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特別番外編🎂芽生の11歳の誕生日🎈
五月の空は、まるで芽生くんの誕生日を祝うように澄み渡っていた。
バルコニーで深呼吸すると、風に乗ってこいのぼりが、元気に空を泳いでいるのが見えた。
僕はリビングに戻り、テーブルの上に小さなカードを並べた。
今日は芽生くんの11歳の誕生日。
事前に「何か欲しいものはある?」とプレゼントのリクエストを聞くと、芽生くんはこう答えた。
「お家で宝探しがしたいな」
宝探し?
少し不思議な、とっても可愛い願い事を叶えてあげたくなった。
だから、宗吾さんと僕とで、夜な夜な考えて用意した。
……
「瑞樹、宝物は11個用意しようぜ」
「いいですね、11歳だから11個なんですね」
……
宗吾さんと芽生くんを喜ばすアイデアを出し合うのも、楽しかった。
喜んでくれるといいな。
11枚のカードを部屋に隠し終わると、ちょうど芽生くんが起きてきた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「芽生くん、お誕生日おめでとう! プレゼントは11歳の宝物探しだよ」
「わぁ、面白そう!」
僕は微笑みながら、最初のカードを芽生くんに手渡した。
「じゃあ、最初はこれだよ。わかるかな?」
カードの表には「最初の宝物は、毎朝一緒にいる美味しそうな匂いがついた物の中だよ」と書かれていた。
「えーと……毎朝いっしょでおいしそうな匂いって、あっ、パパのエプロンかも」
芽生くんがキッチンに駆けていく。
その様子を宗吾さんと一緒に見守った。
さぁ、宝探しのスタートだ!
エプロンのポケットには、小さな缶バッジが入っていた。
缶バッチには「早起きできたよ」と書かれていた。
宗吾さんがマジックで書いてくれた。
「わあ……! 早起きできたら、これつけていいの?」
「そうだよ」
宝物は、芽生くんの毎日に寄り添うささやかなものを用意した。
バッチと共に、2番目のカードが出てくる。
「2番目は大好きな本の中にいるよ」
「えっとえっと、あ、もしかして『トカプチ』くんの本?」
芽生くんが本棚から本を取り出してページをめくると、僕が手作りした四つ葉のしおりが出てきた。
裏にはメッセージを添えておいた。
『ページを静かにめくる時間は、心の中を旅しているんだよ。芽生くんが旅で見つけた物語を、あとで少し教えてくれたら嬉しいな。 ――お兄ちゃんより』
「3番目は遠い場所から届くもの」
「お手紙かも。 じゃあ玄関だ」
郵便受けには、大沼のおじいちゃんとおばあちゃんからの誕生日カードが入っていた。中には、少し色あせた古い外国の切手が何枚か丁寧に挟まれていた。
『芽生坊、11歳、おめでとう。少し大きくなった君へ渡したくて集めていた切手がある。この古い切手は、一枚一枚の中に、昔の旅や人の気配が残っているんだ。そっと触れてごらん。 言葉じゃなくても伝わるものがある。大人になるって、そういう静かな声を聴けるようになることかもしれないな。――大沼のおじいちゃんとおばあちゃんより』
くまさんのメッセージはとても深くて素敵だ。
4番目は白い便せんにシンプルな文字で『使い方は君次第だ』と書かれていた。
「???」
これを探すのには苦労したが、机の引き出しの中から無事に発見した。
芽生くんが「ここかも」と机の引き出しを開けると、新しい鉛筆が5本と、真新しい学習ノートが入っていた。ラベルには「NOTE」とだけ書かれている。その裏には、憲吾さんのメモが貼ってあった。
「芽生へ 11歳の誕生日おめでとう。 この先きっと楽しいことだけじゃなく、わからないこと、難しいことも出てくるだろう。だが芽生ならきっと乗り越えられる。少しずづ自分で考えることを学んでいくといい。応援してる。――憲吾おじさんより」
芽生くんは綺麗に削られた鉛筆をじっと眺めた。
「そうなんだね。使い方は、ボクしだいなんだね」とゆっくりと贈られた言葉を噛みしめていた。
宝物はまだまだ続く。
最近また背が伸びたので新しいエプロン。
10歳の誕生日の写真アルバム。
1つ、また1つ、宝物を見つけては芽生くんは嬉しそうに抱きしめてくれた。
10番目のカードは、録音されたメッセージを聴いて欲しいというものにした。
「声の贈りものは、大好きな人の顔を思い出させてくれる魔法だよ。パパのスマホの中のこのマークのフォルダを開いてみて」
芽生くんがスマホの「VOICE」フォルダを開くと、宗吾さんが事前に準備してくれた軽井沢からのメッセージが次々と再生された。
まずは、いっくんの可愛らしい声。
「めーくん、おたんじょうびおめでとう。いっくん、おにいちゃん、だーいすき!」
次に、菫さんの優しい声。
「芽生くんが心を大切に育ててきたこと、ちゃんと伝わってるわ。これからも、ありのままの芽生くんでいてね、いっくんの優しいお兄ちゃんでいてね」
そして最後に、少し照れた潤の声。
「芽生坊、誕生日おめでとう! お兄ちゃんとして、いっくんにいろいろ教えてくれてありがとう。芽生坊はオレにとって、最高の甥っ子だ」
芽生は少し照れながらも、笑顔で聴き終えた。
「パパぁ、もう一回」
「何度でも聞き返せるぞ」
素敵な贈り物だった。
そしていよいよ最後のカードだ。
最後のカードは、家族3人で撮った写真が貼っておいた。
「この家の一番大事な宝もの。暖かくて、柔らかくて、優しくて、明るくて……触れるとほっとするもの」
「えっ……これって、もしかして……もしかして」
芽生くんがドキドキしながら振り返ったので、僕と宗吾さんは両手を広げて頷いた。
「宝物は……僕なの?」
芽生くんがタタッと走って、僕と宗吾さんの胸にぽすっと飛び込んでくれた。
僕たちは芽生くんをギュッと抱きしめて「正解だよ」と微笑んだ。
「芽生くん、この世に生まれてくれてありがとう。僕と一緒に暮らしてくれてありがとう。芽生くんが、いちばんの宝物だよ。芽生くんは僕の幸せだよ」
芽生くんの大好きなチョコレートケーキを囲んで、家族でお祝いをした。
芽生くん11歳おめでとう!
君と一緒に成長できる喜び、毎日感じているよ。
毎日幸せを更新できるのは、宗吾さんと芽生くんがいるから。
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