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しあわせ図鑑 61

 芽生くんが、ケースの中から折り紙を慎重に取り出す。  選んだのは、少し明るい黄緑色。  太陽の光を浴びた葉っぱのような色だった。 「えっと、まず三角にするんだったよね」  角と角をきちんと合わせ、ゆっくりと半分に折る。  その瞬間、すっと表情が引き締まる。  真剣な眼差しだ。  仕事に打ち込む宗吾さんと、同じ顔つきだ。  やっぱり芽生くんは宗吾さんに似ているな、と胸の奥がやわらかくなる。  小さな指が折り目をなぞるように、すーっと滑る。  もう一度三角に。  ぎゅっと指先に力を込め、しっかりと折り目をつけ、それから三角の片側を、ふわりと丸く広げるのを折り返す。すると開いた先が、やさしい丸みを帯びる。 「うまくできるかな?」  小さなハートが二つ並んでいる。それをくるりと裏返して、また少し折ると、四枚の葉っぱが無事に出来上がった。 「できた!」  四つ葉のクローバーコースターの完成だ。  いつもならここで終わりだが、芽生くんはさらに指先でそっと形を整え、真ん中をぎゅっと押さえて平らにした。 「ちゃんとグラスをのせられるようにしないとね」 「そうだね」 「お客様に出すから、いつもよりもっと丁寧に作ったんだ」  そうか……相手のことを思いながら動けるようになったんだね。  いつの間に、こんなに成長したのかと、出来上がったクローバーのコースターを見つめながら、誇らしい気持ちになった。 「お兄ちゃん、グラスをこの上に置いてみていい?」 「うん」  その上にそっとグラスを置くと、緑の葉っぱがひょこっと顔をのぞかせた。  なんだか可愛いな。 「お兄ちゃん、これって、まるで『しあわせをどうぞ』って言ってるみたいだね」  芽生くんの表現、素敵すぎるよ。 「いい表現だね」 「ありがとう! よーし、もっと作るよ。緑色だけじゃなくていいよね。カラフルにしても、いろんなしあわせがあるしね」 「いいね」  赤、黄色、青、カラフルなクローバーのコースターが、次々と出来上がっていく。 「使ってみてもいいかな?」 「本当に使ってくれるの?」 「もちろんだよ」  切り株ベンチに座るカップルの前にコースターを並べると、女性がふわりと笑った。 「あら、かわいいコースターね。あなたの手作りなんですか」 「いえ、僕じゃなくて……弟が作ったんです」  一瞬だけ迷いながら答えると、彼女は目を丸くした。 「わぁ、アットホームなお店なんですね。家族みんなでって、素敵ですね」  その言葉が、胸に沁みる。  家族みんなで――  このお店は、くまさんとお母さんの夢だったが、今は、僕たちみんなの夢になっている。  芽生くんは出来上がったクローバーのコースターを抱えて、得意げに立ち上がる。 「はい、しあわせをどうぞ!」  親子連れのテーブルに、にこにこと差し出す。  小さな男の子が、それをうれしそうに両手で受け取った。 「わあ、ほんものみたい」  その瞬間、爽やかな風がふわりと吹き抜け、コースターがひらりと空高く舞い上がった。  偶然、風に乗っただけ――  でも僕には、見えたよ。  幼い夏樹の小さな手が。  両親の優しい笑顔が――  蜜が蜜を呼ぶ。  笑顔が笑顔を呼ぶ。  そしてしあわせはしあわせを呼ぶんだね。  宗吾さんは空を見上げ、にやりと笑う。 「やっぱり俺たちのがんばり、雲の上の世界からもちゃんと見てくれているんだな」  僕は素直に頷いた。  森のくまさんのドーナッツやさんは、ただ甘いお菓子を売る場所じゃない。  しあわせという蜜を分け合う場所なんだと、思ったから。

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