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特別番外編🎂 HAPPY BIRTHDAY 瑞樹 32歳🎈
前置き
2025/05/02は、瑞樹の32回目の誕生日でした。
当日はエブリスタのエッセイの読者様と、白金のレストランで瑞樹の誕生日会をしてきましたので、それに合わせたSSを書きましたので、オフ会特別番外編として、皆さまにもお裾分け致します🍀
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朝、目覚めると、窓の外からザーザーと雨音が聞こえた。
「……あ、雨か」
天気予報通り、朝から大降りのようだ。
僕は少しだけ残念な気持ちで、そっとシーツの中に潜り込んだ。
悔しいな。
残念だな。
こんな感情を抱くなんて――
宗吾さんと芽生くんと出逢う前の僕には持てなかった感情だ。
今日は僕の32回目の誕生日。
本当なら宗吾さんが提案してくれた目黒のガーデン美術館の庭で、花の展示を見る予定だった。
芽生くんと一緒に先日買った春物の服を着て、1日中花に囲まれて過ごせるはずだったのに。
そうだ……
昨夜、天気予報を確認した宗吾さんがぽつりと「明日は予定を変更するかも」と言っていた。「楽しみにしてろよ!」と、何かを閃いた時の生き生きとした宗吾さんの笑顔を思い出すと、気持ちが浮上した。
(落ち込んでいる場合じゃない。楽しみにしてみよう)
「瑞樹、誕生日おめでとう!」
「お兄ちゃん、ハッピー バースデー!」
二人からの祝福を朝からたっぷり受けてから、車で出掛けた。
春らしいミント色のトレーナーを着た芽生くんが、隣りにワクワク顔で座っている。
「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」
「お父さん、内緒って言ってたけど……すっごいの用意してあるんだよ」
「そうなの?」
「えへへ。実は、ボクもちょっとだけ手伝ったんだ」
「もうすぐ着くぞ」
車が止まったのは、白金の静かな住宅街の一角。控えめな看板に小さく金の文字で『Cafe Restaurant 月湖』と書かれている。ここには何度か来たことがある。白薔薇の雪也さんが経営されるレストランだ。
「あ、ここでしたか」
「そうだ」
「お兄ちゃん、今日だけの特別な予約席なんだって」
芽生くんが小声で教えてくれた。
ドアを開けると、やわらかな花の香りがふわりと流れてきた。
奥から現れたのは白髪の上品な女性──店主の白江マダムだった。
「瑞樹さん、お誕生日おめでとうございます。今日は個室を承っております。さぁご案内しますね」
個室の扉が開くと、そこに現れたのは、まるで花畑のような空間だった。
壁には薔薇やすずらんの花が飾られ、テーブルには色とりどりの自然の草花が生けられている。そして芽生くんが描いたすずらんの絵が、カードになって席に添えられていた。
「……このカード、芽生くんが?」
「うんっ! お兄ちゃんのために描いたよ!」
宗吾さんが溌剌とした笑顔を浮かべている。
「雨で庭園は無理そうだから、室内に春を特別に用意してもらったんだ。マダムと芽生に協力してもらってさ!」
その言葉に胸がいっぱいになった。こんなにも嬉しいサプライズを用意してくれるなんて。
そして運ばれてきた料理にも、感動した。
特に黄金色のパイに包まれた白身魚の一皿は、サクサクのパイと白ワインとハーブのソースが絶品だった。
「あ、これ、すごく美味しいです」
その瞬間、マダム白江が微笑まれた。
「実はこれはね、英国に住む古い友人のアーサーと、その執事の瑠衣のレシピなんですよ。二人は恋人同士で、アーサーが毎年瑠衣の誕生日に作っていた愛情一杯の一皿なの」
このパイ包みは彼らの特別な一品で、彼が瑠衣さんのために愛を込めて作っていたことに思いを馳せると、胸が一杯になった。
どのお料理も丁寧に作られていて、幸せだった。
最後はバースデーケーキが運ばれてきた。
生クリームと苺の素朴なケーキは、亡き母の手づくりのようで胸が熱くなる。
「瑞樹、改めて誕生日おめでとう!」
「お兄ちゃん、また一つ大きくなったんだね。おめでとう!」
愛しい家族と水入らずで過ごす誕生日は、なんて素晴らしいのだろう。
食後、マダムがそっと小さな袋を手渡してくれた。
「お誕生日の贈り物にどうぞ。四つ葉のクローバーの入浴剤と私が刺繍した布巾よ」
「素敵です」
「実はねこれは芽生くんと相談して選んだのよ。あなたたちに幸運が訪れますように、って」
マダムの言葉に、芽生くんはニコニコだった。
「お兄ちゃん、ボクたち幸せになれるよ!」
その一言に、また胸が温かくなる。
帰りの車で、芽生くんは満足そうにうとうとしていた。
相変わらず窓の外は激しい雨が降っている。だけど僕の心は晴れ渡っていた。
「……宗吾さん。素敵な時間をありがとうございます。今、とても胸が高鳴っています。本当に、幸せです」
「それが一番、うれしいよ」
どしゃ降りの雨の中に咲いた、家族と花の誕生日。
温かい春の記憶が、僕の胸いっぱいに広がっていた。
誕生日おめでとう、僕……
天上の世界にいる家族にも伝えたい。
雨が降っても、もう大丈夫です。
大きな大きな傘を差してくれる宗吾さんと芽生くんと巡り逢えたから。
信号待ちの一瞬、雨がカーテンのように僕たちを世界から隔離してくれた。
宗吾さんからの祝福のキス。
「瑞樹、ずっと愛しているよ」
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