1877 / 1878
しあわせ図鑑 61
芽生くんが、ケースの中から折り紙を慎重に取り出す。
選んだのは、少し明るい黄緑色。
太陽の光を浴びた葉っぱのような色だった。
「えっと、まず三角にするんだったよね」
角と角をきちんと合わせ、ゆっくりと半分に折る。
その瞬間、すっと表情が引き締まる。
真剣な眼差しだ。
仕事に打ち込む宗吾さんと、同じ顔つきだ。
やっぱり芽生くんは宗吾さんに似ているな、と胸の奥がやわらかくなる。
小さな指が折り目をなぞるように、すーっと滑る。
もう一度三角に。
ぎゅっと指先に力を込め、しっかりと折り目をつけ、それから三角の片側を、ふわりと丸く広げるのを折り返す。すると開いた先が、やさしい丸みを帯びる。
「うまくできるかな?」
小さなハートが二つ並んでいる。それをくるりと裏返して、また少し折ると、四枚の葉っぱが無事に出来上がった。
「できた!」
四つ葉のクローバーコースターの完成だ。
いつもならここで終わりだが、芽生くんはさらに指先でそっと形を整え、真ん中をぎゅっと押さえて平らにした。
「ちゃんとグラスをのせられるようにしないとね」
「そうだね」
「お客様に出すから、いつもよりもっと丁寧に作ったんだ」
そうか……相手のことを思いながら動けるようになったんだね。
いつの間に、こんなに成長したのかと、出来上がったクローバーのコースターを見つめながら、誇らしい気持ちになった。
「お兄ちゃん、グラスをこの上に置いてみていい?」
「うん」
その上にそっとグラスを置くと、緑の葉っぱがひょこっと顔をのぞかせた。
なんだか可愛いな。
「お兄ちゃん、これって、まるで『しあわせをどうぞ』って言ってるみたいだね」
芽生くんの表現、素敵すぎるよ。
「いい表現だね」
「ありがとう! よーし、もっと作るよ。緑色だけじゃなくていいよね。カラフルにしても、いろんなしあわせがあるしね」
「いいね」
赤、黄色、青、カラフルなクローバーのコースターが、次々と出来上がっていく。
「使ってみてもいいかな?」
「本当に使ってくれるの?」
「もちろんだよ」
切り株ベンチに座るカップルの前にコースターを並べると、女性がふわりと笑った。
「あら、かわいいコースターね。あなたの手作りなんですか」
「いえ、僕じゃなくて……弟が作ったんです」
一瞬だけ迷いながら答えると、彼女は目を丸くした。
「わぁ、アットホームなお店なんですね。家族みんなでって、素敵ですね」
その言葉が、胸に沁みる。
家族みんなで――
このお店は、くまさんとお母さんの夢だったが、今は、僕たちみんなの夢になっている。
芽生くんは出来上がったクローバーのコースターを抱えて、得意げに立ち上がる。
「はい、しあわせをどうぞ!」
親子連れのテーブルに、にこにこと差し出す。
小さな男の子が、それをうれしそうに両手で受け取った。
「わあ、ほんものみたい」
その瞬間、爽やかな風がふわりと吹き抜け、コースターがひらりと空高く舞い上がった。
偶然、風に乗っただけ――
でも僕には、見えたよ。
幼い夏樹の小さな手が。
両親の優しい笑顔が――
蜜が蜜を呼ぶ。
笑顔が笑顔を呼ぶ。
そしてしあわせはしあわせを呼ぶんだね。
宗吾さんは空を見上げ、にやりと笑う。
「やっぱり俺たちのがんばり、雲の上の世界からもちゃんと見てくれているんだな」
僕は素直に頷いた。
森のくまさんのドーナッツやさんは、ただ甘いお菓子を売る場所じゃない。
しあわせという蜜を分け合う場所なんだと、思ったから。
ともだちにシェアしよう!

