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マイ・リトル・スター 17
あっという間に5月となり、新緑の季節がやってきた。
公園の緑や街路樹は瑞々しく芽吹き、生命の輝きに溢れている。
一昨日は、僕の誕生日だった。
宗吾さんのスペシャル企画でシロツメクサの咲く原っぱで、ピクニックをした。近くにいる家族だけでなく、遠くにいる家族にまで祝ってもらえて、くすぐったい気持ちで一杯になった。
僕は両親と弟と別れて、ひとりぼっちになってしまったと嘆く日々だったが、本当はずっと愛のある世界にいたのだ。
引き取ってくれた函館の母の純粋な愛、兄になってくれた広樹兄さんの真っ直ぐな愛、弟になってくれた潤の不器用な愛。
いろんな愛に囲まれていた。
そのことに今更ながら気付く日となった。
あぁ、まだ自分の誕生日の余韻で、心がポカポカしているよ。
カーテンを開けようとすると、背後から声がした。
「瑞樹、おはよう」
「あ、宗吾さん、もう起きたのですか」
「あぁ、今日から旅行だからな」
カーテンを開けようとする手を、優しく制された。
「まだ開けるな」
「えっ……」
「おはようのキスがまだだろう?」
「あ、はい」
目を瞑ると、すぐに温もりが届いた。
「んっ……」
定期便のように届くおはようのキスに、僕は頬を染めながら懸命に応える。
甘い甘いキスは、しあわせな味がして蕩けそうだ。
そのままお互いの蜜を吸い合うようなキスになった。
「あ……もう……そろそろ支度をしないと」
「ごめんな。毎度のことながら、君とキスするのが良すぎてヤバい。ふぅー」
宗吾さんが犬のようにブルッと身体を震わせて、煩悩を払い落とした。
その様子に、自然と頬が緩む。
毎朝、毎朝、僕たちは飽きることなくキスをする。
この先の未来も――
ずっと、ずっと。
そう思えることが嬉しくて、気持ちがまたグンと上昇する。
「旅行、楽しみですね」
「俺の企画に全面的に協力してくれてありがとうな」
「当然です。10歳のお誕生日をスペシャルにしたい気持ちは一緒です」
「人生の節目だよな。芽生が産まれて10年か。そうそうイマドキは小学校で『1/2成人式』というのもをやるそうだぞ」
「そうなんですね」
「二学期の参観日に学校側が企画してくれるから、誕生日当日は家族でゆっくり過ごそう」
僕は芽生くんの誕生日を祝うのが、楽しみで仕方がない。
今年は宗吾さんの提案で、まず軽井沢の潤の新居に1泊し、翌日は芽生くんのリクエストで星が綺麗に見える高原でキャンプをする。つまり芽生くんの誕生日は満天の星の下で、家族だけでお祝いする予定だ。
「とても楽しみです」
「よーし、そろそろ芽生を起こそう」
芽生くんが10歳になるなんて、感慨深いよ。
僕が天国の両親に祝ってもらえた最後の誕生日が10歳だった。
芽生くんの11歳、12歳、13歳……
どうかこの先もずっと一緒にいられますように。
ずっと成長を傍で見守りたいから、願わずにはいられない。
「瑞樹、来年も再来年も、ずっと一緒だ。いつか芽生が家を出ても、芽生の誕生日を二人で祝い続けよう」
「はい!」
こんな時、僕の少しの不安を察知して、遠い未来の約束をしてくれる宗吾さんが大好きだ。
宗吾さんの力強さのおかげで、ぶれずに前へ進める。
「芽生くん、起きて」
「ん……まだねむいよう」
「今日から旅行だよ。いっくんにもやっと会えるよ」
「あっ、そうだった!」
『いっくん』の名前を出した途端、ピョンと飛び起きるのが微笑ましい。
いっくんと芽生くんは、実の兄弟以上に仲良しだ。
僕が紡げなかった兄弟の愛を、芽生くんが育んでくれている。
「着いたらいっぱい、いっぱい遊ぶんだー たのしみだよ。お兄ちゃんもお休み取れて、よかったね」
「菅野が代わりに出社してくれるから行けるんだ。菅野も連休はご実家の手伝いで忙しいのに、申し訳なかったよ」
少しの罪悪感が芽生えると、芽生くんがやんわりと修正してくれた。
「えっとね、カンノくんとお兄ちゃんって助け合っているんだよ。お兄ちゃんも昨日はすごく遅くまで働いていたし、お兄ちゃんもちゃんとがんばっているんだよ」
「そうかな」
確かに菅野と僕は、どちらか一方に負担をかけるのではなく、協力して休みを取り合っている。昨日は菅野が休みを取ったので、僕が二人分の仕事をこなした。
助け合っているって、素敵な言葉だね。
そう捉えると、心置きなく出掛けられるよ。
芽生くんは宗吾さんの血を色濃く引いているから、男気がある。将来はきっと宗吾さんのようにスカッとカッコいい人になるだろう。
その時は、宗吾さんが張り合ったりして……
未来の想像をするのって、楽しいことなんだな。
つい頬が緩むよ。
「えへへ、お兄ちゃんが笑ってくれた。そっちの方がかわいいよ」
「あは、ありがとう」
「どういたしまして!」
「急いで着替えるよ」
「僕も支度をするよ」
さぁ、楽しい旅行にしよう!
宗吾さんと芽生くんと僕の家族旅行の始まりだ!
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