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しあわせ図鑑 47

「わぁ、このベンチの座り心地、すごくいいよ」  切り株のベンチに座ってみると、景色ががらりと変わった。  少し背が低くなったみたいで、見える世界が違うんだ。  お兄ちゃんを見上げると、いつもより大きく見えたし、空は少し遠く見えた。  あ……そうか。  これって、お兄ちゃんの小さい頃になったみたいなんだ。  小さかったお兄ちゃんはこんな風にここに座って、お父さんやお母さんとおしゃべりしていたの?   いっぱい甘えていたの?  抱っこしてもらえた?  手をつないでもらえた?  やっぱり……10歳でお別れなんて早すぎるよね。  ボクは今、11歳にだけど、ボクの年齢の時には、もう、お兄ちゃんはひとりぼっちになってしまったんだ。  そう思うと、ちょっとだけ胸の奥が苦しくなったよ。  この気持ちを、どう伝えていいのか分からない。 「芽生くん、どうしたの?」 「あ、あのね……お兄ちゃんは……さみしくなかった? もう……さみしくない?」  こんなこと聞いてどうするんだって思ったけど、聞かずにはいられなかったよ。  急に心配になったんだ。  お兄ちゃんが無理してないか。  ボクの問いかけに、お兄ちゃんは、一瞬だけ目を伏せた。 「……そうだね、全然寂しくないっていったら……うそになるかな。でもね、そんな時は宗吾さんと芽生くんを見ると、ほっとするし、元気になるんだ」  お兄ちゃんと出会った頃、ボクは今よりもっと小さかったからよく分からなかったけど、パパと話したことがあったんだ。  お兄ちゃんは平気じゃないのに平気っていうクセがあるから、ちゃんと見た目だけじゃなく、もっと丁寧に大切に心の具合をみてあげようって約束したんだ。  だからじっと見つめたよ。 (ねえ、お兄ちゃん、こころは元気なの?)  あ……お兄ちゃんのこころ、今、弾んでいるみたいだ。  さわやかな風みたいに笑ってるし、少し汗をかいて楽しそう。  うん、大丈夫そうだ! 「よかった。お兄ちゃん本当のこと話してくれてありがとう」 「芽生くん……大きくなったんだね。こんな話をできるようになって……なんだか不思議な心地だよ」 「もっともっと大きくなるよ」  ボクは弾むように切り株から立ち上がり、思い切り手を空に向かって伸ばした。  背の低かった視界が、一気に高くなる。 「ボクは大きな樹みたいになりたいんだ。日陰を作ったり、もたれてもらえるような人になりたいんだ!」  そう伝えると、お兄ちゃんはニコッと笑ってくれた。 「うん、きっとなれるよ。それに、もうなってきてるよ」  最高に嬉しい言葉をもらえたよ!  ボクは嬉しくなって、お兄ちゃんの手をきゅっと握った。  そしてボクたちは、歩き出したよ。

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