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この先もずっと 1

 前置き  今日から新しい節に入ります。  季節をググッと進めて、今に合わせて冬に。  芽生の二分の一成人式の話から始まり、その後、滝沢ファミリーの冬の日常&クリスマスの様子をお楽しみ下さい。慌ただしい12月にほっと出来る時間をお届けしたいです。  ただ……エッセイに書いておりますが、書き手の方にプライベートな問題がありまして(現在身内に病人がいて入院中なんです)不定期更新になるかもしれません。でも、この話を書くことで、私自身も癒やされるので、これからも細く長くコツコツ続けていきたいと思っています。 *****  季節は巡り、もう12月とは驚きだ。  最近、時が経つのが妙に早いな。  つい先日、芽生の誕生日で軽井沢旅行をしたばかりの気がするのに。  あれから仕事が多忙で、この夏は毎年行っていた旅行にも行けずで散々だった。  新卒で広告代理店に入社し、今では俺がリーダーになって仕切る企画が大半で、客観的に見れば、順調に出世しているのだろうが、本音は家族との時間をもっと作りたいと願っている。 「滝沢さん、明日の取引先とのゴルフ、本当に行かないんですか」 「悪いな、どうしても無理なんだ」 「えー 滝沢さんがいないと盛り上がりませんよ。なんとかなりませんか」 「そう言ってもらえるのは光栄だが、明日は息子のイベントなんだ」 「……滝沢さんって結構な子煩悩ですよね」 「ん? 当たり前のことをしているだけだぞ?」 「その当たり前のことをするのが、難しい世の中ですよ」 「だが、難しくても、動かないと始まらないぞ」  やれやれ休日に接待ゴルフだなんて、一昔前の悪しき習慣か。  昔の俺なら張り切って出掛けたが、今は家族と過ごす時間が減ってしまうので、休日の出勤に少なからず負担を感じている。  瑞樹と芽生との生活が、それほどまでに愛おしい。  俺の生き甲斐といっても過言ではない。  はぁ、今日もまた土曜日にも関わらず出勤だった。  仕事は爆速で片付けた。  まだ14時か。  一刻も早く帰ろう!    俺のホームへ。 ****  宗吾さんのいない土曜日の午後。  芽生くんは学校から帰って昼食を取ると、元気よく友達と公園に遊びに出掛けた。  僕は一人で留守番することになったが、寂しくはなかった。  ここはもうすっかり僕の家だ。  家族が不在でも人の温もりを感じられるので、心細くはならない。    あの日のまま、時が止まってしまった自宅とは違う。    常に動いている、生きている場所なんだ。  しみじみと目を細めて、部屋を見つめると  ……汚かった!  床に宗吾さんと芽生くんの物が散乱していて、埃もあちこちに……  これはのんびりしている場合じゃないな。  やることが山積みだ。  今週は宗吾さんも僕も多忙で、掃除が行き届かなかったので大目に見ていたが、流石にそろそろ手をつけないと。 「よし、掃除しよう」  マスクをして掃除機を持って、まずは宗吾さんの部屋に入る。  相変わらず埃まみれで、僕がいるのに何故こうなるのかと苦笑してしまう。 「あっ!」  またこんな場所に。  どうして僕のパンツは、いつもここに入り込むのか。  まさか、ヘンタイなことに使用されているのでは?  自分のパンツを手に取ってクンクンと嗅ごうとして、ハッと我に返った。    僕、今、何をして?  あぁ、もう……僕こそヘンタイだ!  掃除! 掃除をしないと!  続いて芽生くんの部屋に入ると、似たような光景だった。  うーん、流石親子だね。  ベッドの下にはおもちゃが散乱、机の上にも物が山積みで、これでは勉強するスペースがない。あっ、だからいつもダイニングテーブルで宿題をやっているのか。  10歳になった芽生くんの日常は、毎日輝いている。  夏休みも宗吾さんの仕事の都合で遠出は出来なかったが、芽生くんなりに楽しみを見つけて、過ごしていた。夏から、サッカークラブに通うようになったのも大きいのかな?  僕にとって10歳は人生の大きな節目だった。    僕の場合、悲しい別れだったが、芽生くんにとっては幸せで満ちたものであって欲しい。  くず箱も溢れている。  ゴミ袋に回収しようとひっくり返すと、お便りらしきものがクシャクシャになっているのが、目にとまった。  あれ? これ……捨てちゃっていいのかな?  勝手に見てはいけないとも思ったが、学校からの大切な通知だとまずいので紙を開いて確認すると…… 「えっ……」  明日『二分の一成人式』が小学校で行われるのは、年間予定表で知っていた。  宗吾さんが参加する予定で、日時と場所は分かっていたが、こんなことをするなんて……知らなかった。  呆然と座り込んでると、玄関から音がした。  芽生くんだろうか。    慌てて紙を後ろに隠すと、宗吾さんだった。  子供部屋は玄関のすぐ横にあるので、すぐに僕がいることに気付かれてしまった。 「瑞樹、そんな所でどうした? 顔色が悪いぞ」 「あ……芽生くんの部屋の掃除をして……その……」    どう説明していいのか困っていると、宗吾さんが近づいてきた。 「何かあったのか。俺には話してくれ。家族なんだから」  家族なんだから。  その言葉に背中を押される。 「……実は……お便りがくず箱に丸めて捨てられていて、見るつもりはなかったのですが、大事なことだったので」 「なんだ? 見せてくれ」 「……はい」  二分の一成人式の持ち物の欄に、生まれてから10歳までの写真をアルバムにして持ってくるようにと書かれていた。 「なるほど、10年分の家族の思い出を詰め込んだアルバムか。あー そうか……芽生の場合は俺が離婚してしまったせいで、思い出が途切れ途切れになってしまっているから困ったのだろうな。しかし見せないで捨てるなんて」 「あの、芽生くんを叱らないで下さい。僕の存在が気を遣わせてしまったのだと思います」 「おい、そんなこと言われると寂しくなるぞ。君は俺の恋人であって家族、芽生にとっても大事な家族だ」  宗吾さんの言葉はいつも心強い。  力強さに、元気づけられる。  でもこの現実に、どう向き合っていくべきか。  芽生くんがアルバムを作りたくないと思った原因は、どうしたって僕にあるという考えから抜け出せなくて……落ち込む僕を宗吾さんが優しく抱きしめてくれる。 「芽生も10歳になって、少し多感な時期に入ってきたのかもな。なぁ、芽生の気持ちが自然に動くように、俺たちに出来ることをやってみないか」  僕はこくりと頷いた。  そうして欲しいと心から願った。  今までの僕だと、自分がいなくなればいいと存在を消してしまう場面だが、今は違う。    宗吾さんを信じて、自分を信じて、芽生くんを信じて  一歩前に進みたい。

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