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しあわせ図鑑 48

 芽生くんと話しながら、僕の心は感動で震えていた。  ずっと脳内で、芽生くんの言葉がリフレインしている。 (ボクは大きな樹みたいになりたいんだ。日陰を作ったり、もたれてもらえるような人になりたいんだ!)  大きな樹って……『大樹』ってことだよね。  それは、天国にいる僕のお父さんの名前だ。  僕にとってお父さんはまさにそういう人だった。  僕が休めるように日陰を作ってくれ、僕が甘えられ、安心してもたれられる人だった。  芽生くんが、僕のお父さんのような人を目標にしてくれるなんて……  よかった。  改めて再認識したが、芽生くんはしなやかにスクスクと成長している。  柔らかい葉っぱをつけているようだ。  そう実感することが出来て嬉しかった。 「お兄ちゃん、いこう」 「そうだね」  顔を上げると僕の瞳に映る世界は、大きな樹の影を抜けて、まっすぐに伸びる一本の道になっていた。  この道を歩いていこう。  芽生くんと共に――  葉の間から太陽の光がキラキラと差し込み、僕たちを祝福してくれているようだ。 「あっ……」 「どうしたの? 忘れ物?」  さっきの切り株に、まだ誰かの寂しさが残っていないか、もう一度振り返って確認したが、そこにはただ穏やかな木漏れ日があるだけだった。 「ううん、もう何もなかった」 「よかった。お兄ちゃん……本当にもう……寂しくない?」  この子に心配される日がくるなんて。 「うん、もう寂しくないよ。芽生くんのおかげで」  なんだかくすぐったい気分になってきた。  お兄ちゃんの座を奪われそうだよ。 **** 「宗吾くん、この写真使えそうか」 「おぉ! 色合いがバッチリですね。構図もいいな。流石カメラマンですね」 「ははっ、こんなところで役立つとは……生きているといろんなことがあるもんだな」  俺は熊田さんの作業部屋で他愛もない会話をしながら、ドーナッツ屋のキッチンカーに貼りつけるPOPや看板のデザインを考え続けている。  PCの画面には10パターン近くのロゴデザインが映し出されている。 「ロゴマークもつくりましょうよ」 「これ、これいいな」  ハチミツと四つ葉とドーナッツか。 「俺も一推しです」 「宗吾くんも、ただの営業ではない腕前だな」 「……実は営業をやるからには相手の仕事内容をもっと知りたくて、デザイナーの勉強を密かにしたので」 「ほらな、やっぱり君は努力家だ」 「そ、そうですか」  俺が努力家だって?  そんなこと初めて言われたぞ。  目を丸くしていると、熊田さんはさらに嬉しい言葉を付け加えてくれた。 「あぁ、宗吾くんの明るさやバイタリティは、皆、持って生まれた性格と思っているだろうが、もともとは「そうなりたい」という願いから生まれ、日々の努力から蓄積されてきたものなんだと俺は思っている。だから宗吾くんは瑞樹のひたむきさに寄り添うことができるし、芽生くんのしなやかな成長を応援できるんだ。もう宗吾くんなしでは、瑞樹も芽生も本領発揮できないさ」  熊田さんと二人きりで話す機会はあまりない。  今日こんな話をするなんて――      手放しで褒められて……  猛烈に照れくさく、猛烈に嬉しくなった。 「熊田さんは褒め上手ですね」 「いや、実は今の話は全部受け売りなんだよ」 「誰のですか」 「大樹さん、つまり瑞樹の父親に、俺が言われたことなんだ」  また一つ貴重なことを教えてもらった。  この世では会うことが出来ない、瑞樹の実父の想いに触れたようだ。  熊田さんの言葉は、まるで大樹さんが俺に語りかけているようで、心にぐっと響いた。  出会いは必然。    お互いの役目を担って、ここにいるんだ。

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