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二月、家族の時間 5

前置き こんにちは、志生帆 海です。また更新が滞ってしまい申し訳ありません。 私の方の事情はエブリスタの方のエッセイhttps://estar.jp/novels/25768518で書いております。それから宣伝になってしまいますが、少し……春庭同人誌のことを語らせて下さい。 不要な方はスクロールお願いします。 3月23日の春庭に向けて、同人誌を制作しました。 新刊は『幸せな存在』の未来編です。 つまり10年後の滝沢ファミリーの様子を、SSの連作で綴ったものになります。二十歳前後の芽生、10年後の宗吾さんと瑞樹の様子、潤やいっくん、サブキャラも登場する盛り沢山な登場人物で、ほっこり幸せな気持ちになれる1冊です。 ただいまBOOTHにて特典付きの先行予約受付中です。(2月20日朝の9時まで)二十歳の芽生を、イラストレーターのmoineさまに描いていただいたので、表紙絵をぜひ見て頂きたいです。ぜひBOOTHに遊びにいらして下さい。 BOOTHへのリンクはエブリスタのプロフィール→Xトップ画面→BOOTHからどうぞ。 前置き長くなり申し訳ないです。 それでは本編です。 **** 軽井沢―― 「いっくん、保育園に行く時間だぞ」 「はぁい、パパぁ、いっくん、じゅんびかんりょーだよ」 「えらいな」 「えへへ」    砂糖菓子のように甘いいっくんの笑顔に、今日も朝から頬が緩む。  毎朝いっくんを保育園に送るのがオレの日課で、大切な親子の時間だ。  それにしても、いっくんが1月で6歳になったなんて、まだ信じられないな。四月から小学1年生か…… 時が経つのが早過ぎる。  こうやって保育園に送れるのも、あと少し。  そう思うと、一瞬一瞬がさらに愛おしいものになってくる。  外に出ると銀世界が広がっていた。 「わぁ、ゆきさん、いっぱいつもってるね」 「あぁ、昨日沢山降ったからな」 「きれぇ、いっくん ゆきさん、だいすき」 「いっくんには雪の白さが似合うよ」  いっくんは、純粋無垢な子供だ。  オレはこの子の綺麗な心を守る人でありたい。 「あれあれ? パパぁ、こんなところに、ちいさなおまめがおちてるよ」 「ん? あぁ、そうか、今日は節分だったな。それにしても、こんな早い時間にもう豆まきしているなんてすごいな」 「まめまき? いっくんもしたい」 「よし、じゃあ今日の夜、いっしょにやろう」  去年までは小さなアパートだったので、すっ飛ばしてた季節の行事だった。  だがせっかくマイホームを手に入れたんだ。  盛大に豆まきをしてみたい。  これからは季節折々の行事を積極的に取り入れて、毎日を大切に丁寧に暮らしていきたい。  ずっと粗っぽく雑に生きてきたオレはもういない。  子を持って思うこと。  こうやって親子で過ごせる時間は、永遠ではない。  こんな風にべったり甘えてくれるのも、ずっとじゃない。  だから一緒にいられる時は、おもいっきり寄り添ってやりたい。  甘えて欲しい。  こんな感情になるのは、兄さんが芽生坊に寄り添う姿を見せてもらっているからだろう。 「せつぶん、たのちみだな」  火事の騒動で、すっかり戻ってしまったいっくんの舌足らずな喋り方も永遠じゃない。時が満ちれば卒業してしまうのだから、今はこのあどけなさを大切にしたいものだ。  夕刻、スーパーで豆を買うと、鬼のお面をもらった。  ようし、スイッチが入ったぞ。  その晩、豆まきの準備をしていると、いっくんがやってきた。 「パパ、もうじゅんびできた?」 「あぁ、豆もいっぱいあるぞ」 「いっくん、ほいくえんでれんしゅうしたから、ちゃんとできるよ。おにはちょとー ふくはうちだよね?」 「そうだ。じゃあ始めるか」  いっくんは小さな手で豆をぎゅっと握りしめ、オレを見上げた。 「おにさんどこかな?」 「ここだよ。パパが鬼になるから、いっくんは思いっきり豆を投げるんだぞ」  そう言いながら、ゆっくりと鬼のお面をつけた。 「うおおおお!」  低く唸るような声をあげると―― 「……!!」  いっくんは目をまんまるにして、その場で硬直していた。  そして、次の瞬間―― 「うわぁぁぁん!!」  あ、ヤバい! 張り切りすぎて怖がらせてしまった。 「いっくん、パパだよ。パパだ」 「パパ? パパだよね。びっくりちたー」  慌てて鬼のお面を取ると、いっくんは大粒の涙を浮かべて駆け寄ってきてくれた。 「ご、ごめんな。びっくりしちゃった?」    震える息子をぎゅっと抱きしめてやると、いっくんは涙をボロボロこぼしてしまった。 「こ、こわかったぁ……! どちて……パパがおにさんになったの? パパはパパがいいのにぃ……ぐすっ、ぐすっ」  困ったな。 どう説明したらいいのか。    うーむ、こんな時、兄さんだったらどうする?  兄さんはどんな鬼になるかな。  涙目のいっくんを宥めながら考えていると、兄さんの優しい声が聞こえたようだった。  そうだ! 「いっくん、パパはお家を守る鬼になったんだよ。悪い鬼を追い払って、みんなを守る強い鬼なんだぞ」 「えっ、それ、ほんと?」 「そうだ。だから泣きやんでくれ。いっくんもパパといっしょにこの家を守る鬼にならないか」  いっくんは涙をぬぐいながら、こくりと頷いた。  可愛い笑顔が戻ってきた。 「じゃあ、パパと一緒に家を守ろう!」 「うん! いっちょにまもるよぅ」  こうして、いっくんは「お家を守る鬼」になった。  小さな身体で張り切って「鬼は外! 福は内」と元気よく豆をまいてくれた。  これもまたかけがえのない大切な思い出になる。

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