1873 / 1878
しあわせ図鑑 57
朝のログハウスには、澄んだ光があふれていた。
カーテン越しに差し込む日射しが、木の床に柔らかな木漏れ日をつくっている。
「お兄ちゃん、起きた?」
「あ、芽生くん、もう起きたの?」
「うん、昨日、ぼく、どこで寝ちゃったの? 気付いたらベッドにワープしてた」
「おじいちゃんが運んでくれたんだよ」
「わぁ、すごい。ボクのおじいちゃんは力持ちだからすごいよね」
「そうだね」
朝からほっこりする会話だな。
芽生くんは本当にはつらつとしていて可愛いよ。
「あれ? パパはどこ?」
「そういえばどこだろう?」
急に不安になると、芽生くんが手を引いてくれた。
「大丈夫。探しにいこう!」
階段を降りると、キッチンから、楽しげな声と炊きたてのご飯の匂いが漂ってきた。
「宗吾くんのおにぎりは、ずいぶん大きいな」
「育ち盛りがいるもので」
「なるほど、じゃあ俺ももっと大きく握ろう。もうちょっと太ってもいい子がいるからな」
宗吾さんとくまさんが並んで、ジーンズの生地で出来たエプロン姿でおにぎりを握っている。白い湯気の立つご飯を、大きな手のひらでぎゅっ、ぎゅっと包み込む二人の姿は、なんだか微笑ましい。
その様子を、芽生くんと一緒に少し離れたところから見守った。
「お兄ちゃん、あれボクのかな?」
「うん、絶対に芽生くん用だね」
「やったぁ! 二個食べたい」
「二個も?」
朝から頼もしい食欲だと、思わず笑うと、宗吾さんがこちらを振り返った。
視線が合うと、宗吾さんはフッと甘い笑みを浮かべてくれた。
その距離が心地好くて、胸の奥が温かくなる。
「できたぞー」
その声と同時に、お母さんが庭の方から顔を出した。
「よかったら私の家庭菜園で野菜を収穫してくれない?」
誘われるまま、みんなで外へ出ると、大沼の朝の空気はひんやりとして、森の香りがした。
深く息を吸うと、心が落ち着いた。
真っ赤に実ったミニトマトを、お母さんがもいで手渡してくれた。
「さぁ、どうぞ。あなたの生まれ故郷の空気と太陽を浴びて育ったトマトよ。エネルギーになるわよ」
「いただきます」
頬張ると、瑞々しい甘さが広がった。
「うわ、甘い! 本当に、美味しいです」
自然と微笑みがこぼれる。
「おかわりしたい!」
「まぁ、こっちで自分でもぎでみる?」
「うん! おばあちゃんのトマト甘くてすごく元気でるね」
芽生くんの明るい声に、みんなが微笑んだ。
再び室内に戻り、朝食が始まる。
大きなおにぎり、焼き魚、もぎたてのミニトマト。
彩り豊かで、心が華やぐ。
ふと箸を持つ手を止め、壁を見る。
そこに飾られているのは、昨日お父さんに渡した、僕が撮った写真。
あれ?
昨日と同じ写真なのに、感じ方が違うな。
そうか……
置いてもらったではなく、ここに在るんだね。
すっかりこの家の一部として、しっくり馴染んでいる。
根を下ろしたような感覚が広がる。
隣から、宗吾さんが小さく囁いた。
「今日もいい顔してるな」
視線を向けると、宗吾さんがニカッといつものように明るく笑っていた。
この笑顔が好きだ。
僕を幸せにしてくれる。
すると芽生くんが、大きなおにぎりを両手で持ち上げる。
「いただきます!」
生命力に満ちた大きな声に、また新しい一日が始まったことを実感する。
ただ一緒に朝ご飯を食べる。
それだけで、こんなにも心満たされる。
見渡すと、写真も、笑顔も、ぬくもりもある。
ここは、僕の故郷。
そう、はっきりと思う朝。
ともだちにシェアしよう!

