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春色旅行 こぼれ話(大樹&宏樹編)③

 夏にはみーくんが帰省してくれるそうだ。  長崎からの電話で、確かにそう言ってくれた。  そんな話を聞いてからというもの、さっちゃんと二人で胸がわくわくして仕方がない。  そろそろ会いたいな。  みーくんにも、宗吾くんにも、そして可愛い芽生坊にも。 「勇大さん、ちょうど今、北海道カムイファイターズの野球中継をしているわ」 「へぇ」  新聞のテレビ欄を眺めていたさっちゃんの一言でテレビをつけると、横浜のスタジアムで交流戦をやっていた。  道民なら誰でも少しは贔屓にしている北海道のチーム。  オレは大樹さんの影響で好きになったんだよな。  大樹さんは地元の野球クラブにも所属して活躍していたし、プロ野球観戦も好きだった。 「おっ、勝ってるな」 「でもまだ1点差よ」 「じゃあ気合をいれて応援しないとな」 「えぇ!」  さっちゃんの手作りドーナツをつまみながら観戦していたら、なんだか体がうずうずしてきた。  ――あぁ、やっぱり生で野球が観たい。  あの応援の熱気は、爽やかで心地良くて、気持ちが晴れるんだ。  そういえば、大樹さんも生前よく言っていたな。  「いつか息子や孫と一緒に野球観戦する日が来るといいな」と。  ……その夢、俺が叶えてあげたくなった。  夏休みには函館のスタジアムで年に一度のプロ野球の試合がある。  そのタイミングに合わせて帰省してくれたら、一緒に行けるかもしれない。  ふとテレビに目をやると。おそろいのユニフォームを着た親子が元気いっぱい応援している様子が映し出された。  その時は、あの親子みたいに声を張り上げて、元気に応援するぞ。  ――そう思った瞬間、画面にピントが合った。  あれ? 「あああ、あの子供は、めっ、芽生坊じゃないか!」  隣にいるのは……宗吾くんのお兄さん、憲吾さんだ。  驚いたなぁ。  なんだか、一足先に夢の続きを見せてもらえたようで、不思議な気持ちになった。  それにしても可愛い芽生坊がとびきりの笑顔で楽しそうにしているのを、偶然画面越しに見られてラッキーだ。  もしかしたら、これは今日が誕生日のみーくんの魔法かもしれないな。  いずれにせよ、画面越しで芽生に会えた。  もう、それだけで胸がじんわり温かくなって、幸せな気持ちになった。 ****  店先の薔薇を水で冷やしていると、外から風が吹いてきた。  その爽やかな風に誘われ、瑞樹の顔を思い浮かべた。  瑞樹、今日は誕生日だな。  仕事だと聞いているが、頑張っているか。 「ヒロくん、コーヒーをいれたからどうぞ」 「みっちゃん、ありがとう」  今日は客足も落ち着いているので、久しぶりに店のテレビをつけてみた。  すると、ちょうど野球中継をやっていた。  贔屓のチーム、北海道カムイファイターズだ!  横浜のスタジアムで交流戦をしているらしい。  いつもなら野球中継は流し見する程度なのに、その日は妙に気になって画面を見つめていた。そして、カメラがスタンドを映したその一瞬。 「……ん?」  小さな子供の笑顔が飛び込んできた。  あれ? あれは―― 「芽生坊!?」  見間違えるわけがない。  チームのユニフォームを着て、跳ねるように喜んでいる。  その隣にいるのは憲吾さんか。  芽生坊の笑顔が、画面越しにでも伝わるほど輝いていたので、思わず口元がほころぶ。 「楽しそうだなぁ」  テレビから聞こえる歓声に混じって、芽生坊の声が聞こえたような気がして、胸がくすぐったくなった。  遠く離れていても  こんなふうに笑っていてくれるなら  それだけで十分だと思える。  ……だけど。  やっぱり会いたくなるな。  瑞樹にはもちろん、芽生坊にも、宗吾くんにも会いたい。  故郷に帰ってこいよ、瑞樹。  夏に帰省したら、何をしてやろうか。  美味しいもんをたくさん食べさせてやろう。  花屋の冷蔵庫の中に、芽生坊の好きな花をひとつ、用意しておこうか。  芽生坊の無邪気な笑顔を見ながら、そんなことを考えている自分に驚いた。  心にゆとりがあると、人はこんなにも幸せな未来を思い描けるのか。  心が広くなればなるほど、人を愛する思いが深まっていくんだな。 「瑞樹、誕生日おめでとう。遠くからでも、ちゃんとお前を思っている。兄ちゃんはいつもここにいる!」

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