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マイ・リトル・スター 16

「木下、会えて嬉しかったよ」 「俺の方こそ! 急に瑞樹の家に泊めてもらえるなんてラッキーだったよ」 「泊まってくれてありがとう」 「あ、その台詞……そういえば昔、大沼の瑞樹の家に泊まったことあったよな」    えっ?  と顔を上げたが、すぐに思い出せた。  小学校2年生の夏休みに、木下が僕の家に泊まりに来てくれた。  セイも一緒だった。  友達とお泊まり会をするのは初めてだったし、夜まで遊べるのが嬉しくて、僕はずっとはしゃいでいた。 「そうだったね。懐かしいね」 「そう言えば、あの時、俺らの相手をしてくれた、あの人元気か」 「あの人……あ、もしかして……『くまさん』のこと?」 「そう! 瑞樹のお母さんはなっくんの世話で忙しかったから、俺たちの相手をつきっきりしでしてくれた大きな男の人、そうだ『くまさん』って呼んでいたよな。あの人も瑞樹がいなくなってから行方知れずで……」   くまさんがやんちゃな小学校低学年男子の相手を一手に引き受けてくれて、僕たち外でBBQをしたんだ。くまさんはアウトドアに慣れていて、次々に美味しい食事を作ってくれて…… 「あれ美味しかったよな」 「焼きマシュマロサンドのこと?」 「そうそう! 瑞樹は食べるのが下手で、髪の毛につけて、それが絡まって、泣きべそかいていたよなぁ」  あ、まずい。  横でふんふんと聞いていた、宗吾さんの耳がピンと立った気配だ。 「わー それはもう忘れて」 「へへ、どうしようかな」 「くすっ、ふふっ」  小学生男子みたいに、またじゃれ合えてくすぐったいよ。 「瑞樹ちゃんって、今も昔も同じだな」  菅野が腕を組んで頷けば、木下も同意する。 「俺、瑞樹ちゃんの小学生時代を垣間見られてラッキーだったな」 「俺も、瑞樹の今、素のままの姿を見られてラッキーだった」 「木下、俺たち『瑞樹ちゃん同盟』ってことで、よろしくな」 「菅野、俺の方こそ、東京に友達が出来て嬉しいよ」  木下と菅野も意気投合。  とても爽やかな朝だった。 「じゃあ、元気で!」 「こっちにも遊びに来てくれよ。今回のこと、セイが嫉妬するかもな~」 「セイにも会いたいよ」 「じゃあ、次はセイのペンションに宿泊して語り尽くそうぜ」 「いいね、ぜひ」  次の約束をして別れる。  今の僕にはそれが自然なことになっている。  あ! 僕肝心なこと伝え忘れた。  くまさんが、僕のお父さんになったこと――  それは次回のサプライズにしよう。 ****  軽井沢 どんぐり保育園  門を開けると、一番乗りの姿が見えた。  ふふっ、今日もいっくんだわ。  葉山樹くんは、いつも同じ時間にお父さんと仲良く手をつないで登園してくれるの。  ニコニコ笑って、とっても嬉しそう。  時折、お父さんをちらっと見上げて、二人で見つめ合って微笑みあって、あー もう、可愛くてたまらないわ。  お母さんだけの時は遅刻することが多く、髪の毛もボサボサで身だしなみが整っていないことも多かったの。だから私たちはいっくんの様子を注意深く見守ってきたの。    すぐにそれは虐待の類いではなく、お母さんはいっくんが大好きで、いっくんもお母さんが大好きなのに、残念ながら周囲のサポートが不足して、お母さんがすべてを背負って必死に生きている状況なのが、すぐに分かったわ。  いっくんがお母さんを見つめる目も、お母さんがいっくんを見つめる目も、愛で溢れていたのが一番の決め手よ。  真実の愛なのが、私たちにはしっかり伝わってきたの。  そして……今はいっくんにはお母さんだけでなくお父さんの愛も注がれているの。  満ちあふれているわ。    愛が二倍に増えたいっくんは、いっそう輝いて天使のように可愛らしく見えるわ。 「新しいお家はどう?」 「うん、みんな、なかよく、たのしく、しあわせなの」 「まぁ、そうなのね。本当に良かったわね」  いっくんのお父さんも、その言葉を噛みしめていた。 「あ、お父さま、いっくんは連休中もお預かりしますか。イングリッシュガーデンはかき入れ時ですものね」 「それはそうなのですが……4日と5日は兄家族が東京から遊びに来てくれるので休みます」 「もしかして、いっくんが東京でお世話になったとお兄様ですか」 「はい、そうなんです」 「良かったですね」 「はい!」  あらあら、お父さんも蕩けそうな笑顔。  愛を注がれているのは、いっくんだけじゃないのね。  この家族を見守ることが出来て、私たち保育士は幸せだわ。

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