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この先もずっと 5
みーくんからの電話で、12月に芽生坊が通う学校で『1/2成人式』というものがあると聞いた時、最初は何のことだかさっぱり分からなかった。
俺の時代にはなかったものだし、みーくんの時代にはあったのか定かではない。
俺は、10歳になったばかりのみーくんのその後を知らないから。
だからこそ出来なかった分も込めて……芽生坊のおじいちゃんというポジションでお祝をしてやりたいよ。
物を贈るのは簡単だが、俺ならではの贈り物をしたくなった。
俺だから出来ることと言えば……
そうだ、芽生坊の写真が、俺の手元に山ほどある。
初めて会った時から始まり、運動会、潤の結婚式、東京に遊びに行った時……写真を撮る機会には恵まれた。
俺たちも芽生坊の思い出の中に存在するのが嬉しい。
だからこそ俺が愛情を込めて撮影した写真をプレゼントしてやりたいな。
そんな思いでネガから手焼きして、東京に贈ってあげた。
無事に式典の前に届いて良かった。
しかもアルバム作りに役立ててくれるなんて、嬉しいよ。
ほくほくした思いで電話を切ると、さっちゃんに話しかけられた。
「勇大さん、写真、無事に届いたのね」
「あぁ、アルバムを作るのに、ちょうどよいタイミングだったってさ」
「そうなのね! 勇大さんが撮った芽生くんは、本当にいい笑顔だから、喜んだでしょうね」
「芽生坊は皆に愛されているからな」
「本当にそうね。お母さんがいないのなんて……関係ないのね。私は父親がいないことに拘りすぎていたのかも……後ろ指をさされないようにと意固地になっていたわ」
さっちゃんの言いたいことが、ひしひしと伝わってきた。
俺が現実から逃げて冬眠していた間、さっちゃんは一人奮闘していた。
そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になるが、過去を後悔していても何も始まらない。
いつも思うが、今こそ出来ること。
今だから出来ることを探していこう。
「さっちゃん、さっちゃんは精一杯頑張った。だから広樹も瑞樹も潤も心根の優しい息子に育ったんだ。さっちゃんお疲れ様。そしてありがとう」
*****
今日はいよいよ『1/2成人式』当日だ。
芽生は朝から出来たてほやほやのアルバムを持って、ニコニコしている。
「芽生、嬉しそうだな」
「うん、だってこのアルバムは特別だもん」
「そうか」
「ボクのすべてだよ」
「そうか……だが、本当にあの写真も入れてよかったのか」
「うん! 泣いている顔もふくれている顔も、全部ボクだもん!」
実は笑顔の写真だけのアルバムにしようと思ったのだが、芽生自ら、泣き顔や悔しがっている顔の写真も入れたいと言い出した。
くまさんの写真には、芽生の喜怒哀楽が写っていた。
「そうか」
「だって、生きてるってそういうことだよね」
「お、おぅ、芽生は深いなぁ」
子供から教わることがある。
ハッとしたよ。
「あのね、お願いがあって」
「なんだ?」
「今日……どうしてパパだけなの? ボクはやっぱりお兄ちゃんにも見て欲しいんだ」
「確かにそうだよな、瑞樹やっぱり一緒に行こう」
「ですが……」
実は瑞樹の強い意志で、今日は行かないと決めていた。
……
「瑞樹、来月は『1/2成人式』があるな。楽しみだな。俺たちは何を着てくべきかな?」
「あ……そのことですが、今回は僕は遠慮させて下さい」
「えっ、どうして?」
「芽生くんが僕の存在を受け入れてくれるだけで充分なんです。式典に僕が行くことで、迷惑を掛けたくないんです」
「瑞樹……そんな」
……
何度も説得したのに、いつになく頑なだった。
心を解せるのは、芽生なのかもしれないな。
「お兄ちゃん、あのね、ボクなりにいろいろ考えたんだよ。先生が言っていたけど、今日は家族に感謝の気持ちを伝える日なんだって。ボクはね……どうしてもお父さんとお兄ちゃんのふたりにいて欲しいよ。ふたりそろって、ボクの発表を聞いてほしいの。お兄ちゃん、だから来て」
そこまで言われたら……
瑞樹は折れるしかない。
「芽生くん、そんな風に言ってくれてありがとう。分かった。僕も行くよ」
「ほんと? よかった! 二人がいないとさみしいよ。ボクの家族は、パパとお兄ちゃんなんだから」
芽生がそう言い切ると、爽快な気分になった。
そうだ、こうやって少しずつ切り開いていこうじゃないか。
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