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第3話
「……ただいま」
「おかえり」なんて、返ってくるはずないと思っていても癖でつい言ってしまう。
静まり返ったリビングを抜け、寝室のドアに手をかけ中に入ると……そこにはやっぱり亜季の姿はなかった。
「亜季……どこに行ったんだ」
情けないことに、こんなに亜季がいないことが辛いとは思わなかった。
事故の時も死ぬほど心配したし、辛かった。
だけど、亜季はずっと俺の傍にいてくれた。
だけど、今は……
「亜季……」
オーナーから帰り際言われた一言を思い出し、目頭が熱くなっていく。
『亜季くんを幸せにできる男はお前だけだろ。今二人に必要なのは何かちゃんと考えろ』
二人に必要なこと……
亜季が記憶を無くしてから、俺たちはどんな毎日を送っていたか思い返してみる。
俺には何が足りなかったのか……
それから、記憶を無くす前の亜季から、とあることをよく言われていたことを思い出す。
『政宗は────』
そのことをふと思い出していた矢先、玄関の方で微かに音がした気がした。
もしかして……
そう思った次には身体は玄関に向いていて、
「亜季っ!」
咄嗟に呼んだ声。
すると、それにびっくりしている亜季がそこに立っていた。
「政宗……」
「よかった……帰って来てくれて」
「……ごめん、家出とか子供じみたことして」
「いや、謝るのは俺の方だ」
そして気まずそうに俯きながら佇む亜季を引き寄せると強く抱きしめた。
「ごめんな、俺がもっとしっかりしていたら……もっと気持ちを言葉にしていたら」
『政宗は全部を抱え込みすぎるんだ。もっと俺を頼ったり、言葉にして気持ちを伝えないといつか自滅する時が来る』
そう昔よく言われてた末路がこれだ。
だから、亜季が帰って来てくれたら自分の気持ちを全て話そう。
そう思っていた。
なのに、亜季からの言葉に一瞬で身体が固まる。
「……政宗が、前の俺がいいんじゃないかって過去の自分に嫉妬してた。だから、そんな自分が嫌になって……」
「嫉妬……」
「うん……だから、家出を……」
「何言ってるんだ。前も今も亜季には変わりないんだからそんなはずないだろ。今の亜季だって大好きだよ」
抱きしめる腕に力を込めてそう告げると、「でも……」と煮え切らないまま。
そんな亜季が小さな声でぽつりぽつりと続きを話し出す。
「……政宗は、キスはしてくれるけど……それ以上ってしてくれない……だから、やっぱり今の俺じゃダメなんだって」
それは思いもよらないことだった。
俺が必死に我慢していたことは、結果、亜季からしてみたら余計に不安にさせていたことだった。
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