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しあわせ図鑑 58
前置き
お久しぶりです。志生帆海です。
長らく休載してしまい、申し訳ありません。
エブリスタのエッセイを読んでくださる方はご存じかと思いますが、年末に父が永眠し、そのショックもあって物語を書くことができませんでした。
先日、四十九日の法要を終え、少し気持ちも落ち着いてきました。
以前のように毎日更新することはまだ難しいですが、心の赴くままに『幸せな存在』の世界を広げていきたいと思います。
またお付き合いいただけたら幸いです。
****
『しあわせ図鑑 58』
朝食のあとは、キッチンカーでのドーナッツ屋さんOPENの準備を始めた。
僕たちはログハウスの庭を清掃し、椅子やテーブルを並べた。
大沼の夏を全身で感じ、汗を拭うと、心が弾んだ。
ログハウスの台所では、お母さんとくまさんが仲よさそうに作業をしている。
お母さんの揚げたてのドーナッツ。
くまさんの豆から挽いた熱々のコーヒー。
僕の大好きな故郷の味が合わされば、そこには幸せしかないよ。
「瑞樹、お父さんもお母さんも生き生きしているな」
「はい、二人で力を合わせてやることがあるのが嬉しいのだと思います」
「本当にそうだな」
ずっと心配そうに見守られていた僕は、もういない。
今は僕は僕の力で、宗吾さんと芽生くんの横に立っている。
そう思えることが、心から嬉しかった。
そこにくまさんの声が響く。
「宗吾くん、瑞樹、芽生坊~ こっちに来てくれ」
「あ、はい!」
「瑞樹、行こう」
「お兄ちゃん、早く行こう」
さり気なく芽生くんが両手を差し出してくれたので、僕と宗吾さんはその手を握った。
大きな逞しい手
成長していく手
優しくあったかい僕の家族。
繋がっている。
今日も僕たちは繋がっているんだ。
駆け寄ると、ログハウス前のテーブルに熱々のドーナッツが並んでいた。
「瑞樹、味見してくれる?」
「うん!」
ハチミツのかかったドーナッツは、優しい甘さだった。
「あ……美味しい」
「ハチミツの味もいいですね」
「大樹さんのハチミツだからな」
「え? くまさんのハチミツじゃ……」
「もともとはハチミツ作りも大樹さんが教えてくれたんだ」
「そうだったのですね。お父さんは何でも出来てすごい人だったんだ……」
思わず感想を漏らすと、くまさんがポンッと肩に手を置いてきた。
「大樹さんは、最初は何にもできなかったんだ。都会の人で……でも、なんでもできるようにたゆまぬ努力をしたんだ。それは澄子さん、みーくん、なっくん、そして俺のためでもあったんだろうなぁ」
そうか……そうだ。
父もきっと、大切な人の隣に立ちたくて努力していたのだろう。
守りたい人のそばで、胸を張って笑っていたかったのだ。
今の僕も同じだ。
宗吾さんの隣で、芽生くんのそばで、ちゃんと立っていたい。
守られるだけの僕ではなく、支えられる僕でありたい。
父が重ねた努力の先に、今の僕がいる。
だから僕も、大切な人のために重ねていきたい。
「瑞樹、いい顔だな。生前の大樹さんを思い出すよ」
その言葉に、明るい笑みがこぼれた。
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