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2025年お正月特別SS 幸せな年明け③
「そうだ、芽生に、これあげる」
「え? コータくん、いいの?」
「うん、さっきおじいちゃんにもらったんだ。仲良しのお友達にもあげなさいって、3個もあるから」
「わぁ、うれしいよ」
コータくんが芽生くんに渡したものは『凧』だった。
どうやらコータくんのおじいさんの手作りのようだ。
新年に相応しい素敵な贈り物をもらったね。
「じゃあね」
「また遊ぼう」
「うん!」
偶然の嬉しい再会だった。
地元の神社に来てみて良かったね。
神社からの帰り道、坂の上で空を見上げた。
「いい天気だな」
「はい、くっきり青空ですね」
「お兄ちゃん、写真を撮らないの?」
「あっ、そうだね」
外に出る時は肌身離さず持ち歩いている一眼レフ。
首に提げていたカメラを空に向けて、ファインダーを覗いた。
新春の空気はどこまでも澄んでいて、視界がクリアだ。
清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、英気を養った。
今年はどんな1年になるだろう?
芽生くんも春には5年生になる。
いよいよ高学年の仲間入りだ。
思春期、反抗期も覚悟しているよ。
だけど、安心して欲しい。
僕はどんなことがあっても芽生くんを裏切らない。
ずっと、ずっと、宗吾さんと一緒に芽生くんの傍にいる。
僕と宗吾さんは、仕事が忙しい1年となりそうだ。
お互い中堅社員として、奮闘しているから。
ただ……どんなに忙しくても、一番大切な人のことを疎かにしない。
空に向かって、僕は宣言した。
天国にいる両親に伝えたい言葉はただ一つ。
僕はこの世を生きています。
いつか会う日に胸を張って伝えられるように、1日1日を大切にして生きていきます。
お父さんとお母さんと夏樹の分まで――
写真を撮り終えると、芽生くんが突然「凧揚げしてみたいな」と言い出した。
コータくんからもらった凧を揚げたいようだ。
でも、都心の街並は電線だらけで難しい。
どうしよう?
すると宗吾さんがサッとスマホを取り出して、ささっと検索して、ニカッと笑う。
「葛西臨海公園なら揚げられるぞ」
「そうなんですね。よかったです」
「そこに行きたい!」
「よし、今から行こう」
一度家に戻って車で向かった。
高速を使えばそう遠くない距離だ。
東京湾に面した広大な公園には、広い芝生エリアがあって、家族連れが既に凧揚げをしていた。
「わぁ、広ーい」
「よし、早速揚げてみよう」
「お兄ちゃんは、ここで見てて。ちゃんと空高く揚がるか見ててね」
「わかった。ここで見ているよ」
芽生くんが全力で走るが、最初はなかなか上手に揚がらない。
「芽生、俺が見本を見せるから、付いて来い」
「うん!」
宗吾さんが全力で走り出すと、芽生くんも真剣な顔で走り出した。
「芽生、もっと速く走れ」
「お父さん、もっと高くして」
「よーし、任せろ」
「お父さん、すごーい」
二人の掛け合いが賑やかだ。
僕は少し離れた場所でその光景を眺めながら、静かに幸せを噛みしめた。
こんなに賑やかな新年を迎えられるなんて、昔の僕にはとても想像出来なかった。
そこに芽生くんの声がする。
「お兄ちゃん、見てー こんなに高く揚がったよ。雲の上のなっくんにも見えるかな?」
「あ……」
「なっくんに見せてあげたくて、頑張ったんだ」
「ありがとう、芽生くん」
幸せすぎて、また視界が滲んでしまう。
僕は涙脆すぎる……
それほどまでに幸せな時間を過ごしている。
「瑞樹!」
息を切らせて戻ってきた宗吾さんが、僕の肩をギュッと抱いてくれる。
「瑞樹のおかげだ。この家族は瑞樹がいるから成り立っているのさ」
どこまでもどこまでも僕を包んでくれる広い心の持ち主。
それが宗吾さんだ。
「ありがとうございます。ここが愛おしくて……もう離れられません」
「離れるなんて考えるな。ここが永久に君の居場所なんだ」
「はい」
僕は少し照れながらも、宗吾さんとそっと手をつないだ。
ぬくもりをつないだ。
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