けてもらってばかりだ。  僕の部屋のベッドは、最近は使っていなかった。風邪を引いた時や調子が悪い時以外は、僕は宗吾さんの部屋で一緒に眠っているから。 「それにしても全く起きないな」 「はい……夜中に目覚めて正気に戻ったら、不安に思うかもしれませんね。ここがどこだか分からなくて」  木下の立場に僕が立ったら、きっと不安で怖くなる。  木下は見かけと違って怖がりだから心配だな。 「それなら瑞樹が足下で眠ればいいさ」 「え?」 「ほら、菫さんが泊まった時の客布団があるだろう。あれを敷けばいい」 「あ、でもそれは菅野が使うのでは……」 「菅野は俺がもらう」 「へ? 俺っすか」  菅野が自分を指さしてキョトンとしている。 「菅野が寂しい夜を明かすの付き合ってやるぜ。なんなら慰めてやろーか」 「うわぁ~ 瑞樹ちゃん助けてぇ」 「くすっ、菅野、宗吾さんは取って食いやしないよ」 「わーん」  宗吾さん、宗吾さん、いつもありがとうございます。  場を和ます天才の宗吾さんが、僕は大好きです!  木下の足下で眠り着くと……  最初は怖い夢を見てしまった。  函館の家に引き取られ、小学校に再び通い出した頃のことだ。 ……  転校して間もない頃、休み時間に遊びに誘ってもらった。 「なぁ転校生も、一緒にかくれんぼしようぜ」 「え……でも」 「いいから、早くかくれて」 「あ……」  どうしよう?  どこに隠れたらいいのかわからないよ。    僕はまだ転校してきたばかりで…… 「早く!」 「でも……」 「隠れる所が分からないなら、ここにしろよ」 「えっ……待って」 「見つかっちゃうじゃないか。転校生は静かにしてろよー」 「待って待って」 「俺はあっちにする」  知らない教室の机の下の押し込まれ、本気で泣いてしまいそうだった。  狭い所に隠れるのは怖い。  誰か……僕を早く見つけて―    うっ……  泣いたら駄目だ。  もうお父さんもお母さんも夏樹もいない。    広樹兄さんやお母さんに、心配をかけたくない。  見つけてもらうまで、じっとしてないと。  でも、どんなに待っても誰も来てくれない。  やっぱり……  僕は忘れ去られた子供なんだ。  膝を抱えて顔をうずめた。  休み時間が終わっても、僕はそこから動けなかった。  僕の名前は瑞樹……  転校生だけど、転校生じゃないよ。 ……  あの時、転校生の僕は、存在を忘れられてしまった。  僕に出来ることは、滲んでくる視界に、目を瞑ることだけだった。  久しぶりにあの頃の夢を見た。  転校先の小学校で最初の1-2年の記憶は殆どなかったのに……  心拍数が上がっていたので、胸に手を置いて深呼吸すると、「グォー グォー」と豪快に木下がイビキをかき出したので、ほっこりした。  木下は昔から変わらない。  いつも僕を真っ先に探しにきてくれて、笑顔で「瑞樹、みーつけた」と言ってくれるので、僕はいつも「見つけてくれてありがとう」と答えた。  まるで僕たちの合言葉のようだったね。  懐かしいな。  木下としたかくれんぼ。 「もう……いいかい」  突然声が聞こえたので、咄嗟に答えてしまった。 「もう、いいよ」  そう答えると木下が飛び起きて、喜んでくれた。 「瑞樹、もういいのか」  恐る恐る問いかけられ、木下たちがどんなに僕を心配し、大切に想ってくれていたのか伝わってくる。  だから僕は木下を安心させてあげたくて、頬を緩めた。  宗吾さんのように、相手を思いやる明るい笑顔。  目を細めて口角をあげて 「うん、もう大丈夫だよ」    木下の笑顔も同じだった。 「ありがとう。沢山心配かけたけど、僕は今、宗吾さんと芽生くんと、家族になって暮らしているんだ」 「あぁ、最高の家族のようだな。瑞樹にもまた心温まる場所が出来たんだな」 「うん、そうなんだ」 「酔っ払ってごめんな。でも瑞樹の暮らしを垣間見れて嬉しかった。しかし寛大な彼氏だな。俺をここに連れてきて、泊まらせてくれるなんて」 「実は宗吾さんのお兄さんが、車で迎えに来てくれたんだ」  憲吾さんのことも是非伝えたかった。  僕が困った時にいつも現れてくれる憲吾さんも大好きです。 「そうなのか。瑞樹は、みんなに可愛がってもらっているんだな」 「うん、ありがたいよね」 「いや~ 今も昔も瑞樹はみんなに愛されていることが分かって、俺、本気でうれしいぜ!」  木下が鼻をズズズッとすする音が響く。 「へへっ、これは嬉し泣きだ」 「ありがとう。本当にありがとう。僕のために――」 「俺たち元通りになったな。幼馴染み同盟復活だ」 「うん!」  なんて明るい再会なのか。  悲しい別れの時は、もう終わりだ。

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