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しあわせ図鑑 26
さっきからずっと耳元で低く甘い声が、繰り返されている。
「瑞樹……ずっと、俺のそばにいてくれ」
「はい、僕はずっと宗吾さんの傍にいます」
頬をなぞる指先、胸元を滑る温かな手のひら。
ボタンのひとつひとつが外されるたび、夜の空気がひんやりと肌に触れ、その直後に、宗吾さんの熱が覆いかぶさってくる。
少しも怖くない。
むしろ嬉しい。
大好きな人と触れ合える喜びでいっぱいだ。
ぎゅっと腰に回された手で抱きしめられ、胸元に口づけられる。
「んっ……あっ……あぁ」
吐息とともに零れる声は、もう僕のものではないようで、甘く切ないものだった。
「もっと気持ちよくなってくれ」
すると、宗吾さんが頭を下にずらして、僕の胸の小さな粒を吸ってきた。
「んっ、ん」
そこから、宗吾さんが唇と手を使って、僕の身体を熱心に愛撫し始める。
宗吾さんの大きな手が、髪に、肩に、背中に触れるたび、甘く濃密な幸福感が体中に広がっていく。
そして再び甘い口づけを繰り返す。
唇と唇が離れるたびに短く息をつき、今度は手のひらで触れ合う。
「瑞樹の身体、たまらないよ」
「んっ……」
くすぐったくも、気持ちいい。
そのまま僕はすべてを委ねることにした。
思う存分、触れて下さい。丁寧な愛撫に、頭の先からつま先まで暖かさと安心感で満たされるから。
今日思い出しかけた、あの過去のおぞましい感触はもうとっくに流れ去っていた。
「ああっ、そこ、だめです」
「どうして、ここ好きだろう?」
「んっ」
内股の……過敏に反応してしまう部分に手が伸びてきた。
動きが気持ちよすぎて、キスが心地よ過ぎて、とろけそうだ。
宗吾さんが全力で、僕の今日一日の疲れや緊張、不安を溶かそうとしてくれているのが伝わってくる。
僕に出来ることは、全身で宗吾さんを受け入れ、全力で彼の身体を抱きしめること。
「宗吾さん、宗吾さんっ」
「おっと、瑞樹……そんなにきつくくっついたら動けないんだが」
「あ、すみません」
「久ぶりだが、大丈夫か。もう少し慣らそう」
「あ……っ」
潤滑剤で入り口を丁寧にほぐされて、頬が染まる。
「うっ」
奥の秘めたる部分を指先でくるんと辿られ、恥ずかしさに埋もれそうになる。
「ほぐれてきたな」
何度も何度もつながったことがあるのに、毎回初めてのようにドキドキするのは、何故だろう。
心の中でぼんやりと思っていると、宗吾さんが教えてくれた。
「それは愛を更新しているからだろうな」
「えっ……」
「いや、今さ、瑞樹を抱く度に、まるで初めて抱くような新鮮な気分になるのは、どうしてかって考えて……思ったんだ。瑞樹を好きな気持ちは色褪せないどころか、毎回新鮮に思えるんだよ。こんなに好きな人と巡り合えるなんて、幸せ者だよ」
「僕も同じです。宗吾さんが好きすぎて……あっ……」
「悪い、もう抑えきれない」
「あうっ、あっ……」
宗吾さんの太くて熱いものが、ぐぐっとめりこんでくる。
僕はかくんとあごをそらして、宗吾さんのものを根本まで深く受け入れた。
「ああっ……」
「ふぅ、あったかいな」
「んっ……ん、ん」
僕の身体の中に宗吾さんがいることが不思議で、嬉しくて、愛おしくて
泣いてしまいそうなほど、しあわせだ。
そのまま休憩を挟んで、何度もつながったので最後の方は息も絶え絶えになったが、どこまでも幸せだった。
夜が深まるにつれて、ようやく、僕たちは互いにそっと寄り添い、手を重ね、頬を合わせるだけで満たされるようになった。
「瑞樹……大丈夫か。このまま眠れそうか?」
「はい、宗吾さんが傍にいれば……」
「いるさ、ずっと君のそばにいる」
宗吾さんの手が僕の頬を撫でくれたので、僕の方から近づいて唇を合わせた。
「ありがとうございます」
抱き合ったまま、眠りについた。
素肌の温もり、互いの鼓動、そっと交わる吐息。
生きている。
僕たちは生きている。
それだけで安心感に包まれ、穏やかな眠りに落ちていける。
宗吾さんの腕の中で感じる温もりは、僕をあらゆる世界から守ってくれるような安心感があるんだ。
だから、そっと心の中でお礼を言いたくなった。
撮影でのハプニングを無事に乗り越え、踏ん張れたのは、宗吾さんと芽生くんの支えがあるからです。
ありがとうございます。
目覚めると、まだ夜明け前の静かな時間だった。
隣でぐっすり寝ている宗吾さんの肩に頭を預け、朝の爽やかな光が差し込むのを待った。
「ん……瑞樹、もう起きたのか」
「今、目覚めたところです」
「なぁ、もう一度だけ抱きしめてもいいか?」
耳元で囁かれ、僕は小さく笑いながら、こくんと頷く。
「はい……何度でも」
僕たちは、こんな風に、今日も愛を生み出していく。
信じあえる人がいるって、幸せだ。
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