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遥とスーパーマーケットサノヤ
ジョンを見送った遥は、小さく首を傾げてから、飛び上がった。
「いっけない、今日はサノヤに行かなきゃいけないのよー! ビニールの手提げ袋もお金がかかるから、エコバッグ持って行かなきゃいけないのん!」
家の中へ駆け込み、財布とエコバッグをポケットに押し込んで、両手両足をまっすぐのばして大きく振って商店街を目指した。
「今日は5のつく日、500円ぴったりお買い物すると、ポイント5倍もらえるのん! 1の位は全部0か5だから、暗算で大丈夫なのん」
遥は商店街のアーケードに差し掛かってからは、行進するように手足を動かしたままスキップに切り換えた。
「るんたった、るんたった。♪さるっ、ごりら、ちんぱんじー! ジョンっ、はるか、りょうじー♪ るんたった、るんたった」
緑色の看板に白抜きで『スーパーサノヤ』と書いてある下に立つと、小さく口を開け、心持ち目を見開いて遥を見ている青年がいた。
遥は両足を揃えて飛んで、青年の隣にぴょんっと並んで着地した。
「お買い物えらいの~ん。ご飯のおかずかしらん? 遥ちゃんは今日はコロッケ! うちの稜而はコロッケを飲み物みたいにたくさん食べちゃうの~ん」
それだけ話すとカゴを持ち、品揃えを見渡して、野菜盛り200円(税込)に手を伸ばした。
野菜盛りはひとつのビニール袋の中に、数種類の野菜が入っている。中身や配分は袋によって違っていて、遥はじゃがいもが多めに入っている野菜盛りを見つけてカゴに入れ、嬉しそうに目を細める。
「遥ちゃんのコロッケは下味が濃いめだからそのままたべられるのよー」
店内は商品が迫り出していて通路が狭く、ナスと人参が二本ずつ入った野菜盛りをカゴに入れて後ろをついて歩いてくる青年に聞こえるように、自慢げに大きな独り言を言った。
「大きなトマトが二個で50円! かつお節としょうがの千切りとオイルと漬け込んでおかずサラダにするんだわ~」
大きな独り言でレシピを教えてあげながら、遥は店の精肉売り場まで歩く。
「コロッケには合い挽き肉~100グラム65円! まぁまぁですのん。沢山作るから200グラム!」
遥が200gのパックをカゴに入れる後ろで、青年は100gのパックに手を伸ばした。その指先が美しく整っているのを遥は関心を持って見つめたが、冷凍食品のコーナーで悲鳴を上げた。
「ああ~ん! バニラアイスクリーム業務用がお買い得なの~ん。でもあと120円しかないのよ~~!」
顎の下で両手を握りこぶしにし、イヤイヤとミルクティー色の髪を振った。
遥は名残惜しそうにアイスクリームの前を離れ、カゴの中の商品をひとつずつ指さして計算して、周囲を見回した。
「お味噌汁に油揚げとお豆腐~いつものお豆腐と違うけどいいのん。今日はピッタリお買い物するのん!」
45円の油揚げと、75円の絹ごし豆腐をカゴに入れ、よしと頷いてレジに並んだ。
会計はぴったり500円で、ポイントカードにはポポポポポンとスタンプを押してもらえた。
遥は財布の中を見た。小銭はピカピカに光る500円玉1枚のみ。
「500円……。あーん、でもでもこの500円玉は使えないんだわ! すみません、1,000円でお釣りをくださいませませ」
くすんだ500円玉のお釣りを受け取り、持参したエコバッグに買ったものを詰めると、周囲の人に「ごきげんようですの~ん」と挨拶して、スキップでサノヤをあとにした。
「使わないで、ずっと大事にとっておく500円玉があってもいいのん! るんたった、るんたった」
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