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この先もずっと 10

 お詫び   この先もずっと8を飛ばして掲載してしまいました。 本日追加しております。https://fujossy.jp/books/11954/stories/633482 ****  ボクの二分の一成人式は、無事に終わったよ。  ――大人になったら弁護士さんになりたい――  大きな夢を語るのは、とても勇気がいったよ。  もしかしたら突然すぎて、パパとお兄ちゃんをびっくりさせちゃったかもしれない。  ボク……  夏休みにおばあちゃん家にお泊まりした時、憲吾おじさんからお仕事の内容を教えてもらって、困った人を守るお手伝いが出来、ボクの大切な家族も守れる手段に、法律というものがあるのを知ったんだ。  力で相手を無理矢理ねじ伏せるのではなく、容赦ない言葉で言い含めるのではなく、法律を使って理路整然と跳ね飛ばすのって、かっこいい。  今日の宣言は、ボクが夢に向かって走り出すために必要だったんだ。  かけっこで、よーいドンの合図のように。 「芽生、いい式だったぞ」 「芽生くん、感動したよ」  ランドセルを背負って廊下に出ると、パパとお兄ちゃんが笑顔で待っていてくれた。  周りを見渡すと、みんな家族と一緒に帰るようで、お父さんやお母さんに囲まれて笑顔を浮かべていた。  ボクも笑顔になったよ。 「パパ、お兄ちゃん、来てくれてありがとう!」  だって大好きな家族が、待っていてくれたから。 ****  二分の一成人式を終えた芽生くんは、式の緊張から解放されたようで、清々しい笑顔を浮かべていた。  皆の前で夢を語る姿は最高にカッコ良かった。同時に宗吾さんと僕に寛いだ笑顔を見せてくれるのが嬉しい。  いつだって僕たちは、君が寛げる場所でありたい。 「あのね……お兄ちゃん、さっきみんなの前で将来の夢を言うの、ちょっと緊張したよ。でも頑張って言えてよかった!」 「うんうん、とても立派だったよ。弁護士になりたいって言った時、みんな拍手してくれたね。憲吾さんも嬉しそうだったよ」 「あ、憲吾おじさんは?」 「今日は仕事があるから、体育館の式典の後、帰られたよ」 「そっか、今度会って話したいな」 「今度このアルバムを持って遊びに行こうね」 「うん!」  芽生くんはそのまま宗吾さんを見上げながら、口を開いた。 「お父さん、いつ行く?」  お父さん?  宗吾さんは驚いて足を止めてしまった。 「えっと……パパじゃなく、お父さん?」  芽生くんは真剣な顔で頷いた。 「うん。パパは僕にとって特別な存在だから、今日からは『お父さん』って呼ぼうと思うんだ。もう二分の一成人式も終えたしね」  宗吾さんは意外な申し出に、暫く黙っていた。  少しだけ寂しそうだ。  子供の成長は突然だ。  芽生くんは10歳の僕が越えられなかった壁を、こうやってどんどん越えてくれる。  しかし……宗吾さんが『パパ』から『お父さん』と呼ばれるようになるのなら、僕はどうなるのかな? 『お兄ちゃん』から、どうなるのかな。  少し不安でドキドキしてしまった。  願わくば――  お兄ちゃんのままで……  宗吾さんは、気持ちを切り替えたようでニカッと白い歯を見せた。 「よし! 芽生がそう呼びたいなら、お父さんと呼んでくれ」 「うん、お父さん!」 「ふむ、悪くないな」  僕は隣りでそのやりとりを静かに見守った。  すると芽生くんが僕を振り返って…… 「でも『お兄ちゃん』は、これからも『お兄ちゃん』って呼ぶね!」と付け加えてくれた。 「えっ……僕はいいの? そのままで?」 「だって、お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだもん」 「ありがとう」  僕は芽生くんのお兄ちゃん。    そのポジションにいさせてもらえることが嬉しいよ。  宗吾さんが「なんだ、俺だけ呼び方が変わるのか?」とおどけると、芽生くんは「お父さんってかっこいい! スペシャルかっこいい」と無邪気に答えた。  その素直な言葉に、宗吾さんは珍しく顔を赤くして、照れていた。 「そ、そうか、スペシャルなのか」  芽生くんって、宗吾さんそっくりだ。    人をやる気にさせる天才だ。  三人で並んで歩く帰り道。  夜空には一番星が瞬いていた。  芽生くんはその星を指さし、声を弾ませた。 「あの星は、僕の夢だよ」 「芽生くんの夢、心から応援するよ」 「お父さんもしっかりサポートするからな」  二分の一成人式を通して、芽生くんは将来の夢を明確に抱き、僕たちはそれを応援したいと思った。  今日は、三人の絆がさらに深まった1日だった。  僕は、君の夢を応援する人でありたい。  一番星に、僕はそっとお願いする。  この先もずっと――  二人の傍にいさせて下さい。 「瑞樹、ずっと一緒だ」 「え? どうして?」 「以心伝心だ。俺たちは歩み寄る恋をしているから」  僕も宗吾さんに歩み寄っていこう。  声に出して、気持ちを伝えてみよう。 「はい……この先もずっと……一緒にいましょう」 「あぁ! もちろんだ」                        この先もずっと 了

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