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しあわせ図鑑 1
ゴールデンウィークが終わると、またいつものように小学校が始まった。
「おはよう、芽生」
「おはよう!」
「連休楽しかったな」
「うん‼」
思わず大きな声を出しちゃった。
だって、本当に楽しかったんだもん!
長崎旅行では、お兄ちゃんが写真のコンテストで大賞を取れたし、バラも夜景もキレイで、眼鏡橋は本当に眼鏡みたいでおもしろかった。それから憲吾おじさんといった野球も最高だった。おじさんがあんなに大きな声で応援するなんて、力強くてかっこよかったな。
連休明けの授業はちょっと眠かったけど、ボクの心はぽかぽかしてた。
そして5時間目。
「総合的な学習の時間」では「キャリア教育」の授業が始まった。
「今日はみんなの将来の夢について考えてみましょう」
先生の声に、クラスがざわっと沸いた。
「サッカー選手になってワールドカップに出る」
「マンガ家!」
「カッコいいお医者さん」
「有名なパティシエ」
「可愛いモデル」……
みんな、キラキラした目でノートに夢を書きだした。
でもボクの手は止まったまま。
ボクは1/2成人式で『弁護士さん』になりたいって、発表した。
困っている人を助けたい気持ちは、今も変わらないけれども……
助けるって、弁護士さんだけじゃないし、そもそも弁護士さんの仕事をちゃんとわかってない。
ひとつに決めちゃうの、急にこわくなってしまったよ。
もっといろんな仕事をみたいな。
胸の中にふわふわと広がる気持ちが、言葉にならないまま授業が終わった。
ページは、白いままだった。
「じゃあ、今日はここまで! 書けなかった人はちゃんと考えてきてね。明日までの宿題よ」
明日まで?
夢って、そんなにすぐ決まるものなの?
夢をそんな簡単に扱っていいの?
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、家に帰った。
夜、リビングでくつろいでいたお父さんに、思い切って聞いてみた。
「ねぇ、お父さんって、いつから今の仕事をしたいって思ったの?」
お父さんは目を丸くして、それからソファに深くもたれた。
「お、急にどうした?」
「うん……今日、学校で『将来の夢』を考える授業があって、宿題なの」
「なるほど」
お父さんは、少し考えてから話してくれた。
「……正直に言うと、最初から今の仕事をやりたいって思ってたわけじゃないんだ」
「えっ?」
思ってもいない答えが返ってきてびっくりしたよ。
今の仕事が大好きで、小さい時からの夢だと思ってたから。
「俺は小さい頃から映画が好きで、将来は映画に関わる仕事をしたいって漠然と考えていたんだ。でもいろんな偶然と出会いがあって、今の仕事についた。広告のコピーを書いたり、誰かの言葉をカタチにしたり……気づいたら、こっちの方が自分に合っていたんだ」
「……そっか、そういうこともあるんだね」
なんだか、ちょっと安心した。
夢って、ひとつだけじゃないんだ。
そして、途中で変わってもいいんだね。
「そうなんだ。でも二番目の夢もいいね」
「ははっ、芽生も大人になったらわかるだろうが、やりたかったことと、今、誇りを持ってやっていることって、同じとは限らないんのさ。まぁ、とにかく始めてみないとわからないし、やってみてから見えてくることもあるよ」
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