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二月、家族の時間 1

こんにちは、志生帆海です。 いつも『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。 春庭に向けた同人誌原稿執筆のため、1月上旬から定期連載をストップしていました。おかげさまで無事に4万文字弱の原稿を書き上げ、これから印刷所に入稿するために、細かい作業に入ります。 今回の同人誌は『May flowers 四月の雨は五月の花をもたらす」というタイトルで、芽生が二十歳前後の時間軸の物語になります。宗吾さんや瑞樹たちの10年後を見られる特別な内容になっております。 随時エブリスタのエッセイで情報を更新していきますね。 そんなわけで暫く更新できなかったのですが、私もそろそろ宗吾さんと瑞樹と芽生に会いたいです。なので、今日から再開します。同人誌入稿までは不定期更新になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。 今回はまさに、今、二月のお話です。 冬本番、家族の温かさが心を満たす滝沢ファミリーの二月を描いていきます。物語の中で、小さな幸せ探しをしていきます🍀 では本編です。 ****  季節は秋から冬へ移ろい、今日から二月になった。  芽生くんの二分の一成人式に参列してから、宗吾さんと僕の仕事は共に繁忙期を迎えた。そのせいかクリスマスからお正月があっという間に駆け抜けていった。 「ふぅ、今日は一段と冷えているな」    吐く息は白く、凍えそうに冷たい北風が吹き抜けていく。  冬本番の寒さの中、僕はマフラーに顔を埋めながら駅までの道を急いだ。た。  宗吾さんは今日から出張のため6時台に家を出てしまった。なので久しぶりに一人で満員電車に乗る。  正直満員電車は苦手だが、頑張ろう。  車内はいつも通り、人でぎゅうぎゅう詰めだった。  そんな中、小さな身体を縮こまらせながら立っている男の子が目に入った。    まだ背が低いので、人に埋もれて息苦しそうだ。  そっとスペースを作ってあげた。    それにしても、朝のラッシュに私服の小学生が乗っているのは珍しい。  こんな時間にどこへ行くのかな。 「わぁ!」    電車の揺れに、男の子がぐらりと傾いてしまった。そのまま視界から消えそうだったので、僕は迷わず手を伸ばした。 「危ない!」  とっさに支えてあげると、男の子は驚いた顔で「す、すみません」と小さく呟いた。この子は、まるで昔の僕みたいだ。そんなに怯えなくても大丈夫なのに……    よく見ると手がブルブル震えて、青ざめている。  心が落ち着くように、優しい声で話しかけてみた。 「どうしたの、大丈夫かな?」  男の子が僕を見上げると、目に大粒の涙を溜めていた。 「もしかして……何か困っているのでは?」 「お……お兄さん、どうしよう。僕、お……お母さんとはぐれちゃった」 「え? この電車には一緒に乗ったのかな?」 「……うん……同じ車両に乗ったよ。でも途中でどんどん混んできて……お母さん見えない……」    その言葉に胸がギュッと切なくなった。満員電車で一緒に乗った人とバラバラになるのはよくあることだが、男の子の不安を考えると、一刻も早くお母さんを見つけてあげたくなった。  何故なら……幼い子供にとって、お母さんの姿が見えないことが、どんなに不安なのか僕は知っているから。  僕に出来ることはあるだろうか。  いや、僕にも何か出来るはずだ。    僕に必要なのは、勇気だ。  宗吾さんだったら、こんな時どうするだろう?    深呼吸して心を落ち着かせた。 「えっと、君のお名前は?」 「ゆうとです」 「ゆうとくんだね」    ありったけの勇気を出して満員電車の中で、大きな声をあげた。 「すみません。この車両にゆうとくんのお母さんいらっしゃいますか。お子さんがここで探しています」  周囲の人は、僕が急に大きな声を出したので最初は驚いたようだったが、すぐに事情を察して協力モードになってくれた。  車内の隅々に届くように、僕の声を繋いでくれる。 「ゆうとくんのお母さん、どちらですか」 「ゆうとくんのお母さん、手を挙げてください」  暫くして、小さな声が聞こえた。 「ここです、ここです。息子とはぐれてしまって困っていました。ゆうと、お母さんはここよ」  皆、ほっとした様子で胸を撫で下ろした。    そして満員電車に、突然道が出来た。  ゆうとくんとお母さんを結ぶ道を――  皆が一歩ずつ下がって道を作ってくれたのだ。  お母さんはゆうとくんを見つけて抱きしめた。 「ごめんね、ゆうと」 「よかった……ぐすっ」  遠い昔、僕もこんな風に母に優しく抱きしめてもらった。  くすぐったく甘酸っぱい思い出が駆け抜けていった。 「ありがとうございます」 「いえ、お役に立ててよかったです。お気を付けて」 「息子の中学受験で……これから試験会場に向かう所なんです。息子と合わせて下さって本当にありがとうございます」  そうか、今日は中学受験の日なのか。 「頑張ってね」 「お兄さん、ありがとう。すごくカッコ良かったです」 「……あ、ありがとう」  かっこいいと言われることは滅多にないので、面映ゆい。  男の子とお母さんが下車するのを見送ると、急に足が震えた。  この僕が知らない人ばかりが乗っている車内で大声を出せたなんて、信じられない。  宗吾さんだったら、きっとこんな風に解決するのでは……    そう思ったら動けたんだ。  心で思ったことを、実行するにはパワーがいる。  宗吾さんは何気なくやっていることかもしれないが、宗吾さんだってエネルギーを使っていることが理解できた。  今まで彼に守ってもらってばかりだったが、これからは今日みたいに僕も一歩踏み出していけたらいいな。  宗吾さんとこの先もずっと一緒にいたいから。    僕も宗吾さんに歩み寄る――  今年の目標にしよう。

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