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しあわせ図鑑 5

久しぶりの更新です! 前置きは同人誌のことになりますので、不要な方はスクロールしてくださいね。 前置き こんにちは、この物語を紡いでいる志生帆海です! まだまだ暑いですね。皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。 つぶやきの内容と被りますが、8月のお盆休みからエブリスタでの定期連載をお休みさせていただいて、同人誌の執筆を頑張っていました。 今年も秋庭『J․GARDEN』に参加します。 2025年10月12日(日)東京ビッグサイト西3・4ホールで開催されますので、ぜひ遊びにいらして下さい。 今回の同人誌は私の創作10周年を記念したスペシャルブックです。処女作『重なる月』の冒頭を同人誌用に加筆修正したスペシャルバージョンを1万字収録。その他、― あの物語の始まりの前夜。そして、10年後の今を収録しました。 今まで気になっていた…… あの時、彼らは何を想っていたのか。 あれから、彼らはどんな時を重ねてきたのか。 たとえば単身でニューヨークから帰国する洋の心境 離婚したばかりの宗吾さんの心境など…… 月が照らすのは変わらない気持ちと歩み寄る幸せ。 まるでセレナーデのような短編集をどうぞ! 二十歳になった薙と芽生のパッション溢れるSSは、これからの定期連載の布石となりますので必見です。 重なる月の冒頭以外はすべて書き下ろしです。WEB公開予定はないので、この機会にぜひ。 以下の作品の物語のはじまりのその少し前の様子と、 二人のその後の幸せそうな様子をSSにしました。 新刊同人誌は明日、18日9時まで先行予約受付中 内容はエッセイhttps://estar.jp/novels/25768518にて公開しています。 詳細はXにて💛 https://x.com/seahope10 前置きが長くなり失礼いたしました。 久しぶりに続きを書いたので、どうぞ! (本格再開は来週からになります) ***** 「私はエメラルド社の編集の佐藤杏子です」 「さとう……あんこ…さん?」  思わず、あの子の顔が一瞬よぎってしまう。  あんこが大好きな小森くん……。  頭を軽く振って、自分を立て直した。  はは……僕、だいぶ刷り込まれてるな。 「え?」 「あ、すみません。失礼しました」 「ふふ、美味しそうな名前ですね、とよく言われるんですよ」 「あ、いえ、そんなつもりでは……。僕は、加々美花壇の葉山瑞樹と申します。これ、名刺です」  差し出した名刺を受け取りながら、佐藤さんの表情が引き締まる。 「ありがとうございます。加々美花壇さんですね。私たちエメラルド社では、雑誌やウェブなど複数の媒体で『就職』をテーマに取り上げています。その中でも私は就職希望者本人とその親世代、両方に寄り添った就活の情報を届けることを大切にしておりまして……」  佐藤さんは資料を一枚、バッグから取り出して続ける。 「知名度やブランド力ではなく、職場環境や人との関係性を重視した企業選びの軸を伝える雑誌──『娘と息子を入れたい企業』を5年ほど担当しています」  ああ、それなら本屋で見かけたことがある。それにしても、そんな大きな企画に僕が載っても大丈夫なのだろうか。 「正式なご依頼は、1週間以内に会社を通して書面でお送りします。その前に、社内で一度ご相談いただければと思いまして」 「あ、そうですね。わかりました」    夕方、社内が少し落ち着いたころ、僕は意を決してリーダーのデスクを訪ねた。 「リーダー、お時間よろしいですか?」  顔を上げたリーダーが、口角を上げて微笑む。 「おう、葉山。なんだ、そんな顔して。まさか怒られるようなことでも?」 「いえ、そういうわけでは……ちょっと、相談がありまして」  言葉を濁すと、リーダーは静かに目で隣の椅子を示す。  僕は素直に腰を下ろした。 「話してくれ」 「……はい。実は本日作業していたブライダルフェアの会場で、エメラルド社の編集の方に声をかけられました。花業界の特集で、取材を受けてほしいと」 「ほう、あの『娘と息子を入れたい企業』の?」 「はい。正式な依頼の前に、まずは社内でご相談をと言われまして」  リーダーは少し黙ってから、低く、真っ直ぐな声で言った。 「……で、葉山自身は、どうしたいんだ。覚悟はあるか」  その問いには、受けるかどうか以上の重みがある。  わかっている。  わかっているから、ここに来たんだ。 「全国誌に載るということは、それだけ多くの人に、顔を知られるということだ。……本当に大丈夫なのか」  リーダーの眼差しは、静かで、あたたかく、でも確かな覚悟を問いかけてくる。  忘れてはいない。  高校時代、僕をつけ回していたストーカーの男が、社会人になった僕を再び追い、あの日、恐怖と無力さの底に引きずり込んだ。拉致され、閉じ込められ、もう二度と日常には戻れないかもしれないと思った。  リーダーは、そんな僕を、誰よりも守ってくれた。  外部に一切漏れないように奔走してくれ、社内で「病気療養」として処理してくれたおかげで、僕はこうしてまた、ここに戻ってこられた。  あれが自分の身で味わった、最後の恐怖だったと思う。  そして、今。 「……はい。少し怖いです。ですが、しっかり考えました」  言葉を継いで、胸の奥から出す。 「今の僕には全力で守ってくれる人がいます。そして、僕が守りたい人もいます」 「……そうだったな」 「それに。僕自身、変わった気がします。怖さから逃げるだけじゃなくて、自分の人生を、自分で選びたいと思えるようになって……」  そっと、笑ってみせた。 「きっかけは、ゴールデンウィークの野球観戦でした。たまたまテレビ中継で家族が映ったんです。僕も偶然見かけてとても嬉しかったです。その時、大切な人が輝いているのを偶然見つけられるのって、すごくいいなって思ったんです」 「なるほどな」  もしかしたら、大沼のくまさんや母、潤や宏樹兄さんにも、見てもらえるかもしれない。僕がちゃんと、前を向いて生きてるって、伝えられるかもしれない。  しばらくの沈黙のあと、リーダーがぽつりとつぶやいた。 「……強くなったな、葉山」  そして、ゆっくりと微笑む。 「よし。取材を受けてこい。会社としては問題ない。ただし掲載内容のチェックだけは事前にしっかりな」 「……ありがとうございます!」 「それと取材日が決まったら教えてくれ。……俺だけじゃなくて、葉山の大切な子にもな」 「え?」    リーダーの目が、子供のように輝いた。 「せっかくだから坊やも連れてきてやれよ。もうすぐ夏休みだろ? 雑誌の取材を見学させてやったらいい。親の仕事って子どもには特別に見えるもんだ」  不意を突かれて、胸の奥がじんわりと熱くなった。  本当に呼んで、いいのだろうか。  そもそも芽生くんは来てくれるだろうか。 「……よく考えてみます」  リーダーは少し茶化すように笑って、ポンッと僕の背を叩いた。 「絶対に来るさ。親の仕事に興味津々なのが、子どもってもんだ」

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