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この先もずっと 8
「芽生、おはよう」
「あ、おはよう」
「今日はいよいよ二分の一成人式だな。それで、手紙書けた?」
「うん、ちゃんと書けたよ」
「そうか、よかったな」
「うん!」
自信を持って言えたよ。
ちゃんと書けたんだ。
ボクが書きたいこと、伝えたいことを!
もう迷いはない。
心配もしてない。
ボクはボクでいよう。
おばあちゃんが教えてくれたよ。
ボクにうそはついちゃ駄目だって。
最初は迷ったけど、結局、パパとお兄ちゃんの両方に向けて書くことにしたよ。
「お父さんたちへ」から始まる手紙に、二人への感謝の気持ちをいっぱい、いっぱい込めたよ。
パパとお兄ちゃん、二人がいるからいいんだ。
パパは休みの日にいっぱい遊んでくれるし、家族を守ってくれる。
お兄ちゃんは、いつもお迎えに来てくれて宿題も手伝ってくれて、さみしい時、悲しい時、ギュッと抱きしめてくれる。
ありがとうを伝えたいから、絶対に二人で来てね。
待ってるよ。
****
芽生くんに誘われて、僕も式典に参加することにした。
だが、学校が近づくにつれて、足取りが重くなってしまう。
自分を恥じているわけじゃない。
宗吾さんとの愛は、純粋で大切で尊いものだ。
だから胸を張って堂々としていたい。
しかし……
芽生くんには迷惑をかけたくなくて――
子供の邪気がない言葉は、時に酷く残酷だ。
鎌倉で……七五三の日に子供達が囁いた声がこびりついている。
あの言葉にショックを受けた芽生くんの顔が、ちらついてしまった。
門が見えると、ますます足取りが重くなった。
すると宗吾さんが立ち止まって、僕をじっと見つめた。
「瑞樹、大丈夫だ。顔を上げてくれ」
「……すみません。僕は……やっぱり意気地なしです。もっと強くなりたいのに……駄目だな」
「謝るな。瑞樹は瑞樹らしくいて欲しい。だから無理だけはするな。お、協力な助っ人登場したぞ」
「え?」
顔を上げると……
なんとそこには……
憲吾さんが立っていた。
「兄さん、やっぱり来てくれたのか」
「……コホン、まぁな、今日はガードマンとしてだ」
「え?」
「瑞樹、君の心をガードをするから、芽生の二分の一成人式を心から楽しんでくるといい」
ビシッとスーツを着込んだ憲吾さんの目つきは鋭く、眼鏡の奥の目は精彩を放っていた。
憲吾さんは、凄腕の弁護士だ。
ただそこにいてくれるだけで、とても心強い。
憲吾さんが立っているだけで場が引き締まるので、僕は平常心を保てそうだ。
「兄さん、頼りになるな」
「宗吾も楽しんで来い」
「あぁ」
体育館に入ると、大勢の保護者が既に集まっていた。
皆、自分の子供に夢中のようで、男同士で並んで座っても誰も気にとめない。
僕たちも場に馴染んでいく……
さぁ、式典が始まる。
まずは校長先生の挨拶からだ。
「10歳を迎えた皆さんが、今日までどのように成長してきたかを振り返り、これからの目標を考える機会にしましょう」
続いて、 子どもたちが「将来の夢」や「10歳から大人になるまでに頑張りたいこと」を一人ずつ発表していく。
芽生くんはどんな夢を持って、どんなことを頑張りたいのかな?
宗吾さんと顔を見合わせて、微笑んだ。
「芽生の夢か、なんだろうな」
「楽しみですね」
サッカー選手
野球選手
学校の先生
漫画家
小説家
モデルさん
俳優さん
次々と飛び出す言葉に、頬が緩む。
いいね、子供の夢は無限だね。
さぁ、芽生くんの番だ。
芽生くんの夢は何かな?
壇上に立つ芽生くんは緊張した面持ちで頬を紅潮させていて、微笑ましかった。
小さかった君が大きくなって、今日は将来の夢を皆の前で語ってくれる。
楽しみにしているよ。
「滝沢芽生です。ボクの将来の夢は……弁護士さんになることです」
えっ、弁護士?
それは初耳だ。
4年生の間にも、ざわめきが起きた。
まだ小学生の芽生くんが「弁護士」という少し大人びた夢を語ったことに、クラスメイトが驚いたようだ。
「えっと、ボクは困っている人や弱い立場の人をちゃんと守って助けられる人になりたいです。テレビで弁護士さんが人を法律で守る姿を見て、とてもかっこいいと思いました」
芽生くんの声は緊張で少し震えていたが、自分の言葉に込めた想いを伝えようと真剣だった。
「弁護士さんになるには勉強を沢山しなきゃいけないし、大変なこともいっぱいあると思います。でもあきらめないで頑張ります。そして困っている人が笑顔になれるような弁護士になりたいです」
そう言い切った芽生くんは、最高にかっこ良かった。
びっくりしたよ。
そんな大きな夢を抱いていたなんて。
一番始めに拍手をしたのは憲吾さんだった。
大きな拍手、何度も頷いて……
すぐに僕と宗吾さんも続いた。
芽生くんの夢が叶いますように――
心から願って、心から応援していくよ。
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